目標を失ったシニア世代にも生きがいを。おじいちゃんおばあちゃんが輝けるタレント事務所
インタビュー

目標を失ったシニア世代にも生きがいを。おじいちゃんおばあちゃんが輝けるタレント事務所

2021-04-08
#福祉・介護 #雇用創出

何歳になっても輝ける社会をめざして事業を展開する、株式会社アンコールプロダクションの平岡史衣。整形外科病棟の看護師として働く中で、生きがいを見失ったシニアの方々と出会い、おじいちゃんおばあちゃんが生きがいを感じられる場所づくりに取り組む。タレント事務所という形を選んだ理由や目指す社会について聞いた。

【プロフィール】平岡 史衣(ひらおか ふみえ)

株式会社アンコールプロダクション代表。神戸大学卒。整形外科病棟の看護師としてキャリアをスタートし、その時の経験からシニア世代の「生きがい応援」に取り組むようになる。町中のおじいちゃんおばあちゃんにインタビューをする活動からスタートし、現在はシニアモデルの芸能事務所「アンコールプロダクション」やシニア向けスマホ教室を運営。

単発ではなく、継続的に関わってシニアの生きがい探しを応援

ー現在の事業内容を教えてください。

関西を中心に、50人くらいのシニアタレントさんが所属する芸能事務所「アンコールプロダクション」を運営しています。私のファーストキャリアは京都の急性期病院での看護師です。その中でおじいちゃんおばあちゃんたちが抱える課題を感じるようになりました。入院患者のシニアの方たちから「家に帰ってもやることがなく1人ぼっちや」「友達も、これからの人生の目標もないよ」という声を聞いたんです。そこで、入院患者さんたちが家に帰ってからの社会との接点を作ったり、目標を一緒に探していくことが大事なのではないかと感じるようになりました。

初めは、私自身がダンスをしていたことを活かして、介護施設で介護予防のダンスレッスンを実施していました。最初は看護師を続けながら取り組んでいたのですが、フリーランスになって活動を広げていくことにしました。活動を続ける中で、ある方に芸能事務所をやったらどうかというアイデアをもらい、今の形につながりました。


ータレントさんのお仕事の内容はどういったものですか?

まず、健康食品などのシニア向け商品や、介護施設のパンフレットのモデルをしていただく活動があります。他にも、シニアの方の特技を生かした活動も行ってもらっています。例えばギターが弾ける方であればイベントでパフォーマンスをしていただいたり、手芸品を出展される方、戦争体験を学校で話す講演をされる方もいらっしゃいます。

ーおじいちゃんおばあちゃんの生きがい応援という目標達成の手段として、なぜ芸能事務所という形を選ばれたのでしょうか?

以前は単発での関わりで生きがい探しの応援に取り組むという形でしたが、もっと継続的にシニアの方と関係を持って取り組んでいきたいという思いがあったからです。芸能事務所という形であれば、継続的に所属するシニアタレントの皆さんの生きがい応援ができると思いました。

元々芸能事務所の知識がなかったので、仕事を紹介していただいたり、ノウハウを確保していくのは大変でした。ですが、知り合いのつてで芸能関係の人を紹介していただいたりしたことで、乗り越えていくことができました。それから、本格的に芸能事務所を始めるにあたって、おじいちゃんおばあちゃんを説得して、タレントになってもらうことのハードルも高かったですね。最初は戸惑われる方が多かったんですが、慣れてくると「もっと仕事がしたい」と言ってくれるようになる方も出てきました。元々杖をついていた方が、人前で踊って杖を手放せるようになるなど嬉しいエピソードもありました。そういった部分も含めて、やってみないと分からなかった部分は色々ありましたね。

 

思い切って看護師を退職し、新しい道に進んだ

ーファーストキャリアの看護師を退職するとき、悩んだり身近な人から反対されたりすることはありませんでしたか?

看護師を辞めるときは家族から心配はされましたし、自分でも不安はありました。ただ、それ以上に、元々好奇心が旺盛で、人と違うことがしたい性格だったことが大きいです。むしろ思い切って新しい道に進むことに対するワクワクがありました。有難いことに家族にも自分の思いを伝えたら、応援してくれたんです。ただ、今も副業やアルバイトの形で看護師の仕事は続けています。


ーアンコールプロダクションの事業は、平岡さんおひとりで行われていると伺いました。一人で新しい道に進む決意をされたのは本当にすごいと思います。

最初は本当に大変でした(笑)。先ほどもお話したように、芸能事務所という業態をどうやったらいいのか本当に知らなかったので、色々な人に聞くというところから始まったんです。ただ壁に直面したら誰かに相談をするようにしていたので、「とにかく動きながら聞くしかない」ということが学習できたことはよかったと思っています。

大変な反面、嬉しいこともありました。シニアの方が「平岡さんに出会ってよかった」「新しい世界に出会えた」ということを言ってくれたり、タレントさんのお孫さんなど周りの方から感謝された時は、事業をやってきてよかったと感じますね。


ーSNSで発信されている写真や動画も、全て平岡さんが作成されているのでしょうか?

はい。他の方と共同で開催するイベントに関係するものは作っていただくこともありますが、基本的には私一人で作成しています。動画編集などについては、インターネットで独学で調べたりしながら進めていますね。色々学んでみようという姿勢も好奇心旺盛な性格からくるのかもしれません(笑)。

ー最初は、個人事業主として事業に取り組まれていましたね。2020年の9月に法人化をすることを決めたのは何故だったのでしょうか?

理由の一つは、芸能事務所さんなどの法人を相手にやりとりをするようになる中で、自身も法人という形の方がやりやすかったことです。それに、安心してシニアモデルの皆さんに活躍してほしいという気持ちが大きかったという理由もあります。法人として体勢を整えて事業に取り組もうと考えたんです。

シニアの方の生きがい応援が第一なので、モデルさんの安心にはこだわっているんです。法人化以外の点では、負担になる仕事を受けることにならないよう、「こういう依頼があるんですけど…」と話をして、モデルさんの気持ちを大事にするようにしていますね。

 

看護師としてのコミュニケーション能力やつながりを事業に生かす

ー看護師として働かれていたことが、今の事業に活きていると感じることはありますか?

タレントさんと接する上で、看護師として培ったコミュニケーション能力が活きていると思います。例えば、健康面で軽い認知症やてんかんなどの疾患を抱えられているタレントさんもいらっしゃいます。そういった方との接し方は、看護師として働いていた時の患者さんとの接し方に似ています。それから、看護師として働いていた時の介護や医療関係のつながりが、お仕事につながることもあります。


ー介護施設でのダンス教室なども継続されているそうですね。

はい。昭和歌謡に合わせて振り付けを作って、施設の皆さんに一緒に踊っていただくイベントです。最近では、コロナ禍で介護施設に行くことは少なくなってしまいましたが、徐々に再開していきたいと思っています。

対面でのイベントなどは減ってしまいましたが、新しい取り組みのきっかけにもなりました。例えば最近では、オンラインでつながりが続けられるように、シニア向けのスマホ教室を始めました。スマホは持っているものの使いこなせなかった、というシニアの方たちと、オンラインでつながれるようになりましたね。

 

シニアが輝くことで、若者も希望を持てる社会を作る

ー社名の「アンコールプロダクション」の由来を教えてください。

アンコールプロダクションの「アンコール」は、もう一回ステージに立つということです。歳をとったからといって目標を持つことを諦めるのではなく、何歳になっても輝きステージに立つことができるということを証明したいと思っています。そのために一緒に活動をしていく存在になれればと思い、命名しました。


ーアンコールプロダクションでは「シニアが輝くことで若者も希望を持てる社会を作る」ことをミッションにされていますね。おじいちゃんやおばあちゃんが生きがいを持つことは、具体的にどう若者へ還元されるとお考えでしょうか。

おじいちゃんおばあちゃんの生きがいを一緒に作っていくとともに、若者とシニアをつなげることでミッションを達成していけると思っています。例えば、実際に若い方々から、60歳からDJを始めたタレントさんを見て「何歳になっても挑戦するって遅くないんだなあ、自分も目標を持って頑張ろうと思った」という声や、85歳でステージでダンスパフォーマンスをするおばあちゃんを見て「自分もおばあちゃんになったらこんな元気で可愛いおばあちゃんになりたい」などの声が上がっていました。またシニアを元気にすることで医療費の削減にもつながっていくと思います。


ー今後の事業展開について教えてください。

現在モデルさんたちには、健康食品や介護施設などのモデルとして活動していただいていますが、今後はさらに色々な場所にタレントさんが出ていけるようにしたいと思っています。そのために、シニアの方たちのスキルアップのレッスンなどを始めていきたいですね。コロナ禍もあり今すぐには動き出せない部分も多いですが、芸能事務所としてスキルや営業力を向上させて、活動を広げていきたいです。


ー最後に、事業を通じて作りたい社会像について教えてください。

アンコールプロダクションの事業における使命は、シニアの方たちに第二の人生で輝いてもらって、その姿を通じて社会にインパクトを与えることです。若者にも「自分も将来あんなおじいちゃんおばあちゃんになりたい」と思ってもらえるように、楽しい活動を展開していきたいと思っています。

 

アンコールプロダクション https://encore100.com/about/

 

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    interviewer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

     

    writer

    掛川悠矢

    メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

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