「政治のDX」で、政治をもっと使いやすく。行政制度の7割が利用されない現状を変える

日本の行政手続のうち、年間で1回以上利用されるものは約27%に止まる。制度が必要とする人に使われていない現状を変えようと挑戦する、株式会社POTETO Mediaの代表・古井康介。クライアントの政治家らといかに信頼関係を築いてきたか、一般企業への内定を辞退して事業継続に踏み切ったのはなぜなのか、また今後目指す社会についても聞いた。

【プロフィール】古井 康介(ふるい こうすけ)
株式会社POTETO Media代表。慶應義塾大学在学中に設立した学生団体を法人化。政治について分かりやすく発信するメディア「POTETO」の運営や、政治家のPR活動を動画やグラフィックを用いてサポートする事業を展開している。「分かりづらく、使いづらい」政治の世界に、デジタルとクリエイティブの力で変革を起こそうと奮闘する。1995年生まれ。

政治の世界を、もっと分かりやすく

ー現在の事業について教えてください。

「政治を、分かりやすく」をモットーに、政治家専門の広告代理店事業と、行政の情報を分かりやすく発信するメディア事業、それから高校で出張授業を行う主権者教育事業を行っています。日本では一般の人にとって政治が難しくて分かりづらいものになっているので、いかに政治について分かりやすく伝えるかというところに軸を置いて事業をしています。

 

ー3つの事業を行われているんですね。それぞれについて詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?

まず広告代理店事業では、大臣や省庁、議員の方々の広報戦略に関わらせていただいています。昨年は西村新型コロナ対策担当大臣の広報を担当させていただきました。若者への発信をされたいということで、動画を作成することになったのですが、内閣官房の官僚に作成いただいた初稿が遠回しな表現で分かりづらくて(笑)。いろいろと配慮されているのは十分分かったのですが、本当に伝えたい、「マスクをつけて欲しい」「体調が悪かったら外出しないで欲しい」といったメッセージをストレートに伝えさせていただき、動画を作成しました。こうして広報現場から一歩引いて、メッセージを発信する・受け取る両面から客観的に見た上で、動画制作できました。

 

ー公的な文書って、婉曲表現になってしまいがちですね。その原稿からどんな動画になったんでしょうか?

若者向けの最初のメッセージだから、スーツでカメラに向かって、結論から伝えるようにした方がいいですよとアドバイスをしました。若者向けの動画では変にアニメーションを入れてしまうものもありますが、そうではなく端的なものがいいと考えたんです。そうして撮らせていただいて、編集した動画は、西村大臣の動画の中では1番となる50万回再生を記録しました。

その中で、政治の情報が欲しい人たちに欲しい形で届くということをとても大事にしました。普段から、クライアントの政治家が考えていることが、届けたい人にどうすれば届くのか考えながらコンサルティングや制作をしています。

 

日本の行政手続がほとんど使われない現状を変える

ー次にメディア事業についてお聞きしてもよろしいでしょうか?

POTETO」と「POTOCU」の2つのメディアで、政治について分かりやすく発信しています。ちなみに「POTOCU」は「politics(政治)でお得」からつけていて、新型コロナ関連の制度をまとめたものです。政治について幅広く発信する「POTETO」と、SNS発信を並行して進めています。今、日本には約58,000件の行政手続があるのですが、1年間のうち1回以上使われているものは約27%しかないんです。残りの7割のうち4割は1回も使われず、3割は使われているかどうか捕捉もできない状態だそうです。


ーほとんど使われていないんですね・・・。

はい、日本の行政手続はほとんど使われていないというのが現状なんです。一方、母子家庭の人たちに対する厚労省の調査によると、30種類くらいの母子家庭向けの制度に関して「知っていたら使いたかった」と回答した世帯が26%いたそうです。それを知って、作られた制度が、欲しいと思った人に適切に届いていないのは問題だなと思うようになりました。今は制度の情報をグラフィックや記事を通して適切に発信しています。

昨年はクラウドファンディングで最初の資金を集め、1年を通してグラフィックで色々な制度について発信していたのですが、デザイナーを雇うのにかなりのお金がかかることに気付きました。営業利益を生むのが難しかったんです。継続的に発信するためにはどうしたらいいか考えて分かったのが、「政治家の人たちには、私たちにお金を払って制度の発信をするインセンティブがある」ということです。

そこで、広告代理店事業においても地方議員の方々のお手伝いをしていく中で、メディア事業で作成した制度についてのグラフィックをSNS発信などに二次利用してもらうことができるようにしました。工夫を積み重ねて、制度についての発信事業を継続的に行っていけるように取り組んでいます。

*「行政手続等の棚卸結果等の概要」内閣官房IT総合戦略室 , 総務省https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/Inventory_overview.pdf

 

自民党総裁選に関わるため、一般企業の内定を辞退

ー3つの事業の展開はどのような順番だったのでしょうか?

もともと学生団体としてTwitterとYouTubeで展開する政治メディアを始めました。制作していた動画に反響があったので可能性を感じ、いろいろなところに売り込んでいったところ、立憲民主党の菅直人さんからプロモーションのお仕事をいただけることになったんです。

菅直人さんは2011年に総理を辞職してから、小選挙区で選挙に勝ったことがありませんでした。比例代表での勝利はありましたが、選挙で名前を書いてもらわなければ勝てない小選挙区では苦戦続きだったんです。でも僕たちがサポートさせていただいたこの年の衆院選で、菅さんは議席を奪還しました。


ー元総理からお声がかかる時点ですごいですが、そこでしっかり成果を出されているのが素晴らしいです。

そこからさまざまな政治家の方からお声がかかるようになりました。この頃には一般企業の内定をいただいていたのですが、実は自民党の総裁選に関わりたいという目標がありました。大学在学中にアメリカやフランスの大統領選の活気を現地で目の当たりにしていたので、事実上日本の政治リーダーを決める自民党総裁選を盛り上げることで活動の集大成にしたかったんです。

それで内定をいただいていた企業に「半年くらい入社の先延ばしできませんか?」と相談をしました。結果的にそれが難しいという話があって内定辞退し、一般就職はしないで事業を継続することになったんです(笑)。

 

ー事業を続けられたい思いが強かったんですね。その後、石破茂さんのプロモーションに関わられたんですよね?

はい。2018年の自民党総裁選では、石破さんに半年くらい張り付いて、SNSで認知をどう広げていくかという活動をしていました。具体的には「47都道府県のみなさまへ」と題して、各都道府県に向けた47本のメッセージ動画を作って発信しました。投票権を持つ自民党の人たちは地元が大好きな人が多いので、都道府県ごとのメッセージが刺さり石破さんの支持獲得につながったと評価してもらえました。

結果としては安倍晋三さんの勝利に終わったんですが、党員票では45%の票を獲得するなど、現職の安倍さんに対して善戦だったと評価されました。さらに「次は来年の参議院選挙があるんだけど・・・」とまたお仕事もいただけることになって。20代で政治家の方の動画を撮らせていただく機会なんて普通はないことなので、毎回いかにベストパフォーマンスを出すかを考えてきました。

 

自分が制度に助けられた経験から、政治に関心を持った

ー古井さんが政治に関心を持つようになったきっかけを教えてください。

自分が制度に助けられた経験から政治に興味を持つようになりました。子供の時は家にお金がなくて、壊れた冷蔵庫すら買い替えられず、スーパーの無料の氷を冷蔵庫に入れて食べ物を冷やしているような状態で。お金がないと親が余計なことで喧嘩することも多くて、辛い思いをしていました。

やがて大学受験をする時期になったのですが、お金がないので地元の国立大学以外の選択肢がないと思っていました。でも、僕は東京に出たかったんですよね。その時に助けてくれたのが奨学金でした。弟が2人いるのですが、彼らも授業料免除と給付型奨学金を使って進学することができました。そのような経験から、政治や制度って使った者勝ちだと思いましたね。

 

ーそこから行政に関する情報を分かりやすく発信するアイデアが生まれたんですね。

はい。みんなのために作った制度は必要な人のもとに届いて欲しいと思いました。政治ってうまく使えばちゃんと助けてくれるものなので、みんなが使いこなせるものになって欲しいと思っています。

 

ー発信において気をつけられていることなどはありますか?

メディア事業においては、いいことも悪いことも両方伝えるということですね。政治現象においては賛成と反対があり、それぞれにはそれぞれの論理があります。両方の言い分を紹介した上で、賛成反対は皆さんが決めてくださいという立場をとっています。

私たちは主権者、つまり国のオーナーなので、各々が決めればいいんです。ただ、決めるには情報が必要になりますよね。企業の株主は株主総会で説明を受けるし、IR情報が開示されていて初めて投資ができます。その点、政治の場合は情報が少ないし、偏っているし、訳がわからないので判断ができません。

本来、有権者にはそれぞれの困りごとがあって、問題を解消するパートナーとして選ぶべき政治家というのがいるはずです。例えば進学資金に困っている人であれば、奨学金制度を改革してくれる政治家を選びたいですよね。自分の困りごとを解決してくれる政治家は誰なのかを知るための情報が得られるようにしたいと考えています。

 

会社は、人でできている

ー今まで事業をやっていて、一番大変だったことはなんでしょうか。

学生団体から法人になる時に、仲良い人たちと楽しくやりたいという気持ちだけではやっていけないと感じたことです。友人関係から、利害関係が明確に発生する関係に転換するタイミングは、不和もあって辛かったです。それに自分は卒業後もPOTETOをやり続ける一方、同級生は就職していくので、新しくメンバーを集めなければいけませんでした。

 

ー新しくメンバーを集めていく際はどのようにされていたのでしょうか?

最初は業務委託で入ってもらって、形を作っていました。それから段々と、新聞社やIT企業から転職してきてくれる人も受け入れていきました。大企業から入ってきてくれる人たちは元々組織がしっかりしたところから来ているので、彼らに見合うように組織のあり方を一つ一つ構成していって、今に至ります。人に関することは大変でしたが、大変な時に助けてくれたのも人だったと感じていますね。

現在業務委託で動画クリエイターをやっている人がいるんですが、POTETOに入る前は前職の仕事が減っていって、困っていたようでした。彼女を紹介してくれたクリエイターさんが、「ちゃんと雇用を生み出して、会社としてやってるのって本当にすごい!紹介した俺が嬉しいわ!」と言ってくれて。やっていてよかったと感じるのも人に関することが多く、本当に会社って人でできているんだなと実感します。

 

実現したいのは、「生きたい人生を生きられる社会」

ー今後古井さんが目指されたい社会はどんな社会でしょうか?

誰もが「生きたい人生を生きられる社会」を実現したいです。自己実現、とも言うのかもしれませんが、それだと夢を持っている人だけのためな感じがしてしまいます。もっと砕けた感じで、「生きたい人生を生きられる」と言うようにしています。

生きたい人生って、みんなバラバラです。「こうやって生きていきたい」と思った時に、その生き方が人に迷惑を掛けていなければ、叶えられるべきです。生まれ持った条件で、自分の生きたい人生が阻害されるなんて悔しい、と思うんです。だから、生きたい人生を阻害する壁は、政治の力で壊していかないといけません。

政治は、困った時に背中を押したり、助けてくれる「武器」のようなもので、みんなが使いこなせるようなものになればいいなと思います。具体的には、
・必要な人に政治制度が届く
・自分が困っている時、解決するためにはどの政治家を選べばいいのか分かる
・みんなの困っていることが政治に反映されて流通していく
ということを実現したいと思っていて、そのために必要なのは「政治のDX(デジタルトランスフォーメーション)*」なんです。みんなの困りごとを政治が汲み上げて、作った制度が流通していくためには、あらゆるものをデジタル化しないといけません。そんな理想の社会を実現するために、今、事業を行っています。

*DX(デジタルトランスフォーメーション)・・企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(参考:経済産業省

 

株式会社POTETO Media https://poteto.media/about-us/
POTETO https://poteto.media/
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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。