「食べ物を大切にする社会」を目指し、作り手と受け手をつなぐ。特殊冷凍機の専門商社と農家が共に挑む、フードロス事業

特殊冷凍機の専門商社として、冷凍技術を活かしフードロス事業に取り組むデイブレイク株式会社の木下瑠里。そして、みかんを通して水俣病について伝えたいという想いで柑橘の無農薬栽培・販売を行うからたちの大澤菜穂子。それぞれの立場でフードロス事業に取り組む2人に、協業の理由や事業を通して作りたい未来について聞いた。

写真左からデイブレイク木下昌之さん、右からデイブレイク木下瑠里さん、からたち大澤菜穂子さん

※現在は事業を終了しています。

【プロフィール】
木下 瑠里(きのした るり)

デイブレイク株式会社フードロス削減事業、商品開発・加工場統括。創業1年目に入社し、特殊冷凍の研究をしながら「HenoHeno」の商品開発に取り組んでいる。

 

大澤 菜穂子(おおさわ なほこ)

からたち事務局。両親の想いを引き継ぎ、30代で地元の水俣市に帰郷。2016年に兄弟で「からたち」を立ち上げ、無農薬栽培のみかんを販売している。

 

特殊冷凍機の専門商社がフードロスに取り組むまで

—まず、デイブレイクの木下さんにお伺いします。フードロス事業について教えてください。

木下瑠里(以下、木下):全国の農家さんから届くフルーツや野菜を特殊冷凍で加工し、国産であること、無添加であること、体にも環境にもうれしいことにこだわったフローズンフルーツブランド「HenoHeno」を作っています。デイブレイク株式会社は特殊冷凍機の専門商社です。私たちの特殊冷凍の技術を活かして、本来はフードロスになってしまう食材を買い取り、完熟のフルーツや野菜を新鮮なうちに冷凍し、素材そのままの味をとじこめ生産者のこだわりや想いも一緒に生産者に届けることで、フードロスの削減に取り組んでいます。

 

—どのような経緯でフードロス事業を始められたのですか?

木下:弊社には様々な特殊冷凍機を取り揃えたテストルームがあり、日々あらゆる食材と特殊冷凍機の相性や凍結の仕方、保存方法、解凍方法などを研究しています。生産者の方々とコミュニケーションを取る中で、作った果物や野菜が少しの傷や大きさのバラつきで規格外になったり、豊作すぎて出荷できなかったりというフードロスの問題が深刻であることがわかってきました。そのようにフードロスに悩まれている農家さんの一人に、商品のぶどうを一度凍結して解凍してからまた店頭に並べたいという方がいらっしゃいました。それをなんとか実現できないかと実験を重ねていたのですが、どうにも難しくて。そんな中、あるとき-35度で凍らせたぶどうを恐る恐る口にしてみたんです-35度って食べたことがなかったので、当然硬すぎて噛めないと思っていたのですが、それが数秒で歯が通るくらいに柔らかくなるし、風味も生と変わらずとても美味しかったんです。これがHenoHenoの商品の着想を得たきっかけとなりました。

 

—HenoHenoの商品について教えてください。

木下:現在はそのまま食べられるフローズンフルーツ、時短調理に役立つ冷凍野菜、そしてスムージーを取り扱っています。HenoHenoのフローズンフルーツが一般的なフローズンフルーツと違う点として、食感、風味、色があげられます。フルーツを家庭で冷凍したら、食感がじゃりじゃりしていたり、硬くて噛めないなんていう経験、みなさんもありますよね。これには冷凍温度が関係しています。食べ物の中の水分が結晶に変わる時、ゆっくりな速度で凍らせると結晶がどんどん大きくなり、細胞膜を破ってしまいます。そうすると旨味成分が抜けてしまったり、結晶が大きい分、食感がじゃりじゃりしてしまうんです。一方で、私たちが持つ冷凍技術では、低い温度で素早く凍結することで結晶が小さくなり、サクサクした食感になるので、天然のアイスのようにお召し上がりいただけます。また、一般的な冷凍庫だとどうしても冷凍の匂いがついてしまうのですが、急速冷凍だと素材のままの風味を保つことができ、生のフルーツを食べている感覚になれます。そして色。りんごや洋梨ってカットしたらすぐに茶色くなってしまいますよね。これも急速冷凍だと綺麗な色のまま凍結することが可能です。

 

—商品開発に到るまではどのような困難があったのでしょうか?

木下:商品の着想を得てから商品を開発するまで、3年くらいかかりました。最初は保存方法や保存温度によって賞味期限が変わってしまうということもあり、保存期間の研究をしました。また、-35度で凍結しているので、それを家庭の冷凍庫に入れたらどのくらいもつのかなども研究を重ねました。お客様に美味しい状態で届けるための研究に力を入れた3年間でした。

 

農家さんの想いも含めてフルーツの価値になる

—協業する農家さんはどのように選ばれていますか?

木下:全国で50くらいの農家さんと協業しています。美味しいのはもちろんですが、消費者や環境のことまで考え、難しいけれどなるべく農薬を使わない、化学肥料を使わないことにこだわっている農家さんを中心に応援したいと思っています。このようなこだわりを持っている農家さんは、商品に傷がつきやすかったり、形が規定通りではなかったりと、より深刻なフードロスに悩まされているという背景があります。健康や環境などについて考え、これからの世の中をよくしたいという素敵な想いを持って農業に取り組まれている方たちが悩まれている声を聞き、私たちにできることをしたいという想いで協業しています。「からたち」さんもその一人です。

 

—商品の魅力を発信する上で心がけていることはありますか?

木下:ホームページではHenoHenoのストーリーや農家さんのメッセージを発信するように心がけています。同梱する資料にもフードロスの背景や農家さんのこだわりを載せています。そのような背景も含めてそのフルーツの価値だと思うので、その魅力を体験していただけるような発信を工夫しています。

スーパーで売っている野菜やフルーツからは、どんな方が作っているのかもどんなこだわりがあるのかも伝わらないですよね。さらに無農薬・減農薬栽培ではどうしても外見が悪くなってしまうことが多いので、これらの野菜やフルーツが選ばれ難いということもよくあることです。一方で私自身、全国の農家さんを訪問させていただき、農家さんの想いを直接聞く機会がたくさんあります。農家さんの素敵な想いを聞くたびに、こだわりを持って生産している農家さんがいるということをもっと知ってほしいと強く感じ、それを発信することを意識しています。

 

—購入者の声を教えてください。

木下:一番多いのは本当に美味しいって言っていただけることですね。また、普通にフルーツを買うと切れ端や皮などのロスが出てしまうけど、HenoHenoではカットされているので手間もかからないし、ロスが出なくなるという声もあります。さらに、国産や無添加のこだわりから安心感を持って子どもに食べさせたいと言ってくださる親御さんもいます。

 

みかんを通じて水俣を伝える

—続いて、からたちの大澤さんに伺いたいと思います。事業について教えてください。

大澤菜穂子(以下、大澤):からたちは熊本県水俣市で農薬を使わない柑橘類を栽培・販売している労働者組合です。20名ほどの生産者が所属していて、10種類の柑橘を作っています。甘夏みかんやデコポンが特に多く生産されています。

私の両親は熊本県の出身ではないのですが、水俣病で苦しんでいる人たちを応援したいという想いで水俣市に移住してきました。当時はたくさんの患者さんが苦しんでいたのですが、中でも多くの漁師の方が水俣病になられたんです。魚が取れなくなってしまった水俣で、そんな漁師の方が始めたのが夏みかん作りでした。そこから農協の指導の元、年間20回ほど農薬を撒いて柑橘を栽培されていました。あるとき、漁師を諦め甘夏を作っている生産者の中で、父も知り合いだった方の1人が農薬の散布中に倒れられるということがありました。体の中にも水銀という毒がありながら、農薬を使うという状況にすごく矛盾を感じ、無農薬栽培にこだわっていこうという父の決意で、40年前に「反農連(反農薬水俣袋地区生産者連合)」が結成されました。両親のリタイア後は、私たち兄弟が継いで事業を行なっています。2006年にエコネットみなまた農林水産部門「はんのうれん」という企業組合になり、経営と想いの間で葛藤したこともありましたが、2016年に「からたち」という名前で改めて団体を立ち上げ、両親の想いを引き継ぎ無農薬の柑橘を栽培・販売していくことを決めました。

このようなストーリーや水俣病のことをお客様に伝えるために、年に4回ペーパーを郵送したり、私たちの想いや生産者さんの想いをチラシにしてみかんに同梱したり、水俣ツアーの受け入れをしたりしています。

 

—水俣病発生から長年経った今でも、無農薬栽培に対して強い想いを持ち続けられているのはなぜですか?

大澤:水俣病発生から60年以上経っていますが、今でも苦しんでいる患者さんが目の前にたくさんいますし、苦しみながらもこれ以上の薬を使わず無農薬栽培をやっていくという熱い想いを持った農家さんに毎日出会うからです。また、その想いに共感し、商品を受け取ってくださるデイブレイクさんを始めとしたお客さんが全国にたくさんいらっしゃるというのがモチベーションになっています。

 

—実際にからたちに関わっている農家さんではどのくらい廃棄物が出るのでしょうか?

大澤:私たちの生産基準は一般的なものに比べてすごく緩やかではあります。「無農薬で作ってほしいけれど、綺麗なものがほしい」とは絶対言えないし言いたくないですよね。それでもやはり傷が入っていたり、どうしてもいびつすぎて出せなかったりすることはあって、以前は流通できないものは生産者にお返しして生産者が近所に配るなどしていましたが、それ以上にロスが出るので余ったものは廃棄されていたと思います。そのような中でデイブレイクさんと出会い、廃棄されるはずだったみかんに命を蘇らせてくれたこと、そしてそのみかんが誰かの体の中に入って命になるということがすごく嬉しくて、毎年お世話になっています。

 

同じ未来を見据えた仲間としての協業

—お互いのどのようなところに魅力を感じて、協業を決められたのでしょうか?

木下:全国の農家さんを訪問していたときに大澤さんにお会いしました。からたちさんはグレープフルーツも作られているのですが、日本で無農薬でグレープフルーツを作っているということに驚いたことを覚えています。その時に大澤さんが、水俣病に対しての想いやからたちさんのストーリーをとても熱く話されているのを聞いて私も胸が熱くなり、何か私たちに手伝えることがあればなということと、一緒に食の未来や自然環境を変えていけたらなと思ったのが協業のきっかけです。

そのような熱い想いを未来の子どもたちに伝えていこうという姿と、本当に無農薬栽培は難しいのに家族全員で一生懸命に取り組まれている姿にいつも魅力を感じています。

 

大澤:デイブレイクさんは同じ言葉を持っているというか、いちいち説明しなくてもわかってくださるというか、そういう仲間やチームのような存在です。私たちももちろん最後の1個まで大切にいただきたいとは思っているのですが、なかなかそれは完璧にはいかなくて。やっぱり生産者が暑いときも寒いときも頑張っている姿を知っているし、柑橘を育ている自然も見ているので、廃棄するというのはすごく辛いんです。だからデイブレイクさんのようにみかんに命をもう一度蘇らせてくださるということが本当に嬉しいですし、「食べ物を大切にすること」を大切に思ってくださる仲間がいることをとてもありがたく思っています。

 

—かたらちさんの他にはどのような農家さんと協業されているのですか?

木下:例えば、沖縄の石垣島でパイナップルとマンゴーを作られている生産者がいらっしゃいます。この方は、フルーツが完熟して一番美味しい状態になって初めて収穫するというこだわりを、10年間追求されたという素晴らしい農家さんです。しかし、通常は完熟してから流通させようとするとすぐに傷んでしまうので、完熟しているという理由で出荷できなかったり、豊作すぎてロスになったりという現状があります。そこで私たちが冷凍技術を通して、そのロスを削減することに取り組んでいます。

 

食べ物を大切にする温かい社会に向けて

—今後の事業展開や、事業を通して作りたい社会について教えてください。

木下:現在はフルーツと野菜を取り扱っていますが、今後は魚や肉も取り扱っていきたいと思っています。美味しいものや真心込めて作られた食材や料理を食べている時って、すごく温かい気持ちになるんですよね。不味いと会話も生まれないですし、笑顔にもなれない。美味しいという感動が感謝となって作り手に届き、受け手にも作り手にも温かい心が生まれ、それが連鎖となっていくような社会を作っていきます。

 

大澤: 私たちは日々一つ一つの命をいただいて生きているので、この命をくれたものが喜んでくれるような生き方をしたいと思っています。それは、食べ物を大切にしたり、命を大切にすることだと思うので、そのような価値観をもっと社会に広げたいですね。水俣病という経済が優先され、人の命が大切にされなかった悲劇を経て、その真逆の優しい世界を、食べ物を大切にすること、そして水俣のみかんを通して作っていきたいですし、そういう仲間が増えるといいなと思っています。

 

デイブレイク株式会社HP https://www.d-break.co.jp/
HenoHeno HP https://henoheno.jp/
からたちHP https://karatachi.shop-pro.jp/

 

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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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