ペット共生型の障がい者グループホームから、人と動物が幸せに生きられる世界を。

「人間福祉と動物福祉の追求」を掲げ、ペット共生型の障がい者グループホームやペットの介護・看護施設を運営する藤田英明。さまざまな社会課題に同時に取り組み、そこで得た利益を社会に還元することに強い想いを持つ。急拡大を続けるペット共生型施設の仕組みや工夫を聞いた。

【プロフィール】藤田 英明(ふじた ひであき)
明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業。社会福祉法人に就職し、現場で福祉に携わる。その後、自身で会社を立ち上げ、日本の福祉が抱える問題に取り組んできた。内閣府規制改革会議への参画や首相公邸で講演経験もある。著書に『図解でわかる介護保険ガイド』『介護再編』など。

動物と暮らせる障がい者グループホーム

ー主な事業について教えてください。

ペット共生型障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」を運営しています。動物と一緒に暮らすことで、アニマルセラピーの効果なども取り入れ、障がい者の方々の生活の質が向上することを目指しています。障がい者の方って、運動する機会が多くないので、犬と暮らして散歩が身近になることで、運動を日常に取り入れられる効果もあります。また、保護犬・保護猫を引き取りグループホームの仲間とすることで、ペット殺処分の問題にも取り組んでいます。事業所と参画企業の事業所を合わせて、現在全国に429拠点(2021年1月現在)となりました。中には空き家を利用したグループホームもあり、福祉の課題だけでなく、様々な課題を同時に解決できる仕組みを作っています。

ーどんな方が入居されていますか?

身体障がい・精神障がい・知的障がいなど何らかの障がいがあって、社会の中で生きにくいという方たちが入居しています。ペースメーカーを入れている方や人工透析をされている方もいますね。16歳から70歳前半までと、幅広い年齢層になっています。病院のソーシャルワーカーなどからの紹介で「わおん」「にゃおん」を知ってくださる方が多いです。

 

ー障がい者グループホームには珍しく、居室に鍵がついていると伺いました。

一般的なグループホームは、職員がいつでも入れるようにお部屋には鍵をつけないんです。ただそうすると、「自分の家だ」という意識が薄くなってしまって、「入居させられている」と感じてしまう方も出てくるので、「あなたは自立した一個人ですよ」という意識を持ってもらえるように、お部屋には鍵をつけています。

また、規模が大きくなり入居者の人数が増えると、職員の目が届きづらくなって引きこもってしまう方が出てきたり、いじめが起きやすくなってしまったりするので、10名程度の規模で運営するようにしています。

 

ー入居された方には、どのような変化がありますか?

例えば、てんかんと知的障がいがある子がいるんですが、てんかん発作が2ヶ月に1度くらいのペースで起こっていました。もともと身体的には問題なく日常生活を送れる子なので、仕事にも週5で通っていたけれど、発作が出ると辛いし仕事にも行けなくなっちゃう。そんな中、「わおん」で暮らし始めて、発作の頻度が減ってきました。彼はホームにいる犬が大好きで、連れ込み禁止の居室にも犬を入れてしまうくらいなのですが、こういう話を聞くと動物セラピーの効果を感じます。

 

全国にグループホームを増やすために

ー参画企業のオーナーとはレベニューシェアの形を取っているそうですが、どういった仕組みですか?

支払い枠が固定されている委託契約ではなく、パートナーとして提携し、相互の協力で生み出した利益をあらかじめ決めておいた配分率で分け合う仕組みです。具体的に言うと、「わおん」を運営したいというオーナーさんに、僕らがグループホーム運営のためのノウハウを共有するなど経営のサポートをして、出た利益の一部をいただく形です。

コンビニに代表されるフランチャイズ契約は、全てのオーナーが共通のブランドを掲げ、全国どの店舗でも全く同じになる仕組みですよね。それができるのは、強制力のある契約になっているからです。一方で、ブランド名だけ渡して、あとはオーナーに任せっぱなしのライセンス契約もあります。そうすると、ホームを運営するための支援が少なすぎるんですよね。そのちょうど間くらいの、支援しつつも各オーナーが独自に事業に取り組める形ということで、レベニューシェアの仕組みを導入しました。

 

ーグループホームそれぞれに独自性を与えつつ、スタッフやサービスの質を保つために工夫していることはありますか?

加盟店のオーナーさんには、参画時に初回面談を実施しています。そこで僕が1時間半ほどわおんの理念などをレクチャーしたのち、担当のスーパーバイザーが今後の進め方を共有します。そこから物件を探したり、求人を出したりすることになるのですが、同時期に「わおん大学」という研修を受けてもらいます。これは、グループホームを運営する上で必要な知識や経営のノウハウを学ぶための研修です。関連する法律や障がい者の方の特性、営業の仕方や物件の選び方などを学ぶことができ、オンラインでもオフラインでも参加できるので、何回も繰り返し参加してくれるオーナーさんもいます。

そして、グループホームのオープン後は、法令がきちんと守られているか、現場の運営に問題はないかといったことを担当のスーパーバイザーが訪問して確認します。また、定期的に「わおん友の会」という参画企業のオーナーさんが集まる交流会イベントを地域ごとに開催して、情報共有や研修を行っています。

 

福祉分野の諸課題と、法人税を納める社会的意義

ー藤田さんが福祉に興味を持ったのはなぜですか?

サッカー留学でブラジルに住んでいたことがあって、ブラジルの貧困と日本の貧困の違いを感じたことがきっかけです。ブラジルは食うに食えない絶対的な貧困。それに対して、日本の貧困は、他者と比較して生まれる相対的な貧困だなと。どうして相対的な貧困が生まれるのか考えると、格差があるからだし、何で格差が生まれるかというと、そのベースに障がいがあるからだと。じゃあ、障がいがある方を支援することで、どうにか貧困から抜け出すお手伝いができないかということで、大学では福祉を学びました。卒業後は、社会福祉法人に就職し、そこでいろいろ感じることがあって、起業するに至りました。

 

ー福祉分野にはどういった課題があるのでしょうか?

いろいろな課題がありますが、近年特徴的な問題のひとつは、障がいを持つ50歳の子どもと、80歳になるその親が抱える「8050問題」です。障がいがある方が、若いうちに自立しないと、親子で年を取ったときに、親は自分のことで手がいっぱいで子どもの面倒を見られなくなるという問題です。

また、他国と比べて日本の精神科は入院日数が長すぎる問題もあります。フランスやドイツは、退院した後の受け皿が整っているので、入院しても1~2週間ほどで退院になります。一方日本では、18歳で入院して85歳になるまでずっと精神科の病棟の中で生きてきたお年寄りに出会うことも少なくありません。どちらの問題も、障がい者の方々を受け入れ、生活を支援していく仕組みができれば、解決できる問題だと思います。

 

ーそんな諸問題に対して、株式会社という手段を選ばれたのは、どうしてですか?

僕が大学卒業後に勤めていた社会福祉法人って、民間企業と比較すると、法人税を納めなくていいとか、補助金が貰いやすいというような優遇があるんです。これは公益社団法人やNPOも同じなんですけど。だけど事業内容は株式会社と変わらないところもある。もちろん、そういった団体にしかできない活動をしているところもありますが、僕が勤めていたところは、まさに民間企業と同じようなことをしていました。やっていることが変わらないのであれば、株式会社として適正に利益を出して、利益からきちんと法人税を払って社会に還元していくことができるんじゃないかと思うんです。高齢化もあり、毎年2,000億円ずつのペースで社会保障費が増大しているのに、社会福祉法人ばかりだと税収は増えないですよね。民間企業でできることは民間企業でやって、税金を納めることをことを社会福祉法人などにも求めるように変更していかないと、今後は社会システムが持たないというのが僕の考えです。

 

ー創業時から「人間福祉と動物福祉の追求」を掲げていたのでしょうか?

幼い頃から動物が好きだったので、いつかは動物を導入したいなというアニマルセラピーの考えはありました。当時は「犬や猫を家の中で飼うこと」が主流ではなかったんです。「わおん」のアイデアはありましたが、ホームの中で動物を飼うとなると衛生問題が大きな障壁でした。それが、ペットは家の中で飼うことが主流になってきて、今の形でも問題なく運営できるようになりました。厚生労働省によく問い合わせていたのですが、「グループホーム内でペットを飼うことについての規定はないけれど、世間の意見を聞きながらだね」という姿勢だったので、うまく世の中の流れに乗って「わおん」を始めました。

 

ー創業時は、高齢者介護の事業をされていたそうですね。そこから障がい者介護の事業に転換したのはどうしてですか?

もともと大学では精神障がい者の福祉を専攻していたし、就職した事業所でも、障がい者の就労支援の相談員も受け持っていたので、当時から高齢者福祉より、障がい者福祉をしたいなと思っていました。だた、当時は「待機高齢者」といって、老人ホームに入りたくても入れないお年寄りが全国に42万人いて、とても深刻な状況だったんです。平均寿命は伸びているし、どんどん待機者が増えていく。待機者が入れるようになるってことは、誰かが亡くなるということですからね。「85歳で申し込んだけど、どこも空きがないから、入所できるのは10年後かな」「そしたら年齢的にも、ホームには入れない可能性の方が高いんじゃないかな」という状況の方がたくさんいました。なので、その時はとりあえず待機高齢者の問題をどうにかしようと、デイサービスなど高齢者介護の事業で起業しました。そこから徐々にもともと関心を持っていた分野にシフトした形です。

 

社会課題に取り組み続け、社会に還元する

ー事業を継続し、結果も出し続けられている要因はありますか?

何が本質的な問題なのか見極められていることでしょうか。例えば、僕たちが今やっているグループホームも、5年前だとここまで急激な成長はしていないと思います。平成30年度から、精神科の入院患者をなるべく退院させましょうという政策が始まりました。そうすると、退院した方の受け入れ先が必要になってきますよね。退院後の受け入れと生活を支援していく仕組みが必要だという自身の考えと一致した形になりました。ペットをホームの中で飼う「わおん」を始めるタイミングもまさにそうですが、このように、人口動態や政策、世間の流れを見て、どのタイミングでどんな事業をするか決めています。

 

ー構想中の事業があれば教えてください。

「わおん」「にゃおん」には、それぞれ犬猫が好きな方が入居されますが、今度は「サッカー好きの人だけが入れるグループホーム」や「ゲーム好きだけが入居できる」なんかを考えています。入居者を好きなものが同じ人に限定すれば、共通の話題ができてコミュニケーションが円滑に進むし、楽しく生活できると思うので。

 

ー今後の目標はありますか?

会社としても個人としても、目標は特にないです。今後、どんな課題が生じてくるかわからないじゃないですか。日本の歴史の中で初めて人口が減少していくと。そうするとこれまで起きてなかった社会問題が出てくると思うんですよ。なので、課題が出てきたら解決策を考えて、もしそれが事業として成り立つようであれば何でもするつもりです。繰り返しになりますが、僕はちゃんと利益出さないといけないと思っています。出た利益を従業員に分配したり、新たな事業に投資したりすることで、また成長していくスパイラルを作っていきたいですね。

その上で、自分だけが課題解決をやっていても限界があるし、あまり意味がないと思うので、同じように”ある課題”に対して事業を通じて解決していきたいというメンバーが社内に増えてきてくれることを望んでいます。

アニスピホールディングス https://anispi.co.jp/
ペット共生型障がい者グループホーム わおん/にゃおん https://anispi.co.jp/waon/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

     

    writer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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