シングルマザー専用のシェアハウス。母子が笑顔で安心して暮らすことができる住環境を目指して

シングルマザーが安心して暮らせる住居環境を提供するため、母子専用のシェアハウス運営する秋山怜史。建築士でありながら、NPO法人全国ひとり親居住支援機構の代表を務める。建築家として培ったゼロからイチを生み出す力を、社会課題解決にも生かしている。現代社会でシングルマザーが抱える課題と、日本で初めてのシングルマザー専用不動産ポータルサイト「マザーポート」に込めた想いを聞いた。

【プロフィール】秋山 怜史(あきやま さとし)
1981年生まれ。東京都立大学工学部建築学科卒。2008年に「社会と人生に新しい選択肢を産みだす」を理念に掲げ一級建築士事務所 秋山立花を設立。建築士として働く傍ら、2012年よりペアレンティングホームプロジェクト立ち上げ、NPO法人全国ひとり親居住支援機構の代表理事を務める。現在は日本で初めてとなるシングルマザー専用の不動産ポータルサイト「マザーポート」を運営し、働くひとり親を支援するサービスを展開する。横浜国立大学非常勤講師、神奈川県地方創生推進会議委員としても活動。

日本初、母子専用のシェアハウスとポータルサイト

ーNPO法人全国ひとり親居住支援機構の事業内容について教えてください。

最初に行った事業が、シングルマザーを対象とした「ペアレンティングホーム」というシェアハウスの運営です。その3年後、母子のシェアハウスを扱うポータルサイト「マザーポート」を立ち上げました。こちらは、子育てと仕事の両立を目指すシングルマザー向けのシェアハウスが検索出来るサービスです。
これらの事業は、シングルマザーの方々が住まいを得ることが非常に困難である、という課題を解決するために始めました。家探しが難しい理由はいくつかあるのですが、まずは収入源の低さがあります。離婚して他の地域に移る方が多いですが、その場合仕事も変えなければならず、家を探している時点では無職になってしまい、賃貸物件が借りづらいのが現状です。
しかし一番大きな障壁は「偏見」なんです。オーナーさんが貸したがらないという現実があります。シングルマザーの方が働いていて、収入があったとしても部屋を借りることができないこともあります。母子家庭でも安定した住居と教育を確保できることが大事だと思い、シングルマザー専用のシェアハウスをオープンし、マザーポートにてシェアハウスの物件を取り扱っています。

 

ーシェアハウスだけでなく、マザーポートも開設された背景を教えてください。

母子専用のシェアハウスをやり始めてからメディアで取り上げられることもありましたが、それでもほとんどの方が母子専用シェアハウスの存在を知らないんですよね。どんなにいいことをやったとしても、一般の方に認知されていないのが課題でした。一般の不動産サイトにはシェアハウスってなかなか掲載されないんです。また、シェアハウスのポータルサイトには掲載されていても、シングルマザーの方はシェアハウスのサイトを見ない。私たちが2012年に母子のシェアハウスを立ち上げて以降、いろんな地域で母子のシェアハウスを立ち上げた方がいますが、みなさん共通して集客に困っていました。それならばうちの建築事務所で母子のシェアハウスに特化したポータルサイトを作るので、集客を一緒に頑張りましょう、ということで2015年からやり始めました。現在マザーポートは、「母子家庭 シェアハウス」というキーワード検索で検索上位に上がってきており、シングルマザーの方が住まいを探す上で有力なサイトの一つになるまでに成長しました。

 

ー秋山さんはどのように運営に携わっているのですか?

最初は自身の建築事務所でマザーポートを運営していたのですが、現在はNPO法人全国ひとり親居住支援機構として管理しています。僕自身は、直接シェアハウスの運営管理をしているわけでなく、NPO法人全国ひとり親居住支援機構の代表理事として各シェアハウスの事業者さんをサポートをする立場をとっています。

 

母子に安全な居住空間を

ー居住者の方々はどのくらいの期間住まれるのですか?

長い方だと約7年住まれていますが、大体のサイクルとしては1年から2年です。私たちはシェアハウスを「困難な時に体制を立て直す場所」と考えていますので、やはりきちんとステップアップしていただきたいという想いが根底にあります。そのため、居住される期間が短いことはポジティブに捉えていますね。ただ、不動産事業としては長く住んでいただいた方がベターです。そういった意味で経営上は非常に脆弱なのですが、シェアハウスの事業者さんも「事業として継続しながらも、に母子の住まいをしっかりと用意する、変えていくんだ」という意欲のもとやられています。

 

ーシェアハウスの中の人間関係の難しさが課題だと拝見しました。トラブルが起きないように何が工夫されていらっしゃることはありますか?

それぞれのシェアハウスで事業者さんが取る対応や居住者への配慮は一般的なシェアハウスとそこまで変わらないと思います。ただどうしても、母親特有の悩みだったり、子供が関わるトラブルだったりは一般的なシェアハウスよりも多いですね。できるだけ居住者間で密にコミュニケーションが取れる形を作っていても、人間なのでトラブルが起きることもあります。私たちマザーポートは、トラブルが起こってしまう前提で事業者間でトラブルの事例を共有し、みんなの知恵を集めて解決に導くような役割を担っています。

 

ーマザーポートは掲載している一つ一つの物件にどのように関わるのですか?

マザーポートとして物件に関わるのは、掲載前の面談ぐらいです。面談では運営者の心意気を見ていますね。
実を言うと、マザーポートでは収益って出てないんです。サイト制作から運営まで全て実費でやっているので、収支としては何百万かの赤字です。やばいですよね(笑)。母子のシェアハウスは社会的な意義が大きいですが、事業者は非常に厳しい運営を強いられています。一般的な不動産サイトは掲載料をとっていますが、マザーポートでは事業者から掲載料を取るのは難しいと判断し、ボランティア事業に切り替えました。人件費削減のため、僕との事前面談通過者にはNPO法人全国ひとり親居住支援機構に所属していただき、掲載内容は自分たちで考えて記載してもらっています。

 

知ってしまった責任を果たすために

ー建築家でありながら、様々な社会課題を解決する事業をされている理由を教えてください。

基本的に建築家ってすごく権力のある仕事だと思っています。その土地に何を建てるのか、今後50年100年どういった形で使われていくかを、我々が決定できる。だからこそ大学の授業でも、建築家というのは非常に社会性の強い職業だということを教わりました。しかし、一般の方で建築家に社会性が必要であると思っている方は多くありません。本来建築家は社会性を強く求められているにも関わらず、一般の方たちとの認識に物凄く乖離を感じました。
僕の一級建築士事務所 秋山立花は「社会と人生に新しい選択肢を産みだす」を理念に掲げています。「なんで建築家なのに社会性のある事業をやるの?」と聞かれますが、僕は建築家だからこそやっているんです。建築事務所としての社会的な責任を果たしていきたいです。

 

ー事業を始めてから困難だったことを教えてください。

困難はたくさんありまして、独立してからストレスで髪の毛が全部真っ白になりました(笑)。他の社会起業家の方々ってめちゃくちゃかっこいいじゃないですか。僕はもう行き当たりばったりで、皆さんに助けられながら目の前の課題を一つずつクリアにしていってる感じです。僕はあまり経営者向きじゃなくて、「これ面白そう」と思ったら始めてしまうんです。しかし目の前にある課題を一つずつ解決していった結果、全部繋がっていたなと今は思うんです。例えばシングルマザーのシェアハウスを始めたことによって、より深く母子家庭が抱える課題に詳しくなりました。その結果、様々な課題を抱えた分野の方とも出会うことができ、保育園の設計や、「先天性疾患の方の居場所づくりを一緒にやってくれないか」と相談をうけるようになりました。そうすると、またそれぞれの課題解決に向けて知識が蓄えられて、建築家としての仕事の幅も広がるようになってきました。

 

ーそこまで強い想いを持って辞めずに続けられているのはなぜですか?

職務的にも個人的にもそうなんですけど、ゼロイチが好きなんですよね。「これ今まで世の中になかったな」「これあるんだけど全然うまくいってないな」とか、そういうことを考えるのがすごく好きで。建築家は全く何もないところに新しい建物を作り出すので、常にゼロからイチを生み出す職業なんです。シングルマザーのシェアハウスも、新しい価値を見出して世の中に貢献していく面ではある種のイノベーションだと思っています。あとは、課題を知ってしまった責任っていうのもありますね。その課題を知ってしまったからには、それに対して何か答えを作っていかないといけないなと考えています。

 

ー今後の目標や目指している社会を教えてください。

まずはNPO法人全国ひとり親居住支援機構として、シングルマザーのシェアハウスの継続方法を強化していきたいと考えています。具体的には、事業者向けにシェアハウス立ち上げのためのスクールを開設予定です。あとはシングルマザーといっても、ある程度自立できている人・あと一歩後押しがあれば自立できる人・本当に苦しい人といろんな方がいて。今のシェアハウスには、あと一押しぐらいで自立できる方々が多く入居されているので、本当に苦しい方々に対しては今後どのようなサポートを行っていけるか仲間たちと検討中です。他にも産後ケアや地域貢献など、全ての方のいろんな選択肢を広げていきたいですね。

 

NPO法人 全国ひとり親居住支援機構 https://syncable.biz/associate/NSPRSA/
マザーポート https://motherport.net/
一級建築士事務所秋山立花 https://akiyamatachibana.com/

 

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interviewer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

 

writer

河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。