日本で暮らす外国人の幸せを願って。行政とともに行う、外国人と日本人をつなぐコミュニティづくり

自らが外国人として暮らした経験がきっかけとなり、日本で暮らす外国人に幸せになってほしいという願いからひらがなネットを設立した戸嶋浩子(写真、左)。行政とともに外国人も日本人も暮らしやすいコミュニティ作りに取り組んでいる。ボランティアではなく株式会社として事業を行う理由や事業へのこだわりを聞いた。

【プロフィール】戸嶋 浩子(としま ひろこ)
2005年に夫の仕事の都合で渡米したことがきっかけとなり、帰国後外国人に日本語を教えるボランティア教室で活動。その後、一緒に活動していた吉澤(写真、右)と2012年に「ひらがなネット株式会社」を設立。前職での雑誌編集の経験を活かし外国人向けのガイドブックや外国人との関わり方に関する情報冊子の制作や、東京都や墨田区など行政の事業を行なっている。

外国人と日本人をつなげる事業を

—事業を始めたきっかけは何ですか?

2005年から一年半、夫の仕事の都合でアメリカのニューヨークで暮らしました。行く前は英語はなんとかなるだろうと思っていたのですが、実際に暮らしてみると何を聞かれているのかもわからず、自分の伝えたいことも全然伝えられずたいへん困りました。現地でも英語を勉強しようと思い、色々と調べてみたところニューヨーク市が実施している無料の英語教室があることを知り、それを活用して毎日英語を勉強するようになりました。このように自分が外国人として暮らす経験をして初めて、日本で生活している外国人の方がたくさんいることに気がつき、何かできないかと思い始めました。それがきっかけとなり、帰国後日本語を教えるボランティア教室での活動を10年間続けてきました。最初の5年間はボランティア教室以外にも個人的に家で外国人向けの料理教室を開くなどしていたのですが、どうしても「何かしてあげる」という感じになってしまうことに違和感を覚えていました。一方的な支援ではなく、もっと対等に一緒に色々なことを楽しめたらいいなって思い、ボランティア教室で活動していた仲間と会社を設立しました。

 

—事業について具体的に教えてください。

外国人向けのガイドブックなどの印刷物作成、日本語を教えるボランティアを養成する講座や外国人とコミュニケーションをとるための「やさしい日本語」研修の実施、啓発関連の動画や冊子の作成、在住外国人を中心とした人材紹介などをメインの事業として行なっています。墨田区の国際交流関係の部署など、行政の仕事が多いです。国際交流関係以外にも、区内の飲食店90店の外国語メニューを作成するなど、インバウンド、障害者福祉、食育、地域活動など様々な事業に関わっています。最近では他区との仕事も増えてきています。また、2017年から外国人を中心とした人材紹介事業も始めました。

制作物の一部

 

—Twitterやyoutubeなど様々なSNSでの発信にも力を入れていますよね。

今はFacebookTwitterInstagramYouTubeを使って発信しています。外国人の方が利用しているメディアも多様なので、色々なメディアで発信しないと情報が届きません。一番最初に情報発信を始めたのは紙媒体で、2012年に会社を設立してから形式を変えつつずっと「ひらがなネットしんぶん」を発行しています。その後SNSも始めましたが、例えばInstagramでは私たちの料理教室に関連させ、レシピなど料理に特化した情報を発信しています。他にも2019年の10月に東京に大きな台風がきたときには、役所の方から外国人向けに情報を流せないかと相談がありました。災害などの緊急時は行政のホームページがダウンしてしまったり、速報がTwitterで流れたりと、情報収集がTwitter頼みになることも多いです。ただ、Twitterに馴染みのない国の方も多いことに気付きました。そこで、まずはひらがなネットを知ってくれている外国人のTwitter利用者を増やし、そこから広げていくという目的で情報発信をしています。最近はYouTubeで料理動画を発信することにも注力しています。

 

言葉の壁を乗り越える

—実施しているイベントや講座について具体的に教えてください。

料理は言葉が通じなくてもコミュニケーションできるので、料理教室を多く行なっています。当社のスタッフが和食、タイ料理、モンゴル料理の教室を担当したり、ゲストを呼んでベトナム料理やスペイン料理などの教室を開いたりと、それぞれの地域の方たちに活躍してもらうための場、そして料理を通したコミュニケーションの場となっています。そして「みんなで散歩」という街歩きのイベントも外国人、日本人両方が参加してくれています。また、役所での職員向けの研修や地域の日本人に向けて「やさしい日本語」の講座も行っています。2020年2月には東京都でオリンピックのボランティアが参加するイベントにて15カ国の外国人の方々とブース出展しました。その時に作成した「『やさしい日本語』とコミュニケーション10のポイント」は東京都公式の動画サイトに掲載されています。

 

—イベント参加者からはどのような反響がありますか?

「みんなで散歩」にきてくれる外国人の方たちは、何回も続けてきてくれる人や一人で参加される方が多いです。日本に住んでいてもなかなか街を散策したり色々なところに出かけたりする機会がないようで、新しい街を歩くのをみなさんすごく楽しんでくれています。最近ロシア出身の方が毎回欠かさず参加してくれます。昨年3月に来日されたばかりであまり日本語は話さないのですが、とても楽しそうに毎回参加してくれています。散歩って言葉が通じなくても景色が移り変わるので、なんとなくでも身振り手振りでコミュニケーションがとれるのがいいところです。日本の方は日本語を教える先生やボランティア活動をされている方などが多いです。ただ散歩が好きという方も多く、みなさん楽しんでくれています。

「みんなで散歩」2020年11月の横浜散歩

 

地域の一員としての外国人

—関わりのある外国人はどのような方たちなのですか?

私たちが関わっているのは地域で生活している外国人の方です。そのような方々の中には日本で子育てをするのに苦労していたり、仕事がないと悩んでいる人もいます。私たちは彼らの相談を直接受けて支援を行うというより、困りごとを自社で調査して行政に働きかける役割を担っています。例えば新型コロナウイルスが流行した当初、外国人の方々にwebでアンケートをとり、どのようなことに困っているのかなどをまとめ、行政に提案をしました。他にも、東京都国際交流協会からの委託で2018年に東京都在住の外国人40カ国100人を対象に聞き取り調査を行いました。タイとモンゴル出身のスタッフがいますのでその2国はつながりが強いですが、基本的には出身国の偏りはあまりなく在住人数の少ない国の方たちとのつながりもあります。

 

—外国人を受け入れる側の地域や企業にはどのような課題があるのでしょうか?

地域ではコミュニティの一員として親しくなろうという意識がまだまだないと感じます。旅行でくる外国人のお客さんは目に入っていても、長期的に一緒に生活している外国人のことはあまり目に入っていなかったり、もしくは困った存在として認識することが多いのではないでしょうか。外国人はちゃんとゴミを捨てないとか、挨拶しないとか、そういう感覚の人たちがまだまだいて、もっと同じ地域に住むコミュニティの一員として意識してくれたらいいなと思っています。それを妨げるものの一つに「言葉」があげられます。日本人は特に「あの人は何語を話すんだろう」とか「英語で話したらいいのかな」とか考えてしまうことが多いのですが、日本で暮らしているのでまずは日本語で「こんにちは」と話しかけたら良いと思っています。以前、私たちは「まずは日本語でこんにちは」という冊子を作りました。これは、商店などに配布したものですが、外国人の方にも理解しやすいような簡単な日本語の使い方を説明したものです。あとは学校の親御さんたちにも同じことが言えますよね。「外国人のお母さんはPTAには参加できないでしょ」と決めてしまうことがあります。できることできないことをきちんと把握して地域の人全員が参加するようなコミュニティづくりを考えていきたいと思っています。

「エドのタイ料理教室」

 

事業化するという覚悟

—ボランティアから株式会社に事業化する上でどのような苦労がありましたか?

売り上げがなかなか上がらない時期が長く、会社としてお金を稼ぐということがとにかく難しかったです。最初はボランティア教室ではできないことをしようと思いつつも、ボランティアの延長線上にあるような事業しか思いつきませんでした。やはり外国人との接点はボランティア活動でしたので、最初のお客さんはボランティア関連の方がメインでした。それまで無料で勉強をしていたので、「お金をください」ということがとても言いにくかったです。「500円くらいなら払ってくれるかな?」という会社の金銭感覚ではないところからスタートして、最初の1年はとにかくイベントをたくさんやっていました。でも1年間やってみてお金にはならないしクタクタになってしまったので、方向転換を決意しました。前職で私は編集の仕事をしていたこと、共同創業者の吉澤はコピーライターであることを活かして制作を始めたんです。交流イベントや外国人の生活をサポートする生活教室などを実施しながら、同時に外国人とはあまり関係のない広告関係の仕事を3年間くらい続けていました。そうしたら徐々に外国人のことも制作のこともできる会社として知られるようになってきて、外国人向けの冊子制作などの仕事が増えました。今では自分たちのやりたいこと、できることが合致してきたと思います。

 

—株式会社として事業をすることへのこだわりについて教えてください。

様々な選択肢がありますが、私たちは資金の使い方や組織づくりなどにおいて制約が少なく、自分たちの好きなようにできるのではないかと思い、株式会社を選びました。一方で同じ事業を行うにしても非営利だと助成金を申請できるのに株式会社だとできないということもあると知り、会社でするべき事業は「支援」ではないということに気が付きました。そこで、外国人を直接支援するNPOなどの広報事業を担うことでお金を生み出したり、行政に提案をして仕事を生み出したりという今の事業の形に徐々に変化していきました。ただ行政の仕事は単年度の契約が多いので長期的には不安定になってしまいます。そこで自社でもしっかりと売り上げられるように人材紹介事業に今は力を入れています。会社である以上、しっかり稼いで社員に還元し、会社の知名度をあげて「多文化共生と言えばひらがなネット」とみんなに思ってもらえるような会社に育てたいです。

 

—どの事業においても共通して大切にしていることは何ですか?

大きくは二つあります。まず一つは必ず外国人の方にも加わってもらうということです。講座などでは自分たちの思い込みで「外国人ってこうなんですよ」と話すのではなく、必ず外国人の方に登壇してもらっています。また、外国人向けに冊子を作る場合なども外国人の方の意見を反映させています。以前、外国人向けのマナーブックのご依頼を受けた時は、外国人の方たちとミーティングをし、意見を聞きました。「せっかく楽しい気持ちで観光にきているのにあまりマナーを注意されると嫌な気持ちになる」という意見が多く、マナーブックではなく街を楽しむためのガイドブックを提案しました。その中で「商品の封を切らないでください」など、どうしても伝えたいことは「そういうことをするのはスマートじゃないですよ」という伝え方で盛り込みました。また、別な外国人観光客向けマナーブックのご依頼の際は「旅の日本語を覚えよう」というテーマにし、その中で「トイレはどこですか?」「タバコは吸えますか?」という言葉を覚えてもらいながら、「タバコは道に捨てないでください」「トイレットペーパーは流してください」ということを伝えるようにしました。外国人に関する仕事では、外国人の視点を入れることが必要だと思っています。

そしてもう一つは一人ひとりの幸せを大事にすることです。私たちはビジネスとして人材紹介をしていますが、その人が幸せを感じられない仕事は紹介できないと思っています。紹介する外国人の方と何度もお話をしたり、企業の受け入れ態勢がしっかりしているかを何度も確認したり、面接の練習や同行、就職した後もまめに連絡をとって近況を聞くなどしています。一人ひとりの幸せを見守りたいと思っています。イベントでも例えば散歩であれば何度も下見をするなど、ひとつひとつの仕事を丁寧にすることを心がけています。

外国人を中心とした人材紹介

 

外国人と日本人、みんなの幸せを願って

—今後の事業展開について教えてください。

今後は引き続き行政との協業を増やしたいので、様々な自治体に事業の説明をしています。また、新型コロナウイルスの影響もあってオンライン化が進んでいますので、オンラインでできるコンテンツを増やしていきたいです。もっともっと外国人の方たちと知り合ってネットワークを作り、彼らの希望を反映した事業を行なっていきたいです。今も日本に来て困窮している外国人の方が気になってしょうがないのですが、現状会社としてできることはまだまだ少ないです。せっかく日本にきてくれたのに辛い思いはしてほしくないし、日本にきてよかったと思ってくれる人を増やしたいです。外国人に限らず日本人も、みんなが少しでも幸せになることを願って、これからも頑張ります。

 

ひらがなネット株式会社 http://www.hiragana-net.com/

 

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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。