心も身体もあたたかく。ペルー発のアルパカ素材で社会課題に挑戦する
インタビュー

心も身体もあたたかく。ペルー発のアルパカ素材で社会課題に挑戦する

2020-11-28
#国際協力 #ものづくり #雇用創出

アルパカ素材を使ったアパレルブランドを展開し、南米ペルーの貧困問題に取り組む吉田彩子。アルパカ素材の商品は、冷えに悩む日本の消費者からの人気も高い。もともと南米に高い関心があったわけではないという彼女がペルーと関わるようになったきっかけや、事業を通じて目指したい社会について話を聞いた。

【プロフィール】吉田 彩子(よしだ あやこ)
高校時代から国際協力に興味を持ち、津田塾大学に進学。在学中の交流がきっかけで、南米ペルーのアルパカ産業と関わりを持つようになる。卒業後は、繊維・アパレル企業に就職し、海外工場の生産管理を担当した。2012年に株式会社蒔いてを立ち上げ、アルパカ素材に特化したブランドを展開している。

あたたかさに定評のあるアルパカ素材

ーどのような事業をされているのですか?

アルパカ素材を使った靴下や腹巻き、ストールやカーディガンを取り扱うニットウェアブランドの「MAITE」を運営しています。アルパカ素材は全て、南米ペルーのものを使用しています。製造もほとんどペルーで行っていますが、一部商品は日本でつくっています。ペルーのアルパカ産業は都市と地方の格差問題や貧困の問題とも深く関わっているので、MAITEを通して販売を増やすことで、問題の解決に貢献したいなと思っています。

 

ーアルパカ素材の特徴を教えてください。

カシミヤやウールなどと比べても、あたたかいと言われています。繊維の中に空洞があって、そこに空気を溜めることができるので、軽くて蒸れにくい構造です。ニットはチクチクして苦手な方もいらっしゃると思うのですが、アルパカ素材はチクチク感が少ないのも特徴です。「アルパカ毛はあたたかいらしい」という情報が広がっているようで、冷え性で悩んでいる方が「アルパカ素材」で検索してMAITEを見つけてくださることが多いです。また、身体を冷やさない方が良いとされる妊婦さんや、持病を持っている方が購入してくれることもあります。最近は男性のお客様も増えていますね。

 

ー商品はどのように開発しているのですか?

MAITEを始めたころは、ストールとカーディガンくらいしかなかったのですが、お客様からの強い要望で4年前に靴下を作りました。アルパカ素材のファンの方が多くいらっしゃって、「腹巻きも作って欲しい」「レッグウォーマーがあれば購入する」という声が届くんです。メールやLINE@でお客様の声を拾いつつ、何度もリピートしてくれる方や細かい要望を送ってくださる方には直接ヒアリングをさせていただき、商品展開の参考にしています。

 

自分の足で築いたペルーでの信頼関係

ー生産から流通までの流れを教えてください。

まずアルパカ糸の購入ですが、これはペルーの紡績会社から購入しています。その糸を用いて商品を作るのですが、その方法や作り手は商品によって様々です。例えば、ネックウォーマーやショールの一部は、ペルーの職人さんによる棒編みやかぎ編みといった完全手編みの商品です。一方のカーディガンは、機織り機のような手を動かしながら使う機械で作っている手編み商品です。ゴムを入れたり伸縮性を持たせる必要があったりする靴下や腹巻といった複雑な商品は、ペルーや日本の工場で機械によって製造しています。

これらの商品を主には自社のECサイトで販売しています。他にも百貨店でポップアップ展示をしたり、カフェに商品を置いてもらったりしています。

 

ーペルーの紡績会社や職人はどのように見つけたのですか?

現地で職人の支援をされている日本人の方がいらっしゃって、最初はそこからスタートしました。そのあとは、現地で話を聞いて新たな職人さんを紹介してもらったり、自分で検索したりして見つけました。5年くらい経過したとき、ペルーの貿易庁の方とのつながりができて、アルパカ素材の展示会に呼んでもらえるようになったのですが、それも大きな機会でした。紹介してもらったところや検索していいなと思ったところには、1軒1軒足を運んでいます。本当にMAITEの商品をつくってもらえそうか、職人の労働環境は適切か。行ける時にはアルパカが暮らす標高の高い山の上まで行って、飼育環境や飼い主である先住民の人たちの暮らしを自分の目で見るようにしています。

 

ー現地の方とコミュニケーションを取る上で気をつけていることはありますか?

今年はコロナの影響で渡航できませんでしたが、年に1回は現地に出向くようにしています。向こうではできるだけ通訳の方を挟まず、自分でスペイン語で会話するようにしています。意外に思われることが多いのですが、ペルーってシャイな人が多いんです。だから言葉で言ってくれることは少ないけど、表情が明るかったり楽しそうというのが雰囲気でわかるようになってきました。あとは直接会う機会をなるべく作ることですね。最初は無口で、あまり話せなかった人とも、今ではSNSでお互いの近況を気にし合うような関係になれました。何度も会いに行って話をするようにしていることが信頼関係に繋がっているのだと思います。ペルーの人たちは、「遠いのに何回も来るな、こいつ」って思ってくれてるんでしょうね(笑)。

普段はSNSで連絡を取ることが多いのですが、商品の改善点や新しいデザインは思っているように伝わらないこともあります。そんな時は相手の話や言い分をよく聞くようにしています。後から考えると、些細な誤解も多いのですが、最初から批判のスタンスでこちらの言いたいことだけ言ってしまうと、彼らは言いたいことが言えなくなってしまうんです。こちらの伝え方が良くなかったのかもしれないな、期限にギリギリだけどちょっと無理してできるって言ってくれてたんだなという風に考えるように気をつけています。

撮影:鈴木竜一朗

 

ペルーとの出会いから起業に至るまでの経緯

ーどのようなきっかけで、ペルーのアルパカ産業と関わることになったのですか?

大学のゼミの先生がペルーで女性に編み物を教えている日本人女性と知り合いで、その商品を学祭で売ってくれないかという話が来たんです。ペルーから商品が届いて、それを学祭で販売したり、近所のカフェに置いてもらったりしていました。もともとペルーに興味があったわけではなく、この大学2年生の時の出来事が、ペルーやアルパカ素材に関わるようになったきっかけですね。卒業後は、海外の工場で大手アパレルメーカーの生産を担当している会社に就職しました。アパレルの大量生産・大量廃棄に疑問を感じていたこともあり、実際の現場を見てみたい気持ちが大きかったんです。

実際に製造の現場に入ってみると、汚水処理や労働環境などについて高い国際基準を守っている最新設備の揃った工場があったり、自社でオーガニックコットンの畑を持っている会社もあったりと、ポジティブな面を知ることができました。一方で、サンプルから実際の生産までの過程で、サンプルや、不良品など廃棄されるものも多いことや、新しい企画やデザインを提案しても、結局トレンドに倣うものが選ばれ、作っても廃棄にまわるものも多く、もったいないなと感じることもありました。こういった問題に対してMAITEでは、生産の際に気を付けるだけでなく、購入してくださった方に、長く使うためのお手入れやお直しの方法などをお伝えしたり、教えたりするワークショップを開催しています。

 

ーそこから起業されたのには、どのような背景があったのですか?

就職後もマフラーをカフェに置いてもらったり、友人に販売したりして自分にできる範囲でペルーとの関わりを持ち続けていたのですが、日本のお客様に買ってもらうためにはまだまだ品質を上げないといけないという課題を感じたことがきっかけです。ペルーでは、様々な国のNPO・NGOが、アルパカ農家や編み物の職人を支援していて、それ自体は非常に良い取り組みだと思うのですが、彼らが自立して生計を立てられるようになるには、最終的に利益を上げる必要がありますよね。コストをどうやって下げるか、効率よく作業するために何を改善するか、という点は考えられていますが、結局誰に売るのかという点が曖昧なことが多かったんです。

起業するまでは、ペルーから送られてくる商品をただ売るだけで、ここを改善して欲しいとこちらから意見を伝えることはありませんでした。でも、起業してビジネスとして関わることで、こちらも意見を伝え、日本に合う商品を作ってもらうことで、結果的に彼らの収入の向上に寄与できると考えました。

 

ー品質を向上させていくために、どのような工夫をされたのでしょうか?

これまでの取り組みで一番大きく変わったのは、現地で特定の検品会社を通すようにした点です。その会社には日本人の方もいらっしゃるのですが、その方を中心に、毎回同じ基準で検品してもらっています。商品の質を丁寧に見てくれる、信頼できる方に間に入ってもらうことで、日本に届く商品の品質はかなり向上しました。

商品の品質は、必ずしも職人の技術力に問題があるからというわけではありません。例えば、現地では家に電気が通っておらず、自然光だけで作業をしている職人もいます。そうすると、夕方になって日が落ちてくると、手元が見づらく作業が雑になってしまうといった問題もあります。なので、品質を上げるために何を改善していくかは今でも悩む点ですが、「日本の品質基準は厳しい」と繰り返し伝えるしかないかなと思っています。

撮影:鈴木竜一朗

 

ーMAITEの商品に関わるペルーの方には、実際にどのような変化がありましたか?

品質指導や検品を通して、意識や実際の質の向上がありました。また「日本の方はこうデザインが好きなんじゃない?」と、提案してくるデザインが変化してきました。職人さんたちの努力もあり、MAITEも以外のアメリカやヨーロッパのブランドとも公正な取引が増えてきて、職人や農家の収入は上がっていました。

しかし、コロナで大きなダメージを受けてしまっています。ペルーもロックダウンしたので、生産が止まってしまいましたし、世界各国からの注文が減り、物流も止まってしまいました。作れない、作ったところで売れないのが現状です。MAITEでも進めていたプロジェクトに遅れが出ています。

 

自分にも他人にも寛容になれる社会を目指して

ーニットカフェというイベントを開いていると伺いました。

月に2回ほど、SHIBAURA HOUSEの一般の方に開放されているコミュニティスペースで、編み物をする方が集える場を作っています。編み物って、自宅で一人でされる方が比較的多いのですが、誰かと時間や空間を共有することで、人とのゆるいつながりを感じてもらえればいいなと思っています。何を作ってもいいし、別に何も作らなくてもいい。その上で、もしよければアルパカ糸を使ってみてくださいというスタンスで開催しています。

最近はオンラインでも同じような取り組みを始めました。基本的には編み物をする方が参加してくださっているのですが、「仕事がずっとテレワークになってしまって寂しいから、編み物はしないけれど参加してもいいですか?」という方もいました。コロナの影響も相まって、他者とゆるくつながれる場のニーズが高まっているのではと感じています。

 

ー今後の目標や、事業を通じて目指している社会を教えてください。

ひとりひとりが自分にも他人にも寛容になれる社会にしたいです。ペルーと関わり始めた時から、多様性のある社会を目指すためには他人に寛容であることが大事だなと思っていたのですが、事業をしていくうちに、他人に寛容になるためには自分のことも大切にできることが大事だと気付きました。ペルーと比べると、日本は自分に厳しい方が多いように感じます。「誰かのために何かしたい」とか「他者にやさしくしたい」という気持ちってすごく素敵だと思うんです。でも同時に、自分のことも大切にできる人が増えるといいですね。

寒がりや冷え性は自律神経とも深く関わってると言われています。アルパカ素材の商品は身体をあたためてくれますが、ニットカフェのように心をあたためることのできるサービスを考えて、MAITEとしてその両方をお届けできればなと思っています。

 

MAITE https://maite-japan.com/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

     

    writer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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