地域の農業に新しい関わり方を。鎌倉で始まった「援農」コミュニティとは

自然環境を守る活動や地元・湘南鎌倉エリアをエンパワメントする活動に従事してきた河野竜二。鎌倉でのコミュニティを活かし、地域でサポートする農業の仕組み「ニュー農マル」を立ち上げた。彼が目指す新しい農業への関わり方や今後の展開について聞いた。

【プロフィール】河野竜二(こうの りゅうじ)
1981年生まれ。ニュー農マルプロジェクトリーダー。新卒で就職した教育業界で10年間勤務の後、フリーランスとして自然環境を守る活動や地元である湘南鎌倉エリアのイベント企画などに携わる。2018年からはアースデイ東京の事務局長も務めている。

鎌倉の農業と鎌倉野菜の文化を継承したい

—今の活動を始めたきっかけを教えてください。

新卒で教育業界に就職し、10年間勤務した後に次のキャリアについて考えた際、都心で働き続けることに違和感を感じました。そこで、地元であるの湘南藤沢エリアで地域をエンパワメントするような活動に関わることを決めました。そこからはボランティアとしてイベントに参加したり、地域のコミュニティに関わったりしながら、フリーランスとして活動してきました。また、もともと海やサーフィンがすごく好きなので、ビーチクリーンのような海を守る活動や自然環境を守るような活動にも携わってきました。2018年からはアースデイ東京という環境問題をテーマにしたイベントを展開している団体で事務局長を務めています。

 

—そこから農業に関わるようになったのはどうしてですか?

鎌倉の直売所である「かん太村」のオーナーさんとの出会いが大きなきっかけです。5年前に鎌倉に関するイベントの企画で鎌倉野菜を取り上げたのですが、そこに登壇いただいたのがかん太村オーナーの田村さんでした。田村さんの「やりたいこと」ではなくて「携わったことに夢中になっていく」という仕事観にとても共感し、そこから定期的に畑にいって田村さんと話したり、農作業を手伝ったりし始めたんです。その時に、やっぱり農業は私たちの生活と切っても切れない関係であることや、土に触れることでリフレッシュにもつながることなど、農業の魅力に気づかされ活動の軸が変化していったことで、ニュー農マル立ち上げにいたりました。

 

—ニュー農マルについて具体的に教えてください。

このプロジェクトは鎌倉の農家さんと鎌倉野菜の文化を継承し、新しい形で守っていくことをコンセプトとしています。鎌倉では農家の後継者不足、人手不足が深刻な問題となっています。そこで休日に農作業に携わってみたい、農業について学びたいというような方々を募り、人手が足りないところを援農(雇用などではない形で、農家の農作業を他者が手伝うこと)という形でサービスを提供しています。提携しているかん太村のオーナーである田村さんが各農家さんに連絡をとり、今どんな作業にヘルプが必要かを聞きます。それをもとに会員さんが週一回集まり、「今週は誰々さんのトマトハウスでトマトの片付けをしましょう」とか、「ちょうど長芋の収穫期なので収穫をお手伝いしましょう」とか、幅広く全ての農過程に関われるようになっています。加えて、会員の方は農家さんをサポートする中で、農業の知識や食に対する考え方を学ぶことができ、それを使って自分たちの農地で農園を作ることもできます。また、実際に自分たちで育てた野菜を提携している直売所で販売したり、漬物やスムージーなどの商品を開発し販売することも検討中です。このような形で会員を増やしていくことで収益化し、地域の農業を新しい形で継承する人を増やすことを目指しています。

最近ではシェア畑の事業も増えています。ニュー農マルがシェア畑と違う点としては、シェア畑は通常3m×3mくらいの区画を月額で借りてそこで農業を疑似体験するという形なのですが、僕らの場合は会員全員で25m×25mくらいの区画を借りています。家庭菜園を超えて畑でゼロから土を起こしたりトラクターを入れてならしたりといったところまで一貫した農業経験できるんです。あとやっぱり農家さんのリアルな現状を日々学びながら実践できるというのがシェア畑とは違う魅力かなと思います。

 

農家さんと共に畑で汗をかく喜び

—現在第1期を実施中ですが、会員の方はどのような方が多いのでしょうか?

9月の中旬から第1期が始まっていて、現在8名の方が参加しています。年代は20代後半から30代前半の方が多いです。半分は鎌倉湘南エリアから来ていますが、都心から2時間ほどかけてわざわざ来てくださる方もいますね。会員の方は基本的に農業に対する知識というのはほぼゼロです。コロナ禍で外に出る機会がなくなってしまったり、食べ物に対する意識が高くなったり、自然に触れる機会を作りたいというようなニーズが世の中にあるのかなという気がしています。

 

—会員の方からはどのような反響がありますか?

例えば都心在住のリモートでIT系の仕事をしている方がいらっしゃるんですが、農作業をした後、「こういう汗のかき方をしたのは久しぶりです」とか「かなりリフレッシュできた」というようなコメントをくれます。さらに農業の魅力っていうのはやっぱり畑に行って汗をかくだけでなく、プラスアルファで地域の人から「ありがとう」って言ってもらえることなんです。農業の知識を学べるのに加えて、人の役に立っていることがすごく嬉しいというような声をいただくことが多いです。

 

多種多様な人の関わりで農業に新しい風を

—農家さんを含め、主婦、サーファー、障害者の方など様々な方がプロジェクトに参加されていますが、どのように周りを巻き込まれたのでしょうか?

もともと僕がフリーランスで地域の色々な活動に参加していたので、鎌倉湘南エリアに強いネットワークを持っていました。ニュー農マルを始めることを発信したところ、鎌倉に関わる様々なコミュニティの方から「やってみたい」という声がたくさんかかったんです。先ほども言ったようにコロナ禍で農作業に対するニーズが高まっていたことも大きいかもしれません。

ニュー農マルの運営チームには、動画クリエイターや写真家、マルシェやイベントのプロデューサー、webサイトを作っている人など業種を超えて様々な人たちが集まっています。そのような多種多様な人たちが農業に関わることで、例えばインスタグラムYoutubeを通して農家さんにフォーカスしたコンテンツを配信するなど、今までになかったような発信やイベントを企画する動きがどんどん生まれています。農家さんからは「このままぜひいろんな人を巻き込んでいってほしい」と言っていただいています。関わっている方たちもみんな楽しみながら仕事の合間をぬって積極的に参加してくれています。

鎌倉主婦チームとも連携としていて、女性たちの個性や経験を活かしたマルシェを開催しました。

 

—色々な活動に携わる中で、軸となっている思いは何ですか?

もともと自然が好きなので、自然に関わり続けたいということがまず一つ。そしてもう一つは人との関係性を大事にするということですね。僕は基本的に断らない人間なんですよ。手間がかかるとか、お金になるのかわからない、みたいなことはあまり意識していないですね。周りからはちゃんと考えた方がいいよとか言われたりもするんですけど(笑)。やっぱり人との関係性を一番に大事にしていきたいと思っています。僕はもともと農家になりたいとか農業をやりたいとかではなかったのですが、地域の中で活動していてたまたま出会った人との関係性を5、6年大事にしてきたからこそニュー農マルは生まれました。この軸は今後もぶらさずに活動していきたいと思っています。

 

コミュニティでサポートする農業へ

—事業の今後の展開について教えてください。

ニュー農マルが目指しているのはCSA(Community Supported Agriculture)という地域支援型農業の仕組みです。CSAとは災害や台風などで安定した取れ高を得ることが難しい農家さんを地域全体でサポートしていく仕組みです。消費者と農家が契約を結び、年間で決めたお金を農家に支払うことで農家は安定した収入を得ることができるし、消費者はお金を払っている分どんな野菜を作って欲しいなどリクエストすることが可能です。このような仕組みは欧米ではかなり定着していますが、日本ではまだまだ少ないです。ただ、気候変動や大規模災害が増えている中でCSAの必要性は高まっていると感じます。今は反対されている方たちも巻き込み、ニュー農マルを仕組み化することで鎌倉の農家さんに還元していきたいです。鎌倉でまずは成功事例を作ることで、それを色々な地域に展開し、いずれはこの方法で日本の食をサポートできると思っています。

 

—最後に事業を通じてどのような社会を作りたいですか?

僕は東京の一極集中ではなく、各地域が自立して循環していく社会の方が豊かだと思っています。例えば醤油が切れたら隣の家にピンポンして借りるというような、顔が見えるコミュニティの中で生活が回っていく社会を目指したいと思っています。その一端としてニュー農マルが成長していってほしいですね。

 

ニュー農マルHP http://new-normal.co.jp/

 

 

interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。