【井上雅登(KRP)×タナカユウヤ対談】京都に根付く、起業家を応援する優しさのエコシステム

歴史と伝統が根付く街・京都が、起業家を育てる街になりつつある。10年にわたり京都の起業支援に携わってきたタナカユウヤと、5代続く家業を通じて京都の商業に触れてきたKRPの井上雅登が、起業家の視点から見た京都の文化と、起業支援においてこれから求められる役割を語る。

【プロフィール】
井上 雅登(いのうえ まさと)
京都リサーチパーク株式会社(以下KRP)イノベーションデザイン部。スタートアップ支援のほか、イノベーションスポット「たまり場」の運営や、外部と連携したイベント・プログラムの企画運営などを行う。京都生まれ京都育ちで、実家は京都で5代続く化粧品屋。

 

タナカ ユウヤ
株式会社ツナグム取締役。人と人、人と場のつながりから新しい事業や幅広いサービスづくりを行う。京都への移住促進事業である「京都移住計画」のほか、京都を拠点に複数のシェアオフィスやコワーキングスペースの企画運営、商店街や地域に関わる事業を展開している。

 

加速度的な成長を求めない、起業家を見守る京都の文化

―本日はよろしくお願いします。まず、お二人は普段どんな仕事をされているのでしょうか?

タナカユウヤ(以下、タナカ):株式会社ツナグムを6年前に立ち上げて、「京都移住計画」や「京都移住コンシェルジュ」といった取り組みを通じて京都への移住促進を行っています。起業支援の分野では、KRPさんと一緒にイベントやスペースの企画・運営をさせてもらっています。
「ツナグム」という会社名が、「繋ぐ」と「生む」という言葉から作った造語で、繋がりの中からいろんなものを生んでいきたいなと思っています。やりたいことがある人が、それを実現できる環境づくりをしています。

ツナグム代表・田村篤史さんの記事はこちら。伴走支援をしながら移住のエコシステムを創る

KRP 井上雅登(以下、井上):京都リサーチパーク株式会社(以下KRP)で、イノベーションデザイン部に所属しています。元々は新卒で政府系の金融機関に入行し、約5年間中小企業融資に従事していました。京都支店に配属されて、京都府下全域を走り回った5年間でしたね。
それからKRPに入社して、「京都からの新産業創出に貢献する」というミッションの下、イノベーションデザイン部として主にスタートアップ支援を行っています。起業支援やマッチングをやりつつ、若手起業家やイノベーションに関するイベントスペース「たまり場」を立ち上げて年間100回のイベントを運営しています。

 

―元々お二人はお知り合いなんですか?

タナカ:僕が元々KRPにいて、2011年頃から町家を活用した起業支援拠点である「町家スタジオ」の運営をしながら起業支援やイベントを行っていました。自分たちが独立するタイミングで、KRPのパートナーとして協業しながら、何かやっていこうと企画していたときに、KRPに入社した井上くんと出会いましたね。

井上:余談ですが、タナカさんと初めて会ったときに、「井上くんのお父さん知ってるかもしれない」って言われて(笑)。僕の実家は京都で5代続く化粧品屋なんですが、父が商店街でいろいろと活動していたので、すでにタナカさんとは面識があったようです。

KRPが運営するイノベーションスポット「KRPたまり場」

 

―お二人とも京都で起業支援に関わっていますが、起業やスタートアップの分野における京都の特徴はどんなところだと思いますか?

井上:京都が持つ背景として、街のコンパクトさがあると思います。私の父とタナカさんがつながっていた話もそうですが、コンパクトな街なので人と人のつながりが濃いんですよね。
「私こういうことがやりたいんです」「こんなことに困っていて…」と話すと、その人自身が支援できなくても、「俺はできないけど、この人を紹介するよ」って人を紹介してもらったり、すぐに人を繋げたりできるというのが、コンパクトな京都の良さだと思います。

東京だと、会おうと思わないと人に会えないこともあると思うんですけど、京都は一つの街なので、ふらっと飲みに行くと「◯◯さん、今2階で飲んでるよ」なんてこともよくありますね(笑)。

タナカ:京都は大学が多くて、昔から大学発ベンチャーも盛んでした。僕が思うに、学生時代からいろんなことをやりたいと思っている人が、京都には多いです。そうした学生たちを応援したいという気持ちは上の世代の人も持っているんですが、上の世代の人たちが学生たちをまだよく知らない部分は大きいと思います。学生たちを知れば引き上げてくれる人も多いので、僕はその手伝いをしていきたいですね。
京都は、古き良きを重んじる文化もあるんですが、新しいものも結構好きです。挑戦しやすいとか、受け入れられやすいという環境もあるような気がしています。

井上:たしかに、京都には「加速度的な成長じゃなくてもいいよね」と認められる文化があります。長く続いている企業も多いので、長期スパンで物事を考える風土があるんですよね。なぜそうした企業が長く続いてきたかというと、時代に合わせて新しいものを取り入れたからだと思うんです。
それこそ、現在は化粧品屋をやっている僕の実家もそうだったんですが、明治時代の当初は宿屋で、戦前はメリヤス店、戦後に化粧品屋と、業態は大きく変わっています。戦後はなかなか売るものがなくて、ハンガーなどを売っていたそうなんです。そうすると意外と需要があって、地域の人の「こういうものがないから売ってほしい」という声を聞いて新しいものをどんどん増やしていくうちに、化粧品屋になったというわけです。

京都では、地域の人の声や困りごとを聞く中で、地域の人から必要とされる事業が続いてきたと思います。スタートアップでも同じで、すぐにはマネタイズできないかもしれないけど、将来的に社会課題も解決できるし、事業として新しいものが作れるとわかると、「応援しよう」となりやすい。そこで短期的なマネタイズがどうとか、リターンが…ってならないのが、京都の良さだと思います。

 

世代を超えた、優しさのエコシステム

―タナカさんは、京都で10年近く起業支援に関わる中で、京都の起業家や起業家を取り巻く環境はどのように変化してきたのでしょうか?

タナカ:僕は出身が滋賀県で、大阪で2年ほど接客業で働いた後に京都へやってきました。東日本大震災があった2011年頃から「町家スタジオ」に関わり始めたんですが、当時から5年程はアプリやwebサービスなどIT関係でプロダクトをまずはつくって事業化を目指す起業家の方々、ほんとスタートアップなイメージな方々が多かったのですが、その後は社会課題とか特定の分野をどうにかしていこうという、長期スパンを見据えた起業が増えてきました。
同時にVCやメディア、支援者も徐々に増えてきたことで、関西でもお金の調達がしやすくなり、起業への挑戦がし易くなってきていると感じます。井上くんも言うように、すぐにお金が稼げるかどうかじゃなくて、活動を始めることに対しての寛容さは、さらに出てきたような気がします。プロダクトがない分、見えにくくなっている部分もあるんですけど、5年程度じゃなくて、10年単位で考えないといけないなと思います。

ちなみに、町家以外でもいくつかの場所の運営やイベント企画に関わることにより、京都外のところでは「京都=タナカ」的な形で会話のきっかけになると会員さんやに入居者さんに言われることもあります。
それは僕自身、京都に移住してからいろんな人に応援してもらった過去があって、それがあってこその今があると思っているので、一生かけて京都に恩返ししていきたいなという思いがありますね。会社に所属しているけれど、それだけじゃない関係もつくっていきたいです。

井上:タナカさんの、「恩返ししたい」という感覚、すごくわかります。僕も、前職の銀行で中小企業の融資を担当していたときに、京都中の経営者に会いまくっていました。それこそ20歳そこそこの若造が、40歳ぐらい年上の社長さんに対して「何か設備投資ありませんか、融資させてください」って行くわけです。
僕が何もわかっていなかったと言えばそうなんですが、京都の経営者の方って、それをわかった上で「じゃあ目の前にいる若い子がどう成長したらいいか」という視点で話してくださるんです。営業に行って2時間ぐらい話しているのに、気がつけば1時間半ぐらいは私の身の上話をしているという。

当時は気づかなかったんですが、ベンチャー企業の創業支援や伴走、起業家のイベント運営といった起業支援の分野に携わってみると、そのときから京都の経営者の方たちに応援されていたんだということに気づきました。
それ以来、「その思いをつないでいきたい」と思うようになりましたね。上の世代の人たちがgiveしてくれるからこそ、自分の代だけで終わらせずに、次の世代へつなげていくという気持ちになります。脈々とした文化のようなものですね。

タナカ:京都って、街そのものがインキュベーションだと思います。長期スパンで経験を積んできた人が多いからこそ、いい意味で短期的な期待をせずに先を見ることができる。
エコシステムが優しいかんじで回っているんですよね。ビジネス色が強すぎなくて、周りにふわっとした優しさがある。その輪の中に入ると、人も紹介してくれるし、応援してくれるという仕組みがあるような気がします。

町家スタジオの様子

 

縦割り文化の京都に、横串を刺せる存在

―そのエコシステムを続けていくために、これから必要になるのはどんなことでしょうか?

タナカ:京都は縦割り文化のイメージが強いと思います。そこに、分野や所属を横断した横串を刺す人の存在が重要ですね。井上くんやtalikiの岳くんのように、動きやすい繋ぎ役がもっと出てきて連携していくことが大事だと思います。
それこそ、井上くんみたいな人をKRPに10人つくる、みたいな。今井上くん倒れたら誰が対応するんだ、ってなると思うので(笑)。行政やVCのような支援する側と、現場との両方の視点を持った繋ぎ役を増やしていきたいですね。

井上:起業家と投資家だけじゃなくて、その間を繋ぐ人は重要ですよね。京都って伝統の街でもあるので、互いの言語が通じないことがあります。100年前の話をする経営者もいれば、スタートアップは明日の話をしてるっていう(笑)。そういう中で、両方の話がわかる存在として僕たちは役割を果たしていかないといけないと思います。
うちの会社だけが頑張るんじゃなくて、有機的に人が繋がる仕組みを作っていくというのが、今後の5年、10年の目標だと思っています。

タナカ:僕らが若い人たちを応援するのは、自分たちも応援してもらった過去があるからで。これからの時代は彼ら若者がつくっていくので、僕らも勉強させてもらいながら、お互いにおもしろいものが作れたらいいなと思っています。
目指しているものは、10年前から変わっていないんですけど、愚痴を言い合うんじゃなくて「俺こんなことやりたいんだよね、やっているんだよ」って言える楽しい飲み会をしていたい。僕らがやっていくことが一つひとつつながって、最終的にいい社会や、新しい京都のブランドに繋がったらいいなと思ってます。
これ、普段あんまり言わないんですけどね(笑)。実はこんなことを目指してますね。

井上:飲みの席では何回か聞いたことありましたけど、こういう場で聞くのは初めてです(笑)。
僕も思いは同じで、前職や家業を通じて経営者の思いに触れていく中で、こうしてKRPの仕事でスタートアップの起業家たちと関わったときに、「立場は違っても、世の中を良くしたいという思いは同じなんだ」と思いました。そうした彼らの思いをつなげていくとか、次の世代に託していくのが、僕らの仕事だなと。
その結果として、楽しい社会になって、楽しく飲めるようになりたいというのは、タナカさんの思いと一緒だと思います。

 

京都には歴史的に起業家を応援する”やさしいエコシステム”があり、そのバトンを受け取りながら次の世代へと手渡していくようです。関係を繋ぎながら挑戦を全力でサポートするお二人から、そんな京都の一面を垣間見ることが出来ました。

そんなタナカさん・井上さんと共に、(株)talikiではインキュベーションプログラム【COM-PJ】を運営します。
お二人に会いたい方、京都での起業に興味を持った方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか?

※京都以外の地域からも応募可能です。

【COM-PJとは?】
社会課題の解決を目指し起業したい25才以下の方(創業2年未満、起業準備中など)を対象とした、支援プログラムです。仲間たちとの毎週の進捗報告会の他、経営者やVCなどの豪華メンターからのフィードバック、講演会などが毎月開催されます。参加費は無料です。

詳細はこちらのリンクから! https://www.talikikrp.work/

 

また、9/28(月) 18:30-19:30にオンライン説明会を行いますので、ご興味のある方は以下のフォームからご応募ください。
https://forms.gle/badhsgySLNzUFSco9

 

interviewer
河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。


writer
田坂日菜子

島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。