ライフスタイルを提案する洋服。品質の追求の末に生まれた炭繊維Tシャツとは

「自分が着たいTシャツがない」という思いと、妻の妊娠・出産をきっかけに、一から理想のTシャツを作った川船航。素材探しからこだわり、炭繊維にたどりついた。日常に感覚的な気持ちよさを与える炭繊維との出会いや、服からライフスタイルを問い直す思いを聞いた。

【プロフィール】川船 航(かわふね わたる)
2009年に合同会社Happiinoを立ち上げ、11年間DTP*やWebページ制作、アプリのUI/UX制作などを手がける。2017年には妻の川船亜貴子とともに炭繊維を使用したTシャツなどを扱うアパレルブランドsumigiを立ち上げ、Tシャツを中心としたインナーなどの製造・販売を行っている。

*DTP…デスクトップパブリッシング、卓上出版。雑誌やパンフレットなどの紙媒体のデザインをPC上で行うことを指す。

 

自分が着たいTシャツをつくる

―まず、sumigiの「炭繊維を使ったTシャツ」とはどんなものですか?

貴重なオーガニックコットンを、特殊な方法で炭素化した糸で織り上げたTシャツです。抜群の肌触りと、炭が持つ消臭や抗菌・遠赤外線による保温効果などが主な特徴です。

sumigiのTシャツは、インナーとして使用すると、肌との密着率が上がり、より良い高い効果を期待できます。肌に直接触れるTシャツとして、皮膚への刺激ができる限り少なくなる肌触りを目指しました。
あとは
炭を繊維化しているので、洗濯し、天日干しする度に消臭などの効果が蘇り、半永久的に炭の効果を保ち続けます。体臭を抑えられるほか、微量の遠赤外線を発して血行を促進する効果もあります。

 

―sumigiを立ち上げたきっかけについて教えてください。

実を言うと、「自分が着たいTシャツがない」という極めて個人的なこだわりが最初のきっかけでした。僕はお腹が弱くて、Tシャツの下にインナーを着ることが多かったんです。でも、Tシャツの首周りからインナーが見えてしまったり、ワイシャツのボタンを開けると首元からインナーが見えてしまったりと、なかなか納得のいくインナーやTシャツに出会えませんでした。

そんなとき、妻の母と叔母がやっているオーダーメイドの洋裁店が、後継者がいないこともあり、「どうやって店を閉じようか」と話しているのを聞きました。今年56周年を迎える歴史あるお店で、長年培われた技術もある。
日本の職人業界には、同じく後継者不足で悩んでいる人も多いと思い、その悩みを解決する一つのモデルケースとして、叔母のお店を活かして何かできないかと考えました。そこで、自分が理想とするTシャツのパターンをその洋裁店で作り、そこからTシャツを量産化し、さらにIT技術を掛け合わせることで、洗練された技術を広めることはできないかというアイデアにたどり着きました。

 

いいものを長く着る、ライフスタイルの提案

―Tシャツを一から自分で作ることにこだわったのはなぜですか?

妻が妊娠したことで、身の回りのものに気を遣うようになったことが一番の理由です。子どもが生まれることを想像すると、今まで使用していた市販の洗剤や洋服でも、徐々に成分や原料を気にするようになりました。子どもの服選びなどをしていく中で、「もしかしたら大人にも同じことが言えるかもしれない」と思ったんです。
大人も、少しいいものを着ていると気分が良くなりますよね。sumigiの洋服も、毎日の生活でストレスが減ったり、いい感情をプラスしたりするという役割を果たせたらいいなと思っています。

sumigiでは、皆様に服を届けるというよりは、「ライフスタイルを提案する」という気持ちでTシャツづくりに取り組んでいます。今のアパレル業界ではシーズンごとに安くておしゃれなものが手に入りますが、これからの時代は「良いものを長く使う」方向にシフトしていくと思っています。InstagramなどのSNSを見ていても、服やインテリアでいいものを長く使う人が増えているよね、というのは妻とも共通の意見でした。sumigiでもそういうものをつくっていきたいです。

 

また、このコロナ禍がきっかけで、「自分を大切にしていない人」が多いんじゃないかと気づきました。今回のこういう状況の中で、仕事や子育てですごく不安な状態になって、自分の身体や心のことをないがしろにしてしまう人も多いと思います。私もそうだったんですが、こういうときだからこそ、日常の中の「心地いい」という感覚を大切にしたいですよね。

美味しいものを食べたり、映像を見て感動したり、そういう自分を豊かにするアイテムは今後すごく大事になると思っていて。
sumigiは「着る」という場面で、毎日を少しでも心地よく、「自分を大切にしている」と感じられるアイテムになるんじゃないかと思っています。

 

アパレル業界外から参入する、夫婦二人の挑戦

―炭繊維との出会いについて教えてください。

ファッション業界に携わっている友人の紹介で、炭繊維に出逢いました。いろいろと生地を探していたところ、炭繊維は他にはない製造方法で作られていて、心からいいなと思える生地でした。
生地を開発した方の、「日本独自の素材や製法を大切にしたい」という想いに僕たちも共感したので、「ぜひ使わせてください」とお願いして使わせてもらうことになりました。

生地は海外製のものを使用して、安く作ることも可能なんですが、自分たちは日本のローカルメイドにこだわりたいと思っています。生地を作っている工場の方の、「自分たちの技術でやっていく」という職人魂や気概を強く感じて、その想いを受け取ったような気持ちになっていますね。

 

―sumigiでは、生地から縫製、販売まで行っていますが、苦労したのはどんなところですか?

総じて、思った以上に大変でした(笑)。グラフィックデザインでプリントTシャツをつくったことがあったのですが、Tシャツをゼロからつくるとなると苦労の度合いが全くの別物でしたね。

sumigiのTシャツは伸縮性の良さも特徴の一つですが、その分縫製などの加工が難しくなるんです。理想のシルエットが実現できるよう、何度もパターンを作り直して試行錯誤しました。スタンダードな形で、どんなファッションにも似合うシンプルさを目指しています。トレンドを追うという流れには反していても、それが長く着てもらうことにつながると思っているので。
実際に試着してくれた友人たちは、肌触りの良さに加えて、「このTシャツ着てると細く見える」と話してくれます。それぐらいシルエットにはこだわりました。

 

―アパレル業界出身でないお二人が一からTシャツを作ってみて、どんな気づきがありましたか?

誤解を恐れずに言うと、アパレル業界って華やかなイメージがあると思うんですが、実際に内部に入ってみると昭和から体制が変わっていないのかなと思うところも多いです。紙文化や、はんこ文化が根強く残っていたり、情報の共有がされていなかったりという現状があります。
そうした業界の体制を、僕たちのように業界の外から入ってきた人で変えていけるといいなと思っています。「こうしたら便利ですよ」というのをうまく伝えられれば、皆さんも取り入れてくださるのかなと思っているので、まずは今関わっている企業の方から少しずつアプローチしています。

 

製品に関わるすべての人を大切にしたい

―最後に、sumigiのブランドを通して、今後目指したい社会について教えてください。

sumigiで目指したいのは、感覚的な気持ちよさです。お風呂に入ったときに思わず「あ〜、気持ちいい」と声が出たり、喉が乾いてビールを飲んだときに「美味しい」と言葉を漏らしてしまうような気持ちよさを、sumigiを通して皆さんに提供したいと思っています。

あとは、このsumigiのプロジェクトの中で「エシカル」という考え方を知りました。「エシカル」とは「倫理的な」という意味で、人と社会、地球や地域社会に配慮した消費を「エシカル消費」と言います。
SDGsのような世の中の流れもありますが、例えば日本で安く着られている洋服の生産国では、子どもたちが学校に行けないくらい長時間の労働をした上で、我々の元に商品が届いているという現実があります。

僕たちsumigiのプロジェクトは、ライフスタイルの提供を掲げるブランドとして、関わっているすべての「人」を大切にしたいと思っています。sumigiのプロジェクトを、公正な社会を目指すきっかけにしていきたいです。

sumigi https://sumi-gi.com/

 

 

interviewer
河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。


writer
田坂日菜子

島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。