ボードゲームは合理的な学びの手段。経営視点をゲームで学ぶ、企業研修の仕掛け
インタビュー

ボードゲームは合理的な学びの手段。経営視点をゲームで学ぶ、企業研修の仕掛け

2020-09-05
#場づくり

幼少期から親しんだボードゲームの魅力に惹かれ、ボードゲームの制作者として新たな可能性を広げる山本龍之介。ボードゲームを使って学ぶことの意義や、経営視点をボードゲームで学ぶ企業研修の工夫を聞いた。

【プロフィール】山本 龍之介(やまもと りゅうのすけ)
1994年生まれ。兵庫県出身。株式会社NEXERAのCBO(最高ボードゲーム責任者)を務める。ボードゲームを使った企業研修を行う傍ら、自らもボードゲームクリエイターとしてボードゲームの制作を手がける。

学びの手段としてのボードゲーム

―まず、山本さんがボードゲームに興味を持ったきっかけを教えてください。

父がボードゲームを持っていて、幼い頃から家族や友達とボードゲームで遊んでいました。
旅行や海外が好きで、大学時代に2年休学してフランスやアフリカ、中東を旅していたんです。旅行先のゲストハウスにはボードゲームが置いてあることが多くて、ボードゲームがあるだけで初対面でも10分で仲良くなれるんですよね。それ以来、幼い頃から遊んでいたボードゲームのおもしろさを再認識するようになりました。

帰国後、「ボードゲームで食べていきたい」と考えて、自分で経済のボードゲームを作っていました。そんなときに現在の代表と出会い、ボードゲームを企業研修に使うというビジネスモデルにたどり着きました。

―山本さんにとって、ボードゲームの魅力は何でしょうか?

ボードゲームは、合理的な学びの手段だと思っています。ボードゲームって社会の縮図のようなところがあって、社会の複雑な構造もゲームで表現すれば楽しく学べたり、理解しやすくなったりするんです。

例えば人生ゲームだと、ゲーム上で人生の岐路や運命を疑似体験できますよね。他にも、土地を売買するゲームや、経済のゲームなど、普通に学ぼうとするとちょっと難しいことでも、ボードゲームで学ぶとすんなり頭に入ってきます。「ボードゲームで何かを学ぶ」というのはこれまでにない学び方ですが、実はすごく合理的な方法だと思います。

 

ケーススタディよりもリアルな会社経営の疑似体験

―会社経営を擬似経験できるビジネスゲーム『Marketing Town』を使って、企業研修を行っているそうですね。

『Marketing Town』は、“経営視点”を“体感”で学ぶビジネスゲーム研修です。4〜5人が1人1社ずつ会社を経営して、1テーブルで競い合います。各プレイヤーは経営者として、毎ターン、〈市場調査・出店・広告・仕入・販売・資金調達〉の中からアクションを選びます。最終的な営業利益で勝敗が決まります。

実際に手を動かしてゲームをした後は、ゲームの内容を講義形式でフォローアップします。「ゲームでこんな結果が出たのは、こういう仕組みだったのか」という学びを踏まえて、次は2期目の経営にチャレンジし、再び講義…という形で3期目までの会社経営に取り組みます。
ゲームを通じて、マーケティングや外部要因分析、経営戦略の立て方などをフレームワークに沿って学べるように設計されています。そうしたフレームワークが、自分の番が来たときにアクションを取る意思決定の中に、意識せずとも入ってきます。

また、毎回の行動を記録することで、財務の勉強にもつながるようになっています。損益計算書や貸借対照表を記入していると、「売上はあるけど利益がないな」とか「利益はあるけど支払いが間に合わなくて倒産しそうだ」といった情報が、感覚でわかるようになります。

 

―研修を行った企業の方の反応はどうですか?

実際にゲームに取り組んでみると、「けっこう難しいゲームなんですね」と言われることは多いです。現在導入してくれている企業さんは、ベンチャー企業が多く、上司にあたる社員の方も、本を読むよりは自分で試行錯誤しながら学んでいった方が多いと思います。部下に会社の事業を任せて失敗するわけにはいかないので、ゲームの中で失敗することで、上司の方がたどってきた道を追体験して学ぶことができると伝えています。
その点に注目して「ゲームもいいんじゃない」とか「ボードゲームで、こんなにできるんや」と言ってもらうことは多いですね。企業の方にも、座学で学ぶよりも効率的ですよ、と伝えるようにしています。

以前、『Marketing Town』を使った研修を、40〜50代の幹部社員の方を交えて行ったことがあります。若い人たちはゲームというだけで最初から楽しんでもらえますが、幹部社員の方は「ゲームで研修ができるのか」と若干怪しく思われているのが伝わってきました。
でも、ゲームが進むにつれて、幹部社員の方も大笑いして楽しんでいたり、テンションが上がっていたりする様子が見られて、最後は「めっちゃよかったね」と言ってもらえたことは嬉しかったです。

 

―企業が『Marketing Town』の研修を取り入れる決め手は何でしょうか?

研修で、「とりあえずやらせてみる」ができるのは大きいですね。人事担当の方は20代後半〜30代前半が多いですが、「講義や動画教材はなかなか学びにつながらない」というのを実感している人が多いです。

『Marketing Town』は、ケーススタディよりも実際の経営に近い形で、経験の一歩手前の「疑似体験」ができるゲームです。ゲーム内で勝つための定石はなく、状況が逐一変わる中で自分が取るアクションを考え続けなければなりません。ゲーム上で失敗してみたり、普段はやらないマーケティングに挑戦できたりといった、「自分でやってみること」を経験できる点が決め手になっています。あとは、単純に「やるんだったら楽しいほうがいいよね」というのもありますね。

 

おもしろさを追求し、テーマの本質を抽出する

―ボードゲームというと対面で行うイメージですが、新型コロナウイルスの影響は大きかったのではないでしょうか?

企業研修×ボードゲームという、まさにコロナの時代とは正反対のサービスだったので、正直「これはやばいぞ」と思っていました。でも、同時に「コミュニケーションがもっと重要になる」という思いもありました。
リモートワークが普及した中でも、「やっぱりコミュニケーションは必要だよね」という認識が高まって、多くの企業が社員同士で喋る機会を作ろうとしています。僕たちが行っている企業研修も、Zoomをつないで盤面が見えるようにカメラを設置して、オンラインで行う研修がメインになってきました。

オンラインでやると、余計にコミュニケーションの要素が重要になるんですよ。オフラインでボードゲームをするときは、駆け引きやバランス感、運といった要素があります。オンラインだとコミュニケーションが一番盛り上がって、それ以外の要素は盛り上がりにくいです。例えば人狼ゲームは、駆け引きを楽しむゲームですが、オンラインだといまいち盛り上がりに欠けるときがありますよね。情報伝達の方法が喋ることだけなので、駆け引きが難しいんです。

『Marketing Town』を使った企業研修も、オンライン化に合わせて、以前はテーブルの全員がライバルで競合関係だったところから、全員で1つの会社を経営する方法に変えました。
「今チャンスじゃない?」といった会話を通じてゲームを進めていくことで、よりコミュニケーションを楽しめるようになっています。柔軟に対応しながらオンライン化を進めています。

結局、コロナの状況を通じて、「人ってコミュニケーション取らな、しんどいねんな」という発見がありました。オンラインでもできるけど、オフラインでやったら尚更楽しいという、コミュニケーションを促進するツールとしてのボードゲームの価値を再発見できましたね。

 

―ボードゲームを作る上で、こだわっているのはどんなことでしょうか?

いつも考えるようにしているのは、「取り扱うテーマの一番おもしろいところはどこか」ということです。テーマのおもしろさや魅力といった本質を抽出できれば、どんなテーマでもボードゲームになるんです。例えば会社経営なら、手持ちのお金がない中で、どう費用を抑えてお金を増やしていくかというのが醍醐味のひとつになります。
会社のコンセプトとしても、「楽しんで学ぶ」ではなく、「楽しんでたら学んでた」を目指しています。どんなテーマでも、本質としての「一番おもしろいところ」を探し続けています。

 

日本のボードゲーム市場はブルーオーシャン

―日本のボードゲームの文化について、どのように考えていますか?

日本のボードゲーム市場はまだまだブルーオーシャンです。ボードゲームはヨーロッパの市場がメインで、家に何個もあるのが普通ですが、日本とは随分違いますよね。ボードゲームを教育や研修に使う考え方も、海外ではある程度の土壌がありますが、日本ではまだ遊びとしてのゲームに留まっています。

でも、『Marketing Town』は実は日本のビジネスボードゲームから着想を得たものなんです。代表の飛田はもともと別のビジネスボードゲームでビジネスを学んでいました。しかし、そのゲームをやりこんだ結果、「もっと現代に合ったマーケティング的な内容にしたい」という思いを持つようになりました。
当時はものを作れば売れる時代だったので、ゲーム内でもどんどん商品を作って売るアクションが主流でしたが、今はものを作っても売れるとは限りません。手元にあるお金をどう回すかというよりは、どうお金を生み出すかというマーケティングの視点を現代の私たちは勉強するべきだと思っています。そんな代表のビジネスボードゲームへの想いが『Marketing Town』の着想になりました。

 

―最後に、山本さんの今後の目標を教えてください。

何かを学ぶときに、ボードゲームが選択肢に上がるようにしたいです。今って本を読んだり、Youtubeを見たりといった方法が思い浮かびますが、そこにボードゲームも加えたいですね。
会社としては、「企業研修といえば『Marketing Town』だよね」と言ってもらえるような、令和の企業研修といえば『Marketing Town』という世界観を作っていきます。

ボードゲームで学ぶのは、楽しいしほんまに効率的なんですよね。新しい学びの選択肢として、働き方改革に続く「学び方改革」的に(笑)、大人の学びの選択肢を増やせたらなと思っています。

Marketing Town https://marketingtown.jp/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。


    writer
    田坂日菜子

    島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

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