国連をも巻き込み世の中の不条理をなくす。エネルギー、食糧、お金で新しい社会モデルを

エネルギー、食糧、お金。この3つの構造を変えることで公平な世の中を作るべく、モザンビークで奮闘する合田真。現地の人だけでなく、国連やJICAなどの様々なセクターをも巻き込みながら現地のニーズに寄り添った事業を展開していく合田に、事業の背景にある想いやこだわりを聞いた。

【プロフィール】合田 真(ごうだ まこと)
日本植物燃料株式会社代表取締役社長。2000年に日本植物燃料株式会社を設立。植物燃料を製造・販売する事業を展開している。2012年にモザンビークにて現地法人ADMを設立。再生可能エネルギーや食糧生産の支援、電子マネー事業に取り組んでいる。

 

モザンビークに電子マネーと農協を

—現在の事業について具体的に教えてください。

アフリカのモザンビークで主に活動しています。一つは国際機関が行う支援にeバウチャーというものを導入する事業です。FAO(国連食糧農業機関)やWFP(国連世界食糧計画)が村の人たちに向けて、農業資材を買う店で使うことのできる券を発行するという支援を行なっているのですが、それを僕たちが電子マネー化しています。農家さんがsuicaのようなカード(=eバウチャー)を持っていて、例えばまず自分で1000円チャージしたらそれに対して2倍くらいのお金がFAOから追加され、合計3000円分の農業資材が買えるようになるという流れです。従来紙バウチャーで行なっていた取引を電子化することで誰が、いつ、どのくらい使ったのかを追うことができるようになります。

国連機関は各国の政府などから資金を集め活動しているのですが、寄付者から自分たちのお金がどのように支援先に届いているのかを可視化してほしいという依頼が多かったため、実現したプロジェクトです。僕たちはそのためのシステムを提供すると共に、実際に現地で農業資材店の方に電子マネーの使い方をトレーニングしたり、一軒一軒の農家さんに使い方やメリットなどを伝えたりする役割を担っています。

もう一つは、農協を作る事業です。一軒一軒の農家さんがバラバラだと、例えば農業資材を買うとなっても安いものや周辺に売っているものでないと買うことができないですよね。それを共同購入にすることによって大きな設備投資をしたり、遠くからまとめて仕入れてきたりすることができるようになります。他にも農家さんが10kgだけ作物を作ったからといってそれだけを出荷するのはロジスティック的に困難です。
日本では農家さんたちが農協に加入していて共同出荷や共同購入をするという仕組みが充実しているので、それをモザンビークにも導入しています。現在はモザンビークのみで事業を行なっていますが、今後は南アフリカとセネガルでも展開していく予定です。

一つ目のeバウチャー事業はもともと紙媒体で行なっていた取引を電子化するだけなのでそこまで複雑ではないのですが、農協はアフリカ全体でも4%程度しか加入者がいないので実態がまだ弱いんです。実態を作りながら同時にデジタル化するためには障壁も多く、時間をかけながら奮闘しています。

 

—どのような経緯で今の事業に至ったのですか?

モザンビークに行ったのは偶然なんです。うちの会社ではもともと植物から油をとってそれを精製し、再生可能燃料であるバイオ燃料にするという事業をやっていました。そのときに共同で事業を行なっていた石油会社さんにバイオ燃料の原料となる作物を作るところからやりたいと依頼を受け、偶然彼らが選んだのがアフリカのモザンビークでした。石油会社の方々は植物のことについてはわからない部分が多いとのことだったので、うちが農園を作ったり植物を栽培したりというところをお手伝いするようになったのがモザンビークでの最初の活動です。

 

前提に疑問を持ち、既存の構造に切り込む

—金融に食糧、そしてエネルギー。このような地球規模の問題に取り組まれている背景にはどのような想いがあるのでしょうか?

大きなことを言うと「世の中から不条理を減らす」という想いはずっと持っていますね。僕が長崎出身で原爆や戦争などについて身近に考えてきたこともあり、「今日の延長に明日が疑わずにある」と思えるくらい平和な世界がいいと思っています。不条理に対してデモやプロテストなど政治的な活動をすることも意義があると思いますが、僕には自分の手が届くところから変えていくことの方が性に合っています。バイオ燃料もその一つでした。

バイオ燃料を作るのって石油燃料を作るのに比べてお金も時間もかからずにできる。やろうと思ったら少なくても木を植えて、今年は100本だったけど来年は300本に増やそうという感じで自分にも手が届く、想像できる範囲だったんです。だからまずバイオ燃料でエネルギー領域に取り組み始めました。

そこから、明日の心配なく平穏に暮らすためにはエネルギーももちろんですが、食べ物がちゃんと不安なくあることも必要だと考えるようになりました。エネルギーや食べ物など「リアル」に必要なものを自分たちの手で作る。そうなると、その作ったものの対価の分配が公平でないと不条理が起きてしまいますよね。お金の在り方がフェアじゃないとリアルなものだけを一生懸命作っても報われない。例えばモザンビークの農家さんと日本の農家さんがそれぞれトマトを10kg作ったとしても、モザンビークの農家さんは5000円の収入で、日本の農家さんは2万円の収入だとするとフェアじゃないですよね。厳密には品質の差などはあるかもしれませんが個人の努力と得られる対価のギャップが、お金の生んでいる不条理です。そのため、電子マネーなど金融の領域でも事業を行うことにしました。

まとめると、世の中から不条理を減らしたいという想いで、リアルに必要なエネルギーと食糧、そしてそれらの対価として分配するお金、これら3つの仕組みにアプローチしています。

 

—合田さんが取り組まれている事業はどれも専門性の高い領域ですね。ご自身が専門家ではない中でこのように幅広く挑戦できるのはなぜですか?

挑戦する上で自分が専門家かどうかはあまり気にしていないですね。むしろ僕自身が何かの専門家ではないので、専門家にとっては大前提となるようなことを取り払って「なんでそもそもそんなことになってるんだっけ」と違和感を持つことができます。そこから事業の方向性を決めて、実行する部分は専門家に任せる。そうやって役割分担をしています。前提を疑うこと、これが僕にとっては目の前の課題に誠実に向き合い続けるスタートラインになっているんだと思います。

 

よく見聞きし、変化を感じとる

—モザンビークのような異国の地での活動は現地の人との信頼関係が重要だと思いますが、信頼を獲得するために意識していることはありますか?

モザンビークに限らず、自分の当たり前が相手の当たり前だと思わないことが当然必要だと思います。ただ違うだけでどちらが優れているわけでもないです。例えば日本人は時間に厳しいけれど世界中の人はそこまで厳しい人たちばかりではないですよね。時間を守らないことを悪いと言って怒るのではなく、「どうやってその価値観が育ってきて、それが常識になったんだろう」なんて考えを巡らす。相手の背景を想像するのが楽しくてやっていますね。

現地に行ったらまずは前提を持たずによく見聞きするようにしています。こっちのことをああだこうだいう前になるべく相手のことを知ろうとする。こちらが何かやりたいことがあって現地に行っているのだから当然そこの人たちの協力が不可欠ですし、争いを起こしても現地の人には勝てません。そもそも争いになった時点で負けです。あとは村の中での人間関係を見ることも重要です。人間関係は複雑なので、どのようなグループがあるのか、どんな系統の人がいるのかなどを見極め、間違ったところを踏まないように気をつけています。

 

—現地の人との協力もそうですが、合田さんはFAOやWFPなど大きな組織と共同して様々な事業をやってこられています。大きな組織とのプロジェクトはどのように生まれるのでしょうか?

相手の企業が大きいか小さいかはあまり関係なく、相手側にこの事業を一緒にやりたいと惚れ込んでくれる人がいるかどうかが重要です。特に大企業の場合は、個々人がやりたいと思ってもそれを必ずしも会社でやれるとは限りません。それでも本当に面白いしやりたいと思ってくれる人たちがいれば、会社からは正式に許可がでなくても空いている時間に裏プロジェクトのような形で一緒に始めることもあります。僕たちは彼らが大企業の中でも動きやすくなるように、そのプロジェクトをJICAさんや政府関係の案件にすることで正式に会社から許可が降りるようにします。僕たちは出来上がった商品を売り込むことはなくて、一緒に新しいプロジェクトをしましょうという提案をしているので、その事業を本気で一緒にやりたいと思ってくれて周りを引きずり込めるような人の存在が必要不可欠だと思っていますね。

 

—合田さんは現地のニーズを見極めながら柔軟にビジネスを展開されていますね。背景にはどのような試行錯誤があるのでしょうか?

やはりよく観察して、変化にちゃんと気づくことに尽きるかなと思います。例えば電子マネー。初めはバイオ燃料のエネルギーを提供するためにキオスクを運営し、ランタンの貸し出しや冷たい飲料水の販売を行なっていました。しかしその店舗で管理していた現金がなくなるなどのトラブルが発生しました。

現地スタッフに「なぜ現金が足りないのか?」と尋ねると、次のような答えが返ってきました。「私は電卓を持っているから計算間違いなんてしない。絶対に私のせいではない。私が思うに、これは妖精のせいじゃないかと思う」(中略)「アフリカというのは妬みの文化なんだ。だから、この店を妬んでいる人たちが、悪い黒呪術師に頼んで、呪いをかけている。呪いをかけられると、豆粒みたいな妖精が入って来て、お金を持っていく。だから、お金がへっているんじゃないか」(中略)笑い話のように聞こえるかもしれませんが、彼らはいたって真剣です。(中略)周囲もスタッフの主張に同調するので、売り上げ金の管理責任を追求するのは難しい状況でした。

出典:合田真(2018)『20億人の未来銀行』日経BP


監視カメラを使って監視することも考えましたが、それでは「疑っています」というメッセージを発信することになってしまうので、店員との信頼関係を維持しつつうまくお金を管理する方法はないかと考え電子マネーを導入しました。

あとはやっぱりニーズがないと続かないですから。こんな世の中にしたいとか不条理をなくしたいとか大きな理想も掲げていますが、理想があっても今日お金がまわらなくなって会社が潰れたらそれまでじゃないですか。だから一つひとつお客さんにお金を払っていただけるようなことをして、ちゃんと稼ぐということは意識していますね。やりたいことや試したいことは無数にありますが、現実にできることは限界があるので、何に注力するのか選択していくことも大切だと思います。

 

一つひとつの積み重ねで新たな社会モデルを

—今後目指していることを教えてください。

僕は先ほど行ったように自分の手の届くところから手がけていきたいと思っています。今やっている再生可能エネルギーを作ること、食糧を作ること、フェアなお金の構造を作ること。その一つひとつで僕の手が届くところはたかが知れているので、そんなに大規模なことはできないと思います。実際にモザンビークで力を入れて動かしているのは一つの州ですし、国内でも新潟の一つの集落レベルです。ただそこで一つひとつのパーツ、つまりエネルギーと食糧とお金という全てのパーツが積み上がっていくと、一つの社会モデルが形として見えるようになると思っています。でもそれを大きな規模ではなくて、個々の小さい集落や町単位で自給率を高めていき、社会全体として資源の奪い合いが起きず、フェアな分配が行われる状態を目指しています。

新型コロナウイルスの影響によって、なおのこと自分たちの足元でどういう社会を作り回していくのかというところをもう一度考え直そうという人たちも多いのではないでしょうか。

日本国内でも、特に一つひとつの市町村がちゃんと自分たちの足で立てているかどうかが重要になってきます。最近は新型コロナウイルスの影響でアフリカに行けないこともあり、新潟で酒米を作ったり、馬を使った農業をしたりもしています。僕にとっては社会モデルを作るという点ではモザンビークにこだわりがあるわけではないので、日本の地方でも今後事業を形にしていきたいと思っています。
若手起業家のみなさんにはこのような情勢をチャンスだと思いながらも、あまり難しいことを考えすぎず、好きなことで頑張って欲しいですね。

 

日本植物燃料株式会社 http://www.nbf-web.com/japanese/index.html

 

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interviewer
河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

 

writer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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