もう誰も一人で泣かなくていいように。「温かい他人」を届けるサービスとは
世の中には身近な人には話せない悩みを抱えている人がたくさんいる。ホストクラブでそんな気づきを得たことがきっかけとなり、rainyを創業した山根春輝。自分たちが専門家ではないからこそできることのために奮闘する彼に、悩みを抱え苦しんでいる人に寄り添うサービスのこだわりを聞いた。
※現在は事業を終了しています。
【プロフィール】山根 春輝(やまね はるき)
RAINY運営事務局代表。島根県出雲市出身。慶應義塾大学休学中。大学1年時に小学生向けの教育事業を立ち上げ。その後「今までとは全く違う世界を見てみたい」という思いからホストクラブで働く。そこでの気づきがきっかけとなり、2018年にrainyを設立。
もくじ
「温かい他人」を届ける
—事業について具体的に教えてください。
rainyは「温かい他人」を届けるサービスです。具体的には、申し込んでくれたお客さんとキャストが1対1でカフェに行ってお話したり、電話をしたりしてお客さんの「話を聞く」サービスを提供しています。僕たちはお客さんのことを「フレンズさん」と呼んでいるのですが、フレンズさんの中には鬱と診断された方やLGBTの方などが多くいて、rainyという「近すぎないから気兼ねない、温かいから遠くもない」という距離感を求めて利用してくれています。
リピートして使ってくださるフレンズさんがすごく多くて、初回はみんな悩みを相談するために使ってくれるのですが、2回目以降はキャストと話すのを楽しみにしてくれたり、支えとして使ってくれたりしています。
—「他人」にこだわるのはなぜですか?
僕は以前ホストクラブで働いていたのですが、僕が「家族でも友達でもない存在」だからなんでも話せるというお客さんにたくさん出会ったんです。世の中には悩みを抱えている人がたくさんいて、でも相談できる人がなかなかいない。カウンセリングはハードルが高いし、レンタル◯◯は軽すぎる。rainyのようなちょうどいい距離感を求めている人はたくさんいるのではないかという思いがきっかけとなりました。また、僕自身が両親を早くに亡くしていて、辛い時や疲れた時に兄弟に相談することもありませんでした。そういう時にマッサージや夜の世界などで、お店の人だから話せることがあるということを感じていました。自分自身が「温かい他人」の必要性を感じていたからこそ、今のrainyがあります。
—キャストの方々が専門家ではないからこその難しさもあるのでしょうか?
専門家じゃないからこそできることもあると思っています。フレンズさんの中には病院に行く必要があるという方もたまにいらっしゃいます。そういうときに例えば、僕が一緒に病院に行くこともあります。一人では病院に行きづらいからこそ「一緒に行こうよ」と声をかけることはできると思っていて。「一人じゃないようにする」というか、一緒に悩むことが僕らにできることなのかなと思っています。
—フレンズさんとは具体的にどのようなコミュニケーションをとっているのですか?
もちろん気軽に利用してくださる方もたくさんいて、一緒にカフェでお話したり一緒に美術館に行ったりすることもあります。
最初は天気の話など「うんうん」だけで会話が進むような話題を振って、そこからフレンズさんの好きなものとか趣味の話をしていきます。会話が盛り上がってきたら、やっと自分の話もはさみながら少しずつフレンズさんの心の話を聞いていくことで、会話をリードしてフレンズさんに安心してもらうことを意識しています。
—印象に残っているフレンズさんとのエピソードはありますか?
rainy創業当初に使ってくれていた方がとても印象に残っています。その方は鬱病と診断されて会社をやめたのですが、そのことを家族に話せていませんでした。その方とは一緒に猫カフェに行くなどして時間を過ごしていましたが、時々会社から退職の手続きなどで電話がくることがあって、そうすると「うっ」となってしまうんですよね。また、一人でいると気持ちが落ち着かず、全てが嫌になって苦しくなってしまうと言っていました。そんな時に僕が一緒にいてなんでも相談できたことで「一人じゃないんだ」と思うようになったそうです。それが励みになり少しずつ壁を乗り越えていって、会社を完全にやめることができたことで苦しさのピークも乗り越え、最終的には元気になってくれたんです。苦しさにも波があり、一番苦しいときにちょうどよくそばにいることができたのが大きいと思います。僕らの理想はフレンズさんにとってrainyが必要なくなることです。rainyがなくても毎日楽しく過ごせるようになって、「じゃあね」と言えた時は本当に嬉しかったですね。
自分の過去と重ね、今大変な人のためになにかしたい
—キャストの方々はどのような動機で応募されるのですか?
キャストとフレンズさんは紙一重だと思っています。キャスト自身、人生に疲れていた時期があったり家族にそのような人がいたりしてrainyに強く共感してくれています。自分にも大変な時期があったから、今大変な人のためになにかしたいという思いで応募してくれる人が多いです。
—応募があった中で実際にキャストになれる人はごく一部だと伺いました。キャストさんを選ぶときに大切にしていることはありますか?
もちろん前提として人柄や清潔さなどは重視しています。その上で一番大切にしているのが、面接をした面接官自身が楽しいと感じるか、もっと話したいと思えるかということです。相性はありますが、フレンズさんも色々な方がいるのでそこに合わせることができるかどうかもキャストの実力だと思っています。
世界観を表現することに妥協しない
—以前は「添い寝サービス」をされていて、この春にリニューアルをし、現在の事業に至ったと伺いました。「添い寝サービス」を実際にやってみることでわかったことや気づきはありますか?
さみしい夜に寄り添う「添い寝サービス」を始めたい | CAMPFIRE
他人との触れ合いから遠ざかっている人たちや本当に疲れている人たちにとって、人肌の温かさはとても大切だということを感じました。でもサービスとしては難しいことが多くて。リスク管理として、弁護士に入ってもらい、規約やプライバシーポリシーを作りこみました。その上で、添い寝の間は常に録音したり、キャストの心拍数を測ったりと、万が一何か問題が起きた時に確認できるような仕組みを整えていました。それでも例えば公式LINEを作っても消されてしまったり、他社と契約をしたいと思っても断られたり。メディアの取材依頼を受けた時は必ず「添い寝を撮影させてください」とお願いされるんです。実際の添い寝の場面がテレビなどに載るとその捉えられ方は僕たちのコントロールできないところにいってしまうと思い断ると、「じゃあ取材は結構です」と言われてしまうことが多かったです。
—rainyを発信する時に気をつけていることありますか?
サイトを作る際、一言一言にはすごく気を使って文章を練ったり、デザインもほぼ自分で書きました。サービスが完成するまでは僕の中でのイメージが強すぎてメンバーと世界観を共有することに苦労もありましたが、一度サービスを完成させた後は同じ方向を目指していけるようになったと思います。また、僕たちはキャストさんのスカウトは一切やっていなくて全員ホームページなどを見て応募してくれた方なのですが、みんなrainyに強く共感してくれているので妥協せずに自分の世界観を形にしてよかったと思っています。
最初は「添い寝サービス」っていう名前だけでは軽いイメージを与えてしまうと思ったので、クラウドファンディングを通して言葉や表現に重みを持たせることを意識しました。その結果想いが強すぎて、「ちょっとした悩みでは使っちゃダメなんだ」と思われるお客さんが多く出てきました。僕たちとしてはやりすぎなくらいに強い想いを発信してそこから整えていこうと思っていたので方向転換をして、レイン君というキャラクターを作ったり、漫画や体験記を発信したり、現在はバランスの良い発信を心がけています。創業時はフレンズさんのほとんどがかなり深刻な悩みを抱えていましたが、今は「なんかモヤモヤする」とか「惚気を聞いてほしい」っていうような相談も増えてきました。
もう誰も一人で泣かなくていいように
—今後rainyを通してどんな未来を作っていきたいですか?
現在提供しているオフラインでのサービスは東京都23区限定です。もともとrainyの事業を一気に拡大させようとは思っていなくて、求めてくれる人が出てきたら他の地域にもサービスを届けていきたいと思っています。「人」をサービスとして届けるっていうことがまだ世の中にはそんなに広まっていない中で、それが自然になっていくのは時間もかかることだと思っているので、長い目で見ています。
会社としては今も新しい事業に向けて動き出そうとしています。その先に見据えている理想の社会は、やっぱりrainyが必要なくなって「もう誰も一人で泣かなくてもいい」世の中です。家族や近しい友人に相談ができるようになったらrainyは必要ないし、そのための勇気の第一歩として「僕たちに話せたから身近な誰かにも言えるかも」って思ってもらえたらいいなと思っています。
rainy https://rainy.jp/
interviewer
田坂日菜子
島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。
writer
堂前ひいな
幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。
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