キャッチコピーは「75歳以上のおばあちゃんたちが働ける会社」〜福岡県うきは市から見える持続可能な社会の仕組みとは〜

高齢者の孤独と貧困を解決するべく、おばあちゃんが働ける会社「うきはの宝」を設立した大熊充。自身が持つデザインのスキルと知見を活かし、地元福岡県うきは市の課題解決に取り組んでいる。地域のボランティア活動から始まり、現在の雇用創出に至るまでの経緯やこだわりを聞いた。

【プロフィール】大熊 充(おおくま みつる)
1980年生、福岡県うきは市出身。高校卒業後バイク関連業界に従事したが、20代でバイク事故を起こし約4年の入院生活を送る。その後2014年1月、大熊Webデザイン事務所を創業して代表に就任。2017年4月専門学校日本デザイナー学院九州校に入学して、グラフィックデザインとソーシャルデザインを学ぶ。地域課題に挑みたいと思いその後、社会起業家育成のボーダレスアカデミー二期福岡校を修了して、うきはの宝株式会社を2019年10月に設立、代表取締役に就任。

地域課題をデザインで解決する


ーうきはの宝の事業内容を教えてください。

食品製造の部門と、「ばあちゃん食堂」という飲食店経営を行なっています。そこから派生し通販事業も行なっています。具体的には、おばあちゃんたちによる昔ながらの手作りの「おむすび」と「漬物」の卸売と、おばあちゃんの手料理の飲食事業を柱としています。現在は新型コロナウイルスの影響で「ばあちゃん食堂」を休業して、通販用の加工品の商品開発に取り組んでいます。うちは基本的に、おばあちゃんたちに指示して何かをやらせるっていうのはやっていないんですよ。おばあちゃんたちが何をやりたいかを聞いてきて、料理で喜んでもらいたいという声が多かったので食を事業のメインとしています。

「ばあちゃん食堂」で提供されている料理


ー自身でWebデザイン事務所もやってらっしゃるんですよね。その傍ら、うきはの宝を設立されたのは何故ですか?

理由は2つあります。最初のきっかけは、地域で何か貢献できることを探していたことです。僕は20代の時にバイクの交通事故を起こし、4年近く入院しました。20代で4年も入院すると廃人みたいになっていたのですが、その時に一緒に入院していたおばあちゃん達が声をかけたり助けてくれたりしたおかげで社会復帰できたんです。そこから地域のおじいちゃんおばあちゃんに何か手助けしたいと思い、高齢者の無料送迎などのボランティア活動を始めましたが、高齢者の孤立と貧困問題に直面しました。高齢者は一人暮らしが多く、私としか関わりないっていう方々もザラにいて、孤立し生きがいを失っている人もいます。国民年金の受給だけではやっぱり生活が苦しく、買い物も頻繁に行けない。この生きがいと収入増加の2つを目的として、おばあちゃんたちが働ける会社を設立しました。
2つ目は、これは「ソーシャルデザイン」と呼ばれる領域なのですが、地域課題をデザインで解決したいと感じたからです。7年前に設立したデザインの会社では、クライアントさんや企業の問題をデザインによって解決しています。田舎のうきは市にいながら、都会の企業さんからデザインの仕事を受けるというルーティーンだったのですが、僕も社員も地域を全然見ていないことにどこか納得できずにいました。そこで、自分たちのデザインの力を自分たちが感じた地域課題の解決に活用したいと思うようになり、現在の形に至りました。うきはの宝の取締役は皆デザイナーなのですが、僕らのデザイナーとしての挑戦でもありますね。 

4000人の高齢者との対話を通じて見えた課題


ー「75歳以上のおばあちゃんたちが働ける会社」を掲げていらっしゃる背景を教えてください。

おばあちゃんと一概に言うと、50代のおばあちゃんもいると思いますが、その方達は案外パートなどで働けます。一方で、75歳以上は働く場所が皆無だと調査を通じて分かりました。年齢もですが、地域の時代背景として共働きの文化がなく外に働きにいったことがない人が多いんです。
以前始めた高齢者の無料送迎以外でも、起業までに4000人近くのうきはの地域内外のおじいちゃんおばあちゃんと対話してきました。「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ」という意識を大切にしていて、一次情報を他人が取ってくるのではなく僕自身が取りに行くようにしています。その結果特に深刻だと感じたのは、該当の75歳以上のおばあちゃん300人のうち、5人に1人が「働きたい」「働かざるをえない」と言っていることです。経済的な余裕がなく、結果生活に困窮していて、今後の暮らしに不安を抱えています。しかし、「年金とプラスで2万から3万円あると生活が楽になる」というリアルな数値が分かり、「あれ、もしかしたら僕作れるかも」と思ったんです。おばあちゃんたちの話を聞くだけだったらただの話し相手ですが、どうやったら解決できるかを考えそれがビジネスに繋がりました。

 

ー実際にどのようなおばあちゃんが働いているのですか?

うきはの宝では、75歳以上を「おばあちゃん」と呼び、75歳以下を「おばあちゃんジュニア」と呼ぶ、ジャニーズ形式を取っています。今は一番上が85歳、下が55歳のおばあちゃんが働きに来ています。うちは「おばあちゃん」「おばあちゃんジュニア」「マネジメントする社員」のチーム体制なんです。おばあちゃんは基本的に誰でもウェルカムですね。おばあちゃんの事業がうまくいったら、次はおじいちゃんの働く場所も作っていきたいと考えています。

おばあちゃんの生きがいと収入向上を目指して


ー「うきはの宝」を始めてよかったと感じた出来事はありますか?

 たくさんありますが、3つに絞ります。
1つ目は、あるおばあちゃんがうきはの宝を通じて60年ぶりに幼馴染と再会したことです。2人は子どもの頃によく遊んでいて、今は車で10分程度の隣町に住んでいます。僕は「近くに住んでて60年も会わんっちゃね」と不思議に思ったのですが、車に乗らないから行動範囲が狭く、2人とも1人暮らしであまり外に出歩いていなかったんですよね。再会して今は一緒にうきはの宝で働いているのですが「大熊君が死ぬ前に会わせてくれた」と言ってくれて感動しました。これだけでもやっててよかったと思います。
2つ目は、うきはの宝は日当でお金を直接お渡してしているのですが、おばあちゃんがそのままその日の帰りに地元の祭りでお酒を買って、その場で飲んでたことです。切り詰めた生活の中で、うきはの宝で計画にないお金を稼ぎ、その場で買って全部使う姿に「これはいい」と思って。今まではそういう衝動買いやお酒の購入は出来ていなかったと思うし、それもおばあちゃん2人で飲んでいて、小さくても地元の経済も回しているなと思いました。
3つ目は、働いているおばあちゃん達が元気になったことです。元気になりすぎて、ついてた杖を放り投げて仕事をやっている人もいて、介護予防的な意味で健康になるのではと感じています。うつ状態の人もいましたが、精神も元気になって元気なおばあちゃん達同士で喧嘩も始まったりします(笑)。専門家じゃないのでまだ数値は出せませんが、会社設立当初からの目的であった生きがい作りと収入向上は実感していますね。遠くに住むおばあちゃんの家族からも、お礼の電話が度々かかってきます。


ー「うきはの宝」の事業を行う中で見えてきた課題はありますか?

 おばあちゃんたちは雇用ではなく委託という形をとってるのですが、国に高齢者向けの短時間労働や高齢者が働く環境の制度や枠組みを作って頂きたいと思っています。長時間勤務の場合しか雇用保険がつけられなかったり、20時間以上の労働は高齢者にとってリスクがあります。国も生涯現役を掲げている以上、実際の現場を見て頂いて、制度や法律を柔軟な形にしていって欲しいです。今は民間企業側のリスクが高すぎるように感じます。うち1社じゃ当然制度を変えることができないので、色々なところと協力し働きかけていくことが、僕のミッションだと感じています。
おばあちゃんたちの活躍をサポートしている日本全国の事業同士で「ばあちゃん同盟」なるものを作りたいと思っています。

全国に展開できるビジネスモデル作り


ー日本の各地域で少子高齢化が進んでいると思います。うきはの宝のような事業が他の地域で生まれるためにはどうしたら良いでしょうか?

僕みたいなのが1人いれば簡単に生まれますよ。そのため、うきはの宝のノウハウや決算書をすべて開示し全国にこのモデルを渡していこうと思っています。僕がうきはで成功したっていうだけでは、なんの課題解決にもなっていません。田舎に残りたい若者や田舎に行きたい若者に、その地名に合わせた「〇〇の宝」というふうにどんどん展開できればいいなと思っています。
おばあちゃんが働く会社は1つの町に1つあるだけで、きっちり収益を上げられると思うんですよ。なぜならコストがあまりかからないからです。うちも工場拠点が4つありますが、光熱費や家賃諸々合わせて月10万円かかっていません。廃園になった保育園の給食室を利用したりしていますが、田舎には古い空き家や食品製造の認可がとれるキッチンがたくさんあるので新設する必要がないんですよね。このビジネスモデルが誰でもどこでも応用可能というのを、この3年間で実証しようと思っています。


ー中長期的に大熊さんが掲げている社会のゴールを教えてください。

 「多世代型協働」を掲げています。今はおばあちゃんを対象に事業を行なっていますが、仕事に限らずそこに子どもたちも入り、いろんな世代が協力しあって働ければいいなと考えています。うちの地域もそうですけど、超高齢化地域になり若者だけが高齢者を支える構造は国の財源的にもマンパワー的にも無理だと思っています。ボランティアの経験を通じて、ボランティアだけでは続けられないもどかしさも感じました。そこに収益やお金を生み出す仕組みを作り、継続的にいろんな世代が混じり合って協力する仕組みを、次世代の為に作っていきたいです。

 

うきはの宝 https://ukihanotakara.com/

ばあちゃん食堂 https://ukihanotakara.com/508/

interviewer
田坂日菜子

島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

 

writer

河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。