小学生の他者性を育む。口座残高61円でも諦めずに挑戦を続ける理由

2018年9月、「毎日ワクワクできる新しい社会を創造する」をビジョンに​株式会社Next Edge 設立した松葉琉我。高校時代のいじめ、学生起業家として資金やビジネスモデルの構築など、多くの困難を経験した松葉が資本主義の中で生徒の心を育てる理由を聞いた。

【プロフィール】松葉 琉我(まつば りゅうが)
株式会社NextEdge代表取締役。立命館大学4年生。NextEdgeでは問題解決型学習の学童保育や大学生向けに起業家育成などを実施。2019年4月に、大阪府茨木市水尾にて民間学童・アフタースクール「Kids Lab.」を開校した。

高校時代のいじめから教育事業を創ったワケ

ー教育の分野で起業したきっかけを教えてください。

高校はサッカー部の強豪校に進学しました。しかし1個上の学年がかなりやんちゃで、ドラマとか漫画とかで見るような感じのいじめがあって、3ヶ月で学校辞めちゃう子がいたり、自分の学年は最終的に人数が半分になったりしました。僕もスパイクを捨てられたり、ゴミ箱に入れられて蹴られたり、そういういじめみたいのがあって、だんだん部活や学校に行けなくなりました。奨学金を全額もらっていたため、2年の夏に急に学校から「学校に来れないのであればもう辞めてください」と言われました。

そこで転校のために、大阪ではそこそこ賢い学校の編入試験を受けないといけませんでした。学校に行けてなかったので勉強が全然分からなくなっていて、落ちると俺中卒か、みたいな感じで。その時にいろんな先生が教えてくれたり、初めて動画授業を受けてギリギリ転校でき、教育に自分が支えられたことがきっかけですね。

もう1つのきっかけは、大学2回生の時にアメリカのシアトルに留学したことです。シアトルは、マイクロソフトやアマゾンの本社がありここ20年で一気に成長してる場所です。留学先のワシントン大学では「サステイナブルな社会」と「ビジネスアントレプレナー」を学びました。大学にホームレスが住んでいたり、バス停にホームレスが住んでいたりと、日本では事実として知ってはいるけど、現実として見えない部分を目の当たりにしました。

資本主義という全体最適に向かっていく中でどうしてもそこからこぼれてしまう人がいて、そういう人たちを目の当たりにした時にどうやってサステイナブルな社会が作れるんだろう、というのをアメリカで学び、帰国後はそういったこぼれてしまっている人たち向けの事業をしようと思うようになりました。

 

ー現在の事業内容を教えてください。

小学生の学童保育を行なっています。小学生の問題を調べると、小学校3年生で学童保育が終わってしまい、4年生からの生活の居場所がなくなるという問題を見つけました。生活の居場所がなくなると、防犯面を心配される親が多いのですが、4年生はちょうど自我が芽生え出す時期のため、学校と家しかコミュニティがないことで心を落ち着ける場所が減ってしまうことも問題であると感じています。

小学生を対象にした理由は、政治や教育など様々な社会問題があるけれど、結局辿ると教育の問題だなという意識が一番最初にあり、教育を受け始める一番最初の段階が小学生だからです。
教育という領域で一番最初に接点を持てるタイミングで問題が起きてて、学童保育の分野では行政から助成金がもらえるというのもあり、現在学童保育の事業を行なっています。

 

ー小学生に意識して伝えているポイントはありますか?

小学生は社会や相手目線から物事を考える他者性みたいなのをまだ獲得していない段階でもあります。小学生と立ち上げた”火星でも飛ぶ飛行機の開発””利き手で強さに差が出るスポーツの決定要因に関する研究”などのプロジェクトの際も、周りの親や友達など距離が近い人たちの課題や想いを観察してみるように促したりと、「周りの人がどう思うか」を常日頃からひたすら考えさせるようにしています。
僕は、テクノロジーによって生まれ持った能力や才能に関係なく、様々なことにアクセスできるようになった時代において「何か学びたい」とか「何かやりたい」というパッションって確実に社会をよくすると考えています。なので、その気持ちを僕たちが支援して最大化できればいいなと思っています。

 

何が分からないのかが分からなかった学生起業

ー創業時からかなりハードだったと聞きました。その中でも最も大変だったことは何ですか?

2019年の7月に融資を受けたんですけど、その月に120%使い2週間ぐらいで全額なくなりました。事業が始まるまでに、敷金や教室の準備など色々大きいお金が出ていくことが多くて、なんとかなるかと思ってたんですけどなんともならなくて。

家賃や人件費やクレジットカードで分割払いをしてた分が一気に乗っかり、2019年の年末ぐらいには残高が61円でした(笑)。

 

―キャッシュが底をついたのは、何が原因だったのでしょうか?

死にそうになった最大の要因は、家賃を毎月支払わないといけないからです。最初からでかい教室を持ってしまうと、契約があるので半年は止められない。さらに教育の事業のため、年度途中に辞めることができない。

補助金が出るし助成金も貰えるからと学童保育という形態を取ったのですが、読みが甘く生徒が1年間全く増えなかったんですよ。その理由として、学童保育はどっちかっていうと、習い事というよりは生活の場というイメージが強く、そういう生活の場は1年間でコロコロ変えないんです。やっぱ保護者が年度の最初に放課後の場所を決めちゃって、そこから動かない。
もう1つは、そもそもビジネスモデル的にきつかったことです。学童保育では放課後ずっと児童がいて、長い子であれば6時間滞在します。塾だったら1コマ1時間で2コマでも2時間で終わるんで3人分入れれるじゃないですか。だから学童保育と塾では最大受入数が3倍違うのですが、塾の3倍の値段を取ることはできません。だからこそ、国がわざわざ補助金出してやっている領域なんだと思います。

 

―お金がない中、どんな気持ちで事業に取り組まれていましたか?

経営者の知り合いにお金ないですって話したら、「ただの金じゃん」という人が多かったんです。その人が本当にそう思ってるかはわからないんですけど、僕がお金でしんどいっていうのを話すから勇気づけるために「お金はお金に過ぎないから大丈夫」って言ってくれてるようで、それを僕は真に受けてて。たしかに残金が減っていくのはきついんですけど、「ただの金じゃん」って思ってたらだいぶラクです。

あとは友達が5人ぐらいいたら、1週間に1人ずつその子の友達の家で止まってご飯食べさせてもらえたら生きていけるなと思って。そして、お金を支払う先にも順番があると思っています。手持ちが少ない中で払わないといけなかったら、まず自分と一緒に働いてくれた人に最初にお金を渡したい。そうすればもう1回やろうってなった時に友達や仲間までは失わないかなと思っています。自分がしんどい時に助けてくれる人たちは大事にした方がいいなって思います。

 

自分の違和感と感情に従う

ー経営の意思決定においてどんなことを大切にしていますか?

会社のミッションとビジョンに当てはまるかどうかを第一に考えます。「毎日ワクワクできる新しい社会を創造する」というビジョン、「その社会と自分たちが関わっている人を繋げるパートナーになる」というミッションにいつも立ち返るようにしています。同時に、自分の感覚的に大事と感じるかどうかを大切にしています。言葉や数字にすると、どうしても表現できる範囲が粗くなるじゃないですか。言葉にしたり数値にしたりするのは超大事なんですけど、それって自分が感じていることを粗くして見ていることにもなるので、実際ちょっと違ってくることもありますよね。人間は議論で語れない部分や感情が一番美しいと思っているので、違和感を感じるときは自分の感情に従うことにしています。

ー今後取り組んでいきたい事業を教えてください。

教育とお金の関係を変えていきたいです。何かを学んだり社会に対していいことをしようって思った時ってだいたいお金がかかりますよね。例えばうちの教室に通って教育を受けるとか、アカデミックな勉強をしたくて受験をするとか。社会をマクロな流れで考えると学ぶことや、社会に対していいことをするのは人類にとってプラスになるはずなんですが、本人は一時的にお金がかかってしまって。それだと人類にとって挑戦する人の絶対数を減らしているんじゃないかと思うんです。

そこで、今後は教育とお金の関係を変えていきたいと思っています。例えば受験勉強や研究内容が可視化され、そこに対して世界中の人がその人に対して投資ができるとか、何か研究内容を積み重ねていくことによって研究費や学費が溜まっていくみたいなシステムが作れたら面白いなと思っています。

Kids Lab. https://www.kids-lab.net/

 

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interviewer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

 

writer

河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

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