究極の音楽フェスで、社会課題の解決を。エンタメで演出する選挙の第一歩
インタビュー

究極の音楽フェスで、社会課題の解決を。エンタメで演出する選挙の第一歩

2020-06-09
#カルチャー #政治

選挙×エンタメで若者向けの新たな文化を開拓する高村治輝。音楽フェスの持つ力に惚れ込んだ彼は、究極のフェスを作る過程として社会課題に取り組んでいる。選挙が持つ経済的な可能性を取り込みながら、様々なセクターと協力体制を築く思いを聞いた。

【プロフィール】高村治輝(たかむら はるき)
2012年に学生団体UMFを立ち上げ、全国7都市を拠点に地域の特性を生かした音楽フェスを開催する。2018年3月に株式会社UMFを設立し、一般向けの音楽フェスや展示会の開催、番組収録のサポートなど幅広いイベント事業を行う。2019年10月には、一般社団法人UMFを設立し、エンターテイメントと社会課題を組み合わせた、若者向けの啓発活動に取り組んでいる。

 

究極の音楽フェスを作る過程に、課題解決がある

―高村さんが、DJとして音楽フェスを開催することになったきっかけについて教えてください。

高校まではずっと野球をやっていて、大学は、特にこれがやりたいというものがないまま入学し、野球以外に何か新しいものに打ち込みたいと思ってDJを始めました。音楽が好きだったことも理由の一つですね。
最初は、テキーラ飲みまくるみたいなイベントサークルに入ってたんですけど、いろんなイベントを見ていく中で、自分がやりたいイベントってこういうものじゃないなと思うようになって。いろんな人たちが一体になって、親子連れでも、地域のおじいちゃんやおばあちゃんでも楽しめるような音楽フェスを作りたいと思って、自分で作るようになりました。

 

―音楽フェスを主催する中で、社会性を取り入れたイベントを開催するようになったのはなぜでしょうか?

実は、社会をよくしたいって欲はあんまりないんです。音楽フェスって、人間が作れる最高峰のものだと僕は思ってるんですよね。人種も問わないし、差別的なものでもないし、発信もできるし。フェスってその多様さを受け入れてもらえる場だというのがすげーなと、究極的だなと。その究極的な場であるフェスを、少しでも多く開催したいと思って音楽フェスに携わってきました。

その中で、そういったエンタメのパワーを必要としてくれる団体がたくさんいたんです。例えば行政や青年会議所、NPOというようにいろんな組織が「フェスの力を貸してください」と言ってくださって。それがいろんな社会課題を知る体験になりました。

実際に自分の目で見ると、そうした社会課題に対して「もっとよくしたい」と思うようになるんですよね。震災で東北に行ったり、ど田舎の地域に行って1週間近く過ごしたり、フィリピンのスラム街にも行きました。本当にいろんな経験をさせてもらった中で、やっぱり一度見てしまったからには、彼らの環境をどう良くするかをフェスの中でも考えていくようになりました。それも、もっといいフェスをしたいという思いが広がった結果だと思っています。

 

―高村さんが主催するイベントは、社会性を取り入れながらも、イベントとしてエンタメに振り切っていますよね。エンタメにこだわる理由を教えてください。

投票率のような成果を上げつつお客さんも楽しませるには、エンタメにガンガン振り切っていく方がいいと思っています。僕がやってる選挙のイベントでは、投票済証が入場チケットの代わりになって、音楽フェスに無料で参加できます。、チケットが投票済証である以外は普通のフェスなので、啓発は全くしないんですよね。フェス中に「みんな投票行ったかー?!」って呼びかけることはしません(笑)。フェスはフェスでしょ、と。

例えば行政とか、公的な機関が行う無関心層向け啓発イベントって、作る側がエンタメに関しては素人なんですよね。楽しくやろうって気持ちはとても伝わってくるんですけど、エンタメの経験量がないがために、ゲストをつけて終わりみたいな感じになっちゃうんです。選挙の啓発のために高いお金をかけて若い子にウケるゲストを呼んで、パフォーマンスの後に「選挙に行きましょう」って言ったとしても、それが本当に響くメッセージになるのかというのは結構懐疑的です。せっかくパフォーマンスを楽しんでも、その後に退屈な時間が続いて、「早く終わらないかな」と思ってしまったら、それはもうエンタメじゃないですよね。お金をたくさんかけても結果につながらないことが多いので、それってすごく消費的なイベントだなと思っています。

去年、選挙に行くとタピオカが半額で飲めるというキャンペーンがありましたが、そういう方がいいと思います。その方が響くし、投票所まで5分10分と歩いて行く意味も出てくるので。アクションしたことでそれがつながって、そのまま楽しめるというように、シンプルな方がいいと思っています。

 

身近な社会問題がより見えやすくなった世代

―2012年から活動を続けてきた高村さんですが、若者の社会に対する意識や政治への関心はどのように変わってきたと感じますか?

個人のメディア化が進み、誰でも発信できるようになったことで、細かい社会課題が顕在化するようになったと感じます。僕らの世代はちょうどiPhoneが出てきた頃で、SNSが本格的に拡大し始めて情報収集がしやすくなりました。節分の日に大量に廃棄が起きているとか、担い手がいなくてお店をやっているおじいちゃんが大変だといった、身近な社会課題が見えるようになりました。

あとは、震災や災害をまじまじと見てきた世代でもあります。経済の脆さを感じる一方で、「自分たちはなんで生きているんだろう」という問いにすごく向かい合ってきた世代だと思います。学生をはじめとする若い世代と交流していると、年々、社会貢献欲みたいなものが強まってきていると感じるところはありますね。

 

―政治や社会課題に興味を持つ若者は、どんな層が多いと感じますか?

みんな、興味自体は持っていると思います。政治や社会課題に興味はあっても、行動につながる人は少なかったり、興味の幅が限られていたり、という実態があるように思います。
例えば国際協力の団体に入っている子だったら、国際問題にはめちゃくちゃ興味あっても、政治となると「投票行ってないです」とかけっこうある。社会課題には関心があっても、その人にとっての興味分野があって、全体がつながっていないのかなとは思いますね。

 

セクターを超えてつながり、選挙をうまく活用する

―フェスやイベントを通じて若者への啓発を行うにあたり、一過性にならないためにはどうしたら良いのでしょうか?

長期的な視点で見た継続性という意味では、民間事業者の力をうまく活用することが重要だと思います。今までの啓発活動って、どうしても国や自治体ベースだったので、毎回莫大な経費がかかるんです。そうではなく、持続可能性という観点からは、民間が勝手に打ち出す啓発がいいんじゃないかなと思っています。

具体的には、選挙割のようなキャンペーンを実施して、電化製品を10%オフで買えたり、スーパー銭湯に無料で入れたり、居酒屋のつきだしが無料になったりというように、事業者同士で切磋琢磨できるわけです。選挙って国内だけで年間1,000件くらい行われているので、そうしたキャンペーンが浸透するとブラックフライデーのような感覚でイベント化できるなと思っていて。そういうふうに文化として馴染むというのは、意識して作っています。

選挙における関心の継続性という意味では、僕たちの場合は他の団体と連携して動線を作っています。僕らがイベントでやるのは、若者の意識を0→1にすることに絞っているので、1→10は他の専門家に任せた方がいいと思っています。メディアや主権者教育を行うNPOと連携して、UMFのサイトに情報を載せたり、フェスのパンフレットで紹介したりというように、役割分担してやっていますね。

 

―一般社団法人UMFが啓発活動を行う際、様々な団体を巻き込むためにどんなことを意識していますか?

発信し続けることだと思いますね。社会課題の面や、自分自身がフェスを好きな理由といった個人的な面もそうですし、相手がビジネスパーソンであれば選挙の経済的な魅力も伝えるようにしています。

例えば、選挙って国民の約半分が、ある日曜日に家を出て投票所に向かうという行動が生まれるわけです。家を出て何かをさせるってAmazonでも出来ないことなので、そのデータを活用したりそこに最適な広告を打ち出したりすれば、ビジネスの可能性は今後さらに広がると考えています。このように伝え方の角度を工夫して、その人に響く方法で選挙の魅力を伝えるようにしています。

 

次の世代に、社会のお金が還元する仕組みを残す

―今後、高村さんが中長期的に取り組んでいきたいことについて教えてください。

現在は経済的に先が見えにくい状況ですが、逆にこの状況をチャンスと捉えています。例えば選挙なら、ネット投票のような次世代のあり方を提示できる状況です。5年、10年後に振り返ったときに、あのときはこう乗り越えたから社会の制度が変わるきっかけになったよねって言えるといいですよね。

ソーシャルセクターと起業家という観点で言うと、現在僕たちは日本財団*さまから助成金をもらっていますが、今後は休眠預金** 700億円と日本財団の年間予算である300億円、あわせて最大1,000億円のお金がソーシャルセクターに回るビジョンがあります。今後は、お客さんからお金をもらうだけではなく、社会全体でお金が還元されていく仕組みを作っていきたいと考えています。

今後は、どうやってソーシャルセクターから次世代にお金を回していけるのかを意識していて、その中で、僕らも一つのビジネスモデルとして良い事例になりたいと思っています。次の世代こそが未来への投資だと思っているので、talikiのように若い起業家を育成する会社とも連携しながら、そこにお金が回る仕組みを作っていきたいですね。

TKO木下が提案プランに出演希望!?”若者の投票率の向上×音楽フェスティバル”は資金獲得となるか?|10億円会議 supported by 日本財団#13

*日本財団…公営競技のひとつである競艇の収益金をもとに、海洋船舶関連事業の支援や公益・福祉事業、国際協力事業を主に行っている公益財団法人。
**休眠預金…10年以上にわたって取引をしていない口座に眠っている預金のこと。そのお金を社会課題の解決や民間公益活動のために活用する「休眠預金等活用法」が2018年1月1日に施行された。

 

 

一般社団法人UMF https://umf.or.jp
学生団体UMF 

 

    1. この記事の情報に満足しましたか?
    とても満足満足ふつう不満とても不満



     

    interviewer
    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。


    writer
    田坂日菜子

    島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

    関連する記事

    taliki magazine

    社会課題に取り組む起業家のこだわりを届ける。
    ソーシャルビジネスの最新情報が届くtalikiのメルマガに登録しませんか?