本当に支援が必要な高校生に向けて。仕組みで機会格差を乗り越える
経済的な理由や家庭環境で苦しんでいる高校生に、プログラミング教室を通して「たくましくてやさしい人」になってほしいと語る、NPO法人CLACK代表の平井大輝。中高生の頃に家庭環境で苦しんだ自らの原体験をもとにCLACKを設立してから1年半。今どのような思いで高校生と関わり、どのように他の団体や企業を巻き込んでいるのか。そしてコロナ時代に思い描く今後の展望について聞いた。
【プロフィール】平井 大輝(ひらい だいき)
NPO法人CLACK代表。生まれ育った環境に関係なく、子どもが将来に希望を持ちワクワクして生きていける社会の実現を目指し、プログラミング教育やキャリア教育を行なっている。普段は対面の教室を運営しているが、現在は新型コロナウイルスの影響を考慮し、テックGIFTというプログラムで、ネット環境のない高校生にパソコンとWi-Fiを届け、オンライン上でサポートを行なっている。
もくじ
地域に根ざした活動で、CLACKを必要としている高校生に出会う
—CLACKにはどのような高校生が集まっているのですか?
大阪、京都、兵庫を中心に経済的に困難を抱える高校生や、何かしらのしんどさを抱えている高校生が参加しています。学校に行くのが難しかったり、人と関わるのが苦手だったり、虐待やいじめの経験がある子もいます。
—どのように高校生にアプローチしているのでしょうか?
CLACKが対象としている高校生にとって、インターネットを通して自力でCLACKの情報を見つけ出すのは困難です。たとえCLACKを見つけたとしても、自分が当てはまるのかわからなかったり、一歩踏み出すのが難しかったりと、ほとんどの場合でリーチするのがとても難しいです。だから私たちは地域に根ざした活動を行い、高校生を支援している地域の団体や高校の先生から紹介してもらうという形で生徒を集めています。創業時から、CLACKで機会を届けたい高校生にリーチするために、地域の学習支援教室や居場所支援の団体、児童養護施設、民間の財団などと地道に関係性を築いてきました。
また、プログラミングへの心理的ハードルを下げる取り組みとして、高校に出張し、体験会を行なっています。その中で、体を動かして感覚的にプログラミングを体感できるようなワークショップや、社会人エンジニアの話を聞く機会を影響しています。体験会を通して、やりたい(will)、自分にもできそう(can)、役に立つ(must)という3つの要素を感じられるようにサポートしています。
自分で考え、選択できる人になってほしい
—CLACKでは高校生に「たくましさとやさしさをもった人」になってほしいと伺いました。その「たくましさ」を育てるための挑戦や失敗、そこから得られる成功体験をどのようにサポートされているのでしょうか?
「たくましさとやさしさをもって、突き抜ける人を増やす」|平井大輝
私たちの教室は基本的に自習スタイルで、それを社会人エンジニアや大学生の講師が見守っています。生徒には、コードを書いていてエラーが出た時にすぐに人に聞くのではなく、まずは自分で調べてもらいます。その後質問する際は、何がわからなかったのか質問を明確にするよう指導しています。
また、半年間のプログラムの最後の1ヶ月では、生徒それぞれが作りたいものを考え、最終発表会に向けて準備を進めてもらいます。この経験から、発見力ややりきる力を身につけて欲しいと思っています。
加えて、安心して挑戦するためには教室の心理的安全性が大切です。少人数制ではあるものの、様々な高校から生徒が週2回集まって関係性を築くためにいくつか工夫をしています。その1つがチェックインとチェックアウトです。3時間の教室の最初と最後に生徒1人1人が今感じていることなどをシェアします。このような工夫を通して、生徒同士の横のつながり、そして大学生講師と生徒の斜めのつながりを強化し、本音で相談できる環境づくりに取り組んでいます。
—CLACKを卒業後、生徒にはどのようになってほしいですか?
高校生がCLACKを通して将来の選択肢を広げ、そこから自分のやりたいことを自分で選ぶ力を身につけてくれたら嬉しいです。どんな道を選んだとしても、自分が納得した上で目的をもって進んでいってほしいなと思います。
—実際参加した高校生にはどのような変化がありましたか?
1期生として通っていたTくんは、CLACKを通して大きく成長した生徒の1人です。彼は、コミュニケーションが苦手で家に引きこもりがちでした。しかし、教室に通ううちに心を開き、徐々に話してくれるようになりました。そして、半年後には立派に最終発表をしてくれました。卒業後は自分のやりたいことを自分で決め、親を説得して今の進路に進んだそうです。さらに「今度はclackで教える側になりたい」と言ってくれて、とても嬉しかったです。
モチベーションを自分で作っていくことも時には必要
—平井さんは自らの原体験を元にCLACKを立ち上げられたと伺いました。1年半ほど活動されて、原体験との向き合い方に変化はありましたか?
私が苦しい経験をしたのは中学生、高校生の時です。そこから長い年月が経ち、大学で人との出会いに恵まれたこともあって、自分の中の納得できないという感情はだいぶ落ち着きました。今は世の中に対する怒りを原動力とするだけでなく、モチベーションを自分で作っていくことも時には重要だと思っています。原体験を元に事業を立ち上げた多くの社会起業家にとって、設立当初と同じモチベーションを何年間も持ち続けることは難しいと思います。
私も人間なので、活動している中でモチベーションが低くなるときもあります。しかし、そういう時は現場で高校生と深く触れ合う時間を取るようにしてなんとかしなければという気持ちを忘れないようにします。また、課題の解決のために自分にできることが少ないと感じたら、目の前のできることに集中することで自己効力感を自分でコントロールしています。今でも強い想いはもっていますが、やはり沈むときもあるし、それは全く悪いことではないということを多くの社会起業家に伝えたいです。
市場合理性に依存しないことで、機会格差を乗り越える
—経営の意思決定をする上で大切にしていることはありますか?
市場合理性だけで判断しないということです。近年、IT企業などが中高生に無償でプログラミンを教えたり、貧困層にプログラミング教室を提供するという事例が増えてきています。しかし、そのようなプログラムはどうしても最初から意欲的な人や、たまたま情報に触れることができた人に対象が限られてしまいます。私たちは、自分でそのような機会にアプローチできない高校生にCLACKを届けるという軸からはブレずにやっていきたいです。
—これから事業を拡大するにあたって、どのような団体と連携していきたいですか?
私たちが今はまだ出会えていない高校生にアプローチするために行政との連携を強化していきたいです。また、企業の方と組み、資金面の強化も行なっていきたいですね。
未来に向けて新たな支援の仕組みを創る
—5年後、10年後の未来に向けてCLACKが育んでいきたいことはなんですか?
今まで教育機会を与えてもお金にならないといって切り捨てられてきたような人たちから、お金をもらわずともサポートできるような仕組みを整えていきたいです。今は、居場所支援や学習支援が増えてきていますが、これからの時代はそれに加え、自立に繋がるような支援も行っていく必要があると思っています。様々な地域で展開可能な、支援の新たな仕組み作りを、私たちが先駆けてやっていきたいです。それを踏まえ、まずは1つの政令指定都市で年間200人の高校生を抱えた教室を運営できるようなモデル作りに注力していきます。
新型コロナウイルスの影響もあり未来がどうなるかわからない現在、色々と考え直しながらもできることをやっていくしかありません。テックGIFTもその1つです。様々な事情でパソコンやネット環境のない高校生に対し、ノートパソコンとポケットWi-Fiを半年間提供します。加えて、大学生や社会人エンジニアがプログラミング学習をサポートし、高校生にとっての居場所や新しい何かと出会うきっかけとなればいいなと思っています。コロナウイルスが流行する前はオンラインは難しいと思っていましたが、今はやらざるをえない状況です。対面でやっていることをそのままオンラインに移行することは難しいので、なるべくリアリティのあるようなコミュニケーションやサポートの形を仕込んでいるところです。
CLACKでは、現在一緒に高校生に伴走していくインターン/ボランティアの方を募集しています。また、仕組みづくりに関わりたい方もぜひお問い合わせください。
https://note.com/clack/n/n9370ebe4fb3e ※現在は募集終了しています。
NPO法人CLACK https://clack.ne.jp/
interviewer
河嶋可歩
インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。
writer
堂前ひいな
幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。
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