野菜の「規格」の概念を取り払う。オンラインではなく対面販売の理由とは
世界の食の不均衡を解決したい。そんな想いで「八百屋のタケシタ」という八百屋を創業した竹下友里絵。既存の規格野菜の仕組みを払拭し、農家と消費者に笑顔が生まれる八百屋を営んでいる。店頭に並べる作物は必ず自分の口で確かめる彼女のこだわりを聞いた。
【プロフィール】竹下 友里絵(たけした ゆりえ)
高校の留学時代にホストファミリーの食べ残しを見て衝撃を受け、世界の食のアンバランスについて問題意識を持つ。関西学院大学総合政策学部入学後、より食を探求するために神戸大学農学部に3年次編入。卒業と同時に生まれ育った神戸で「八百屋のタケシタ」を創業し、生産者と消費者に寄り添った対面販売を展開している。
もくじ
神戸の特色と農家の方々を掛け合わせた生鮮販売
—農業のような第一次産業をビジネスにすることは難しいイメージがあります。創業から1年経過してみていかがですか?
私たちは生産をせず、農家さんから直接仕入れて販売する、流通・小売りの機能がある八百屋をしています。薄利多売が前提としてある産業なので、そこをどう事業化していくかは現在も模索している段階です。
—どのような経緯で現在の流通事業を始められたのでしょうか?
私は「食べられずに死んでしまう人がいる一方で、食べ物がたくさん捨てられてしまっている」というアンバランスに問題意識を持っています。その問題意識が、フードロスをなくしたいという思いにつながりました。あまり知られていませんが私の出身地である神戸は、果物が盛んな地域で桃やぶどう、イチジクなどが栽培されています。それらの規格外品がたくさん出て廃棄されている現状を知りました。
そのため、最初は冷凍加工したフローズンフルーツとして販売する事業内容を予定していましたが、ビジネス未経験でマーケティングの力も弱い中、いきなり加工品を作るのは自分の身の的に合っていない事業だと思うようになりました。神戸は農業が盛んな一方で、パンとかケーキの町とも言われています。実際に店舗数も多いので、加工用の果物をパン屋やケーキ屋さんに持っていけば、ピューレやジャムにしてもらってと上手く繋げることができると思い、加工用の果物の流通事業を始めようと考えました。そこから実際に農家さんと関わる中で、果物よりも圧倒的に野菜農家さんが多く、果物だけに焦点を絞って事業するのが心苦しくなりました。そのため、隔てなく野菜も扱える事業にしたいなと思い、今の生鮮販売の流通の形になりました。
—加工ではなく生鮮で流通することを決めた理由はなんですか?
素人が見たら、規格外なのか判別つかないほどの野菜が規格外野菜と呼ばれています。しかし、世間では加工しないと食べられないのではないかというイメージが先行しており、私はそれ自体が違うと思っています。そのため、規格外野菜を加工せずにそのまま販売する意義を感じながら生鮮販売の事業を行っています。今の私たちの売り場は「規格不選別」という形で、形が悪かろうが良かろうが関係なく味が良ければ扱う八百屋になっています。
—JAなど規格を決めている方々からの反感はないのですか?
まず一つは、規格を決めている組織ほどの量を扱っていないのはあると思います。「農家のためになるんだったらいいよ」と彼らも言ってくれています。
これも一種の役割分担ではないでしょうか。JAや卸売市場が担う機能は、大きな人口都市を支えるための基盤として存在しています。私達の小さな八百屋は、それらの流通の中で取り残されている規格外品や技術不足の新規就農者が栽培したものなどを、各地域でサポートできたら良いと思っています。
生産者と消費者を繋げる「おいしい」の声
—契約している農家さんとの関係性はどのように築いてきたのですか?
取引を始めるときは、必ず畑を訪れています。実際に作られているところを見たり、農業に対する思いやこだわりをヒアリングしたりすることは心がけています。私たちはおいしい野菜を作る農家さんとしか契約していないのですが、彼らの農業に対するモチベーションは食べた人の「おいしい」という声が一番です。しかし、彼らはたくさんの流通業者の間にいるので、消費者の声は基本的には返ってきません。
私たちは、売り場に立っていると「この前のあの大根めっちゃおいしかったよ」「こういう風に食べてん」とお客さんの声を直接拾える立場にいます。そうしたお客さんの声を農家さんにフィードバックすることは心がけています。農家さんからは「規格という概念をなくした竹下屋でどこまで売れるのか探るのが面白い」と言われたこともあります(笑)。
—お客さんの中には「規格外野菜」に馴染みのない方もいるのではないでしょうか。店頭販売を行う際に、どのようなコミュニケーションを意識されていますか?
1月半ばからは、神戸市地下鉄の駅の改札の中で八百屋を開いて野菜を販売しています。規格外野菜だから販売しているわけではなく、”形関係なくおいしくて安心安全やったらええやん”というように、規格の概念をなくしたいと思っています。実はもともと売り場で「形は悪いが、味はいい」と看板を出して訴えていましたが、何か違うなという違和感を持ち撤去しました。規格外野菜のみを販売することは、結局自分も規格の中で生きてしまっている、と思うようになったんです。今は、基本的には”竹下屋の野菜はめちゃくちゃおいしい”しか伝えていません。創業ストーリーに興味があるお客さんがいたら、接客の中で話すことを意識しています。
4月10日から新型コロナウイルスの影響で駅売りをストップし、各地域をトラックで回る移動販売を始めました。駅売り時代の常連の方がわざわざ買いに来てくれたり、ママ友の口コミ等によって広まっていっています。私たちのお客さんの8割以上は規格外野菜だから買っているのではなく、おいしいからという理由で購入されています。そうした消費者の声が神戸の農家さんを応援することに繋がり、フードロスをなくす一つの手段になればいいなと考えています。
”竹下友里絵がおいしいっていうから、おいしい”
—経営をする上で意識していることはありますか?
ネット販売をしないと決めています。竹下屋というブランドが構築されるまでは、規格外野菜をネット上で販売するとなると安売りしかできません。それよりも対面で、形が悪くても理由や調理方法を説明できる接客方法でないといけないと思い、リアルでの販売を決めました。
そして自分で実際に食べ、おいしいかおいしくないかの線引きをしています。「竹下屋」という名前にしたのは、 ”竹下友里絵がおいしいっていうから、おいしい” というお客様との信頼関係が鍵になっているからです。
ー今後の日本の農業にはどんなポテンシャルがあると思いますか?
このままいくと衰退すると思いますよ。鍵になるのは流通です。新規就農者は増えている一方、経済的な理由で5年継続できる人は7割しかいません。原因の一つは、新規就農者は農業技術があまり高くなく、生産した作物が規格内で売れるのはほんのわずかで他が廃棄という状況。規格野菜だからと言って食べられないわけではないのに、流通の仕組みでそうなっています。この離農率を下げなければ、農業は衰退します。離農する人を減らすために必要なのは、形よりもおいしさを評価できる消費者コミュニティです。八百屋の竹下屋は、1つのモデルケースとして神戸から全国へ広めていきたいです。
八百屋のタケシタ https://www.yaoyanotakeshita.com/
堂前ひいな
幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。
interviewer
河嶋可歩
インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。
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