絶対にユーザーを傷つけない。セクシュアリティ分析サービス開発者の想い

ユーザーの声に丁寧に耳を傾け、セクシュアリティ分析サービスを立ち上げた中西高大。多くのユーザーに愛され、SNS等で分析結果がシェアされ続けているサービスanone,はどのように作られたのか?サービスで傷つく人を絶対に生みたくないという思い、ユーザーとのコミュニケーションにおけるこだわりを聞いた。

【プロフィール】中西 高大(なかにし たかひろ)

大阪大学外国語学部を休学し、2020年1月にセクシュアリティ分析サービスanone,をリリース。66個の質問に回答することで、こころの性/恋愛指向/性的指向/表現したい性という4つの切り口を用いて、2000通りのセクシュアリティから自身に最も近いものを分析できる。現在は7万人のユーザーを持ち、セクシュアルマイノリティ*の当事者にとどまらず、自身のあり方、恋愛の仕方、好きになる対象などに関心がある幅広い層にも使われるサービスとなっている。

*セクシュアルマイノリティ…同性愛者、トランスジェンダーなど多数派とは異なる性的指向やジェンダーアイデンティティ、または性的な特徴を持つ人々のことを指す言葉として一般的に使用されている。文中におけるセクシュアルマイノリティとは、そのような複数の性にまつわる分類のなかで、多数派に属さないと自認している人を指す。

ヒアリングの中で生まれた、anone,のサービスの形

―7万人(※2020年4月時点)に利用されるanone,のサービスですが、これだけ多くの人に使われるのは予想していましたか?

率直に言うと、ここまでユーザー数が伸びるとは思っていなかったです。でも、7万人という数だけ見ると多いですが、サービスの性質を考えるともっと伸びてもいいと思っています。例えば、性格診断のサービスだと800万人の利用者がいるので、まだ少ない方ですね。

―anone,はどのような方に使われているのでしょうか。

主に3つのタイプがあると思います。1つ目はセクシュアルマイノリティとしての自認が強い人、2つ目は自分がセクシュアルマイノリティの枠に入っているかどうかに関わらず、性別や性的指向に何かしらの違和感を感じている人。3つ目は、興味本位で使う人ですね。

1つ目と2つ目のタイプのユーザーが多いという印象です。

―300人近いヒアリングを通じてanone,が生まれたそうですね。

最初からサービスの形が決まっていたわけではなく、セクシュアルマイノリティの当事者に限らず幅広い層にヒアリングをしていました。社会においてLGBT**という言葉が広まってきたと感じる一方、当事者でない人はどのように感じているのだろう?と、自分が見る世界とのずれを確かめる気分でしたね。

ヒアリングの印象としては、自分が想像していたよりも、LGBTという言葉の認知は広がっているなと。しかし、単語としては聞いたことがあっても、その意味は深くは知らないという人も多かったです。「周りにLGBTの友達がいないから深く知る機会がない、どう接したらいいかわからない」という声を多く聞きました。そうした人たちにも気軽に使ってもらえるサービスとして、分析ツールという形にたどり着きました。

**LGBT…レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性別越境者)の頭文字を取った単語。セクシュアルマイノリティの総称の一つ。

センシティブなテーマだからこそ、二次被害を生みたくない

―セクシュアルマイノリティの知見がない人にも積極的にヒアリングしたんですね。

ヒアリングを進める中で、苦しくなったこともありました。セクシュアルマイノリティに対するネガティブな声を直接受けることもあったので、これが世の中のスタンダードか、と感じてけっこう苦しかったですね。

この経験はサービスにも反映されていると思います。サービスのコンセプトがよくても、ユーザーを傷つけたら本末転倒です。セクシュアルマイノリティに該当する人や、真剣に悩んでいる人が使ってくれる中で、分析結果を見て不快に思うといった二次被害を生まないように注意しました。

センシティブなテーマを扱うからこそ、ユーザーとのコミュニケーションは徹底して行っています。当事者の人に使ってもらう中で、ユーザーインタビューを進め、ユーザー体験を整理し、デザインに落とし込むといった工程を繰り返していきました。特に、分析結果の言葉選びには時間をかけました。

分析結果画像

―ヒアリングにおいて、特に気をつけていたことはありますか?

できるだけ自分の感情を入れないことです。タリキチプロジェクト(※株式会社talikiが運営する起業家支援プログラム)のメンターに言われた言葉で、「多様性を求めるあまり一様性になってはいけない」という言葉は常に心に留めています。当事者である自分の感情だけでヒアリングを進めることがないように気をつけていました

例えば、「同性のカップルが子どもを持つのは反対だ」と主張する人に対して、最初はウッと苦しい気持ちになっても、一旦自分の感情を横に置いて、なぜそう思うのか?どんな出来事がきっかけでそう思ったのか?と聞くようにしています。その人の意見の背景を理解する姿勢を持ち続けたいですね。

―ヒアリングを進める中で、意外な発見や気づきもあったのでしょうか。

運営側で予想していなかった使い方が生まれていたのは、嬉しい発見でした。例えば、カップル同士でお互いの性的指向を知ったケースが印象的です。彼氏から恋愛感情を十分に感じられず不満に思っていたときに2人でanone,を使ってみたことで、彼氏は恋愛感情が希薄なアロマンティックというセクシュアリティだったことがわかり、彼女も腑に落ちて理解につながったそうです。

また、家族みんなでanone,を使い、自分の結果を見せることでカミングアウトの手助けに活用されたケースもありました。

反感を反感で終わらせない、ユーザーの意見を拾い上げる

―ユーザー数が増えていく中で、ときにはネガティブな意見を受け取ることもあると思いますが、どう対応していますか?

分析結果の説明に、ユーザーからのフィードバックを反映させたことがあります。例えば分析結果における「Xジェンダー(説明)」の解釈について、従来はわかりやすさを重視した説明をしていました。その説明について、Xジェンダーだと自認があるユーザーの方から「これは違う、取り下げてほしい」と猛抗議を受けたんです。運営メンバーで説明を変えるべきか議論を重ね、現状のままではユーザーを勘違いさせたり傷つけたりするかもしれないと考えて、説明を修正しました。
できるだけ多くの人を見捨てたくないという思いを大切にしています

―リリース以降ユーザーが増え続ける中で、どのように声を拾い上げているのですか?

ユーザーの自発的なシェアに助けられていますね。#anoneで診断してみた、というハッシュタグを付けて分析結果と感想をツイートしてくれたり、ブログやYou Tubeで発信してくれるユーザーもいます。

ポジティブな感想を見つけたらお礼を言うのはもちろんですが、ネガティブな意見や改善点を指摘してくれるユーザーには理由を聞いたり、オンラインでヒアリングさせてもらったりしています。

―ここまでユーザーとの対話を徹底するのはなぜでしょうか?

目的がはっきりしているからだと思います。僕たちがやりたいことは、「マジョリティとマイノリティの境界線を溶かす」こと。両方の声を聞くことで境界線の上に立つことができるので、より多くの人の声を聞いて両者のいい妥協点を見つけられるチームでありたいです。

当たり前の日常の中に、様々なバックグラウンドが溶け込んだ社会を

―最後に、5年後、10年後にどんな未来を目指しているのか聞かせてください。

普段の生活の中に、様々なバックグラウンドを持つ人が関わっている社会であってほしいです
日本の多様性は、あらゆる場面における共生を求める風潮があると思っていて。僕個人としては、法律や制度で上から強要される共生よりも、様々な特徴を持つ人が、自分の適材適所を生かしながら日常の生活を送る共生の社会を目指したいです。日々の生活の中で、同性のカップルが手をつないで散歩していたり、車椅子を使う人がどんな施設にも行けたりといった風景が当たり前の社会を想像しています。

そんな未来をつくるには、周囲の人のバックグラウンドに思いを馳せることができる文化を形成することが重要です。そういう文化があれば、それが法律や制度といった仕組みづくりに自然と反映されるのではないかと考えています。僕たちは、anone,のサービスを通じて文化づくりを担っていきたいですね。

 

anone, 公式ホームページ https://anone.me/