保護猫の推し活ができるWebアプリ。保護猫団体を支え、自続性を高める。
保護猫団体にとっての”猫の手”になりたい。株式会社neconote(ねこのて)は文字通り、さまざまな側面から保護猫団体のサポートを行ない、その自続性を高める活動をしてきた。2022年にリリースした猫の「推し活」サービス『neco-note(ネコノート)』。このサービスでは団体が保護猫活動をしながら持続的に収入を得られる仕組みを実現している。代表の黛純太に、保護猫団体が抱える課題、サービスのこだわり、業界の理想について聞いた。
【プロフィール】黛 純太(まゆずみ じゅんた)
株式会社neconote代表。1994年生まれ。 2017年2月に前身となるchátを立ち上げ、ドイツへ視察や50以上の保護猫団体へインタビューを敢行。 保護猫団体 ”自立支援”をミッションに、 猫助けサブスクリプションサービス「neco-note」を開発中。 ほかにも譲渡会 企画運営、保護猫団体の新規事業やPPP(官民連携)支援などを手がけ、 業界全体の”自続可能性”を高めている。 現在は保護猫シェルターに住み込み中。
もくじ
お金、人手不足の業界課題を横串で解決したい
—現在の事業概要を教えてください。
株式会社neconote(ねこのて)は、保護猫活動をしている団体の支援を軸に、複数の事業を運営しています。例えば、保護猫譲渡会の運営です。開催場所を確保し、譲渡会と一緒に開催するマルシェなどのイベントをコーディネートして、保護猫団体は猫を連れてくるだけでいいという状態になるようにサポートします。また、保護猫団体にインタビューして記事を出したり、フリーペーパーを発行したりもしています。他にも、オーナーさんや設計会社と連携して、保護猫を管理・譲渡できる共同住宅を企画することもあります。
—保護猫とはどのような猫のことを指すのでしょうか?
一般的に保護猫とは、新しい家族を探している猫のことです。ペットショップで売られている猫や売られるために繁殖された猫は含まず、1度野良で暮らしていたり人間のもとで暮らしていたりしたことがあり、新しい家族を探しているのが保護猫です。その多くは、保護猫団体のもとで管理されています。
猫が保護猫になるには、主に3パターンあります。1つ目は、野良で暮らしている猫が保護されて保護猫になるパターン。2つ目は、一般家庭が飼えなくなった猫を保健所に持ち込み、そのままでは殺処分されてしまうので、保健所から保護猫団体がレスキューしたパターン。そして3つ目は、多頭飼育崩壊によって保護されたパターンです。多頭飼育崩壊とは、猫を飼いすぎてしまった結果、過剰に繁殖し、飼育不可能になることです。基本的には保健所が引き取りますが、保護猫団体が保護することもあります。
—なぜ保護猫団体のサポートをしようと考えられたのですか?
就活生のころに広告業界を志望していて、広告を使って何をしたいかを考えたときに、猫の殺処分について情報を発信することで大好きな猫を助けたいと思うようになりました。それから、保護猫活動の現場を知るために、さまざまな保護猫団体に話を聞きに行きました。
50団体以上に話を聞いて、1番課題に感じたことは団体同士の協業が進んでいないということです。みなさんお互いのことはなんとなく知っているけれど、一緒に何かをやることはほぼないというのが保護猫業界の特徴でした。そして、だいたいどこの団体もお金や人手不足という共通した課題で悩まれていることにも気がつきました。
この2つの気づきから、私がどこかの団体に所属して保護猫活動に取り組むより、第三者的な立場から横串で多くの団体に共通する課題を解決した方が、結果的に救える猫の数は増えるのではないかと考えたんです。そのときから、私がサポートするべきなのは猫を助けている人たちだというスタンスは変わっていません。
—保護猫団体同士の協業が進んでいないのはどうしてなのでしょうか?
協業したくてもできない、というのが正しい表現かもしれません。その理由の1つとして、保護猫活動は命を扱う問題なので、倫理的に合意が取りにくいということがあげられます。例えば、不妊手術をするのか、感染症対策をどこまでするのか、医療費をどこまでかけるのかなど。猫の幸せに正解がないからこそ、団体間で意見のすれ違いが起きやすいんですね。
本来、猫の殺処分をゼロにするという大きな目標達成に向かうのであれば、みんなで手を取り合って課題に取り組んだ方が良いですよね。一方で、猫の命を目の前にするとその猫を幸せにすることの優先度がとても高くなるため、より遠くの大きな目標を意識しづらくなってしまうのも正直なところです。しかし、このまま今活動されている方々の高齢化が進めば、業界は縮小していってしまいます。そのため、今のうちに保護猫団体の体力やスキルをもっと醸成し、活動を属人的なものから一般化していく必要があると考えています。
—保護猫活動において行政(保健所)はどのような役割を担っているのでしょうか?
今後の保護猫活動においては、行政がもっと大きな役割を担っていくと思っています。ただ、日本は特に動物愛護への市民の興味が薄いので、行政が税金を使いづらく、まだまだ動ききれていないのが現状です。例えば、郊外では野良猫が当たり前にいるので、「野良猫の問題にそんなに税金を使うな」というような批判が出ることもあります。
一方、最近では、行政でも少しずつ保護猫活動に予算が割かれるようになってきていて、保健所は殺処分をする場所ではなく、譲渡するための場所という考え方に変化しているようです。また、都市部では交通事故で猫が亡くなったり、ペットショップで購入された猫が遺棄されて繁殖してしまったりということが徐々に問題視されるようになってきました。まだ先ですが、今後は行政の担う役割が大きくなっていく動きに合わせて、保護猫団体や民間企業との連携もより一層求められていくと考えています。
保護猫の推し活ができるneco-note
—今年リリースされたneco-noteの概要を教えてください。
neco-noteは2月22日にリリースした、保護猫の”推し活”ができるWebアプリです。アイドルの推し活をするように、推しの保護猫に貢ぐことができて、そのお金が保護猫団体に還元されます。
利用の流れとしては、まず保護猫団体がユーザー登録をします。次に、その団体が管理している猫を登録します。neco-noteの中では、登録された猫たちのプロフィールや、これまでの生い立ち、日々の様子に関する投稿などを見ることができます。ユーザーは登録時に、それらの猫に関する情報を見て、推し猫を決め、その猫に課金していくという流れです。
課金は月額制になっていて、980円、2980円、4980円の3プランがあります。現在19団体、106匹の保護猫が登録されていて、ユーザーは100名ほどです。
推し活、ボランティアマッチング、保護ログの3つのメイン機能があります。
(1)推し活機能
課金ユーザーのみが推し猫のライブ配信を見ることができ、ライブ中におやつをあげたりおもちゃで遊べたりします。ユーザーの課金額はその推し猫が所属する保護猫団体に寄付される仕組みです。この機能のポイントは、団体が寄付を募るのではなく、自分たちが保護した猫でお金を稼ぐことができるという点です。これまでの保護猫団体は、やっていることの魅力をアピールし寄付を集めるというのが一般的でしたが、猫を助けるという活動自体で資金集めができるようになった方が持続的なのではないかと考えました。団体は猫を助けているだけでお金が入ってくるという仕組みを実現するのが、この推し活機能になります。
(2)ボランティアマッチング機能
推し活の機能を作ったものの、団体の人手は足りていないし、ライブ配信や日記投稿のハードルも団体にとってはかなり高いという課題がありました。そこで、団体をサポートするボランティアを集めることができるのが、ボランティアマッチングの機能になります。
特徴は、スキルベースで募集するということです。例えば、neco-noteでライブ配信をする、週末のイベントで物販をやる、猫の搬送を手伝う、などのボランティアがそれぞれ募集されています。スキルベースで募集をすることによって、団体にとってもミスマッチが起こりづらく、効率的です。また、これまでは「自分にできることがあるのだろうか」と関わることをためらっていたユーザーも、団体側から関わりしろを提示することで、参画しやすくなります。お金はあるけれど時間はないという人は推し活を通して、時間はあるけどお金はないという人はボランティアマッチングを通して、いろんな人が自分のできる形で保護猫団体に関われる仕組みを実現しています。
(3)保護ログ機能
保護ログには、neco-noteの利用履歴が可視化されています。自分がいつから保護猫の推し活を始めたのか、どのくらいお金をかけているのか、どの猫を推してきたのかなどを見ることができます。保護猫を引き取るときには審査があるのですが、保護猫団体にとっては、自分たちが大切に育ててきた猫を全く関わりのない人に渡すのは不安があります。
そこで、この保護ログがあることによって、ユーザーが保護猫団体に対して、どれだけ保護猫に対して強い想いがあるのかを伝えることができるんです。そうすることによって、保護猫団体も安心して保護猫を譲渡することができます。
団体のリアルな声を吸い上げ、サポート
—neco-noteの着想はどのように得られたのでしょうか?
まず、保護猫団体の収入を安定させるにはどうしたらいいかを考えました。いろんな方法を考える中で、活動と収入が乖離するのではなく、保護猫団体が日々やっている活動自体がマネタイズポイントになることが、自続性の鍵だということに気がつきました。
それで最初に思いついたのが、猫の譲渡費用を引き上げるということです。80万円かけて育てた猫を100万円で譲渡し、20万円の利益を得る。ビジネスの基本的な流れです。しかし、この方法は保護猫団体の活動を否定することになるので、自分で却下しました。そこで、猫を助けること自体が収益につながる方法はないかを考えました。
例えば、競走馬によくあるフォスターペアレント制度。馬1頭に対して、何十人もの馬主が出資をして、権利を分け合うというものです。ただ、引退後に牧場で一生を終えていく馬と違って、保護猫は新しい家族を探しています。そのため、たくさんフォスターペアレントがいれば、譲渡のタイミングでいろんな人の権利が絡み合って複雑な事態になってしまいます。猫と出資をする人の間に利害関係が発生せず、好きだから応援するという関係を作ることが理想だと考えました。それで、この関係性は推しのアイドルとそのファンの関係に近いなと思ったんです(笑)。この推し活を猫にも当てはめられないかと思ったのが、サービスの最初の着想でしたね。
―利用している保護猫団体はどのように集められたのですか?
私たちはneco-note以外の事業で、200団体以上の保護猫団体と関係性があるので、リリース初期は繋がりのある団体に直接営業していました。
最近は向こうからお声がけいただくこともあります。私自身、保護猫の現場での活動を6年間くらい続けていて今も保護猫のシェルターで暮らしています。だから、保護猫団体がどのようなことに困っているかなどリアルな声を常に吸い上げられる環境にいるんです。そこも団体さんに利用したいと思っていただけるポイントかなと思います。
—利用されている団体さんからはどのような声があるのでしょうか?
ある団体さんが登録してくださっている猫のチビは、珍しい病気を患っていて治療費はかなりの負担になっているそうです。また、譲渡先を募集しているものの、病気のため譲渡会などには参加できません。そんなチビのことを気にかけてくれてneco-noteを通じて支援してくださる方がいるのがとても嬉しい、という声をいただきました。
また、他の団体さんからはボランティアマッチング機能に対して、「SNSなどで直接連絡をもらうだけではその人がどのような人なのかわかりにくく、信頼関係を築くのに時間がかかってしまう。だけど、neco-noteならその人の特徴がわかる情報が登録されているため、安心してボランティアや譲渡などの話を進められた」と言っていただきました。
neco-note経由で保護猫ボランティアをはじめた方が、その団体から譲渡を受けたという声も届いていて、それぞれの使い方が広がっていることを実感しています。
—ユーザーはどのような人が多いのですか?
猫が好きだけど、家で猫を飼えない人、猫アレルギーの人、保護猫に対して何かしたいけど忙しくて何もできないという人が多いですね。みなさん、ライブ配信中におやつをあげたり遊んだりするのがすごく楽しいみたいで、どんどんその場でチケットを追加で課金してくれるんですよ。私自身もライブ配信をするので、ユーザーの反応を色濃く見れるのはとても楽しいです。また、ユーザーにヒアリングをする中で、「なぜその猫を推し猫に選んだのか」をよく聞いています。多くの方が猫のストーリーを読んで、それに心動かされて推し猫を選んでいるようです。昔の飼い猫に似ていたからプロフィールなどを見てみたら、ストーリーに心動かされてその猫を選んだという方がいたのも印象的でした。
ただ見た目のかわいさではなくて、よく知っていくことでわかる可愛さがあって、そこに共感してくれるコアな猫ファンに使ってもらうというのはぶらさずにやっていきたいです。
―支援者を増やしていくために考えているアプローチがあれば教えてください。
現在はサービス立ち上げ期なので、広くユーザーに当てていくアプローチに加えて、ユーザーである保護猫団体様が自ら支援者を増やしていく仕組みづくりにも力を入れています。
6月にはじめたキャンペーンは、「支援者が増えるほど手数料が下がる」というもの。50人の支援者が集まれば手数料が5%になり、非営利団体が資金集めに使うサービスでは最安値でご利用いただけます。保護猫団体様にとっては、活動資金集めのためのSaaSのような使い方が可能になります。(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000092844.html )
また、「そもそもneco-noteを運用する人手が足りない」という保護猫団体さんもいらっしゃいます。そこで、提携している学生団体やボランティアがライブ配信や情報の更新を行なったり、私がコンサルティングを行なうことも増えてきました。保護猫団体さんはユーザーでありながら、一緒にneco-noteを大きくしていくステークホルダーだと考えているので、協力しながら支援者を増やしています。
—今後、保護猫業界がどうなることが理想だとお考えですか?
まず、行政や企業も積極的に保護猫活動支援に力を入れてきているので、保健所からのレスキューなどの従来の保護猫活動は縮小していくはずです。ただ、人間と猫が一緒に暮らしている限り、多頭飼育崩壊や都市部における野良猫の問題など、人間と猫の共生に関する問題は起きうるので、そこをカバーしていくのが保護猫団体の役割になっていくでしょう。
その上で、保護猫業界の中でも、ポジションを分けていく必要があると思うんです。今は、全ての保護猫団体が一括りに語られていますが、団体によって今ある体力や目指したいところも異なります。だから、とにかく目の前の猫を救うことに注力する団体と、猫の殺処分をゼロにすることを目指して大きく活動していく団体がはっきりと分かれていって、良い意味で役割分担することが重要だと考えています。
前者の団体は今のままでも小さく続けていくことが可能ですが、後者の団体はどんどん人手も資金も増やして、活動をスケールしていく必要があります。しかし、現状はそういう団体が突き抜けられるだけのリソースを集められる仕組みがありませんでした。
そこで、成長していくべき団体がneco-noteを1つのツールとして利用することで、スケールし業界を変えていけるようなサポートができたらと思っています。そうやって、保護猫業界が多様化し、それぞれの団体が自分たちにとっての理想を目指すことができるようになっていくことで、結果的により多くの猫を救うことができるということを思い描いています。
株式会社neconote https://neconote.co.jp/
neco-note https://www.neco-note.com
interviewer
梅田郁美
和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
猫になりたい。
writer
堂前ひいな
心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。
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