世界初、味噌汁の完全栄養食を開発したMISOVATION。味噌汁で予防医療と生産者支援にイノベーションを
インタビュー

世界初、味噌汁の完全栄養食を開発したMISOVATION。味噌汁で予防医療と生産者支援にイノベーションを

2022-04-07
#食 #ものづくり

2021年、世界で初めて味噌汁の完全栄養食が誕生。開発したのは株式会社MISOVATIONの斉藤悠斗だ。自身が栄養食に対して感じていた違和感から、美味しさと栄養素の両立にこだわって開発した。地域の味噌蔵や特産品を救いたいという強い想いを持っており、MISOVATIONの原料として使うことで全国に届けていきたいと語る。味噌汁で叶える予防医療と生産者支援について聞いた。

【プロフィール】斉藤 悠斗(さいとう ゆうと)

1994年生まれ。宮崎県出身。もともと好きだった食への関心、重度の認知症となった祖父の介護経験から栄養学に興味を持ち、東京農業大学へ。大学で栄養士免許を取得し、研究室ではうま味の研究に従事する。卒業後、カゴメ株式会社、株式会社リクルートキャリアにて会社員として働く中で、ビジネスパーソンにおける健康管理の大切さを実感。2021年3月にMISOVATIONを立ち上げる。

美味しい完全栄養食=味噌汁

ーはじめに、事業内容について教えてください。

世界で初めて味噌汁の完全栄養食を開発して、D2Cでサブスクリプション販売をしています。完全栄養食は、厚生労働省の定める「日本人の食事摂取基準」に基づき、日本人が健康を維持するために必要な栄養を十分に含んだ食品です。現在は国外品も含め無機質な印象のものも多く、日常的に取り入れている方がまだ少ない市場です。一方、私たちは美味しさや生産者の想いなどを大切にしていて、心が満たされるような完全栄養食で世界の予防医療にイノベーションを起こしていこうと考えています。

プロダクトの特徴は大きく分けて3つあります。1つ目は、完全栄養食であるうえに、味噌や甘酒などを通じた腸内環境へのアプローチも考慮して開発した点です。2つ目は、日本各地の味噌と出会える点です。日本全国で味噌蔵の数はとても多いのですが、全国のスーパーで販売されているような大手メーカーの味噌ではなく、地域の中だけで販売しているような少量生産のニッチな味噌がたくさんあるんです。そういった味噌を作っている伝統的な味噌蔵さんとコラボしながら毎月味噌を変えてお届けしているので、日本のニッチな味噌を知ることができます。3つ目は、味噌と具材を生の状態に近いまま瞬間冷凍してお届けしている点です。例えばフリーズドライだと、具材が小さくなってしまう、食感が単一的なものになりやすいといったデメリットがあるのですが、冷凍では生の野菜から作ったようなフレッシュ感を残すことができます。また、加熱に弱い栄養素があり、すべての栄養素を残していきたいという背景から冷凍をしています。

 

ーどのような経緯で起業に至ったのでしょうか?

もともと食を通じた予防医療にすごく興味があったんです。興味を持ったきっかけとして、一緒に暮らしていたおじいちゃんが認知症になって自宅で介護をしていたとき、病気で人格も変わり衰えていく姿を見て病気に対する恐ろしさを知りました加えて、もともと食が好きで栄養学に興味があったので、大学で栄養士の資格を取得したのですが、社会人になって仕事が忙しかったせいかすごく太ったんです。栄養や食事管理の知識があっても行動に移せないという課題を、自分ごととして体感しました。

また、日本だと栄養士の資格はそこまで社会的地位が高くないんです。例えばアメリカではNST(Nutrition Support Team)*というチームの仕組みがあり、臨床現場ではお医者さんと栄養士が対等の立場で医療を提供するのですが、日本ではそういった仕組みはまだ多くありません。だから日本でももっと栄養士が活躍できる社会にして、食を通じた予防医療をやっていきたいと思っていたんですよね。それを実現するためには会社員で働くより起業したほうが早いと思ったので起業しました。

*患者の栄養状態の改善に努めることを目的に、医師、看護師、管理栄養士等の各職種がそれぞれの専門知識と技術を活かして、より安全かつ有効な栄養療法を行なうための医療チーム

 

ー食を通じた予防医療はいろいろな方法があると思いますが、味噌汁の完全栄養食に着目した理由を教えてください。

昔からすごく美味しい栄養食を作りたいと思っていました。今はいろいろな栄養食や健康食がありますが、栄養が摂れる一方で、普通の食事よりはあまり美味しくないと個人的に感じていたんです。どうしたら美味しい栄養食が作れるのか考えた結果、手を加えなくても完全栄養食に近い料理なら、美味しさを損なわずに完全栄養化できるのではないかと思いました。それで完全栄養食の栄養価に1番近いのが味噌汁だったというのが理由です。

毎月味噌を変えて小ロット生産できる理由

ー味噌汁の完全栄養食を作ると決めてから、どのように商品開発されたのでしょうか?

最初にレシピを作りました。厚生労働省が出している1日の栄養摂取基準*があって、その基準の3分の1を含んでいれば1食分の完全栄養食になります。だから、基準の3分の1の量をゴールに栄養価を逆算して、例えば「ビタミンEが何ミリグラム必要だからかぼちゃをこれぐらい入れよう」という感じでレシピを決めていきました。レシピを決めたあとは、OEM先を探すために「味噌汁 OEM」とか「レトルト OEM」などのワードでたくさん検索をして1軒ずつ電話をかけました。けっこう泥臭く開拓していきましたね。

*日本人の食事摂取基準 |厚生労働省

 

ー具はどういったものが使われているのでしょうか?

味噌汁1つにつき、18種類の具材を使っています。たんぱく質源で豚肉、豆腐、味噌を入れていて、野菜は茄子、かぼちゃ、小松菜、しいたけ、大根、人参、ブロッコリー、ごぼうの8種類です。あとは甘酒や調味料ですね。具材の生産地は、一部季節などによって変えているものもありますし、出汁の材料や豚肉はいつも同じところから仕入れています。

今のレシピが完全栄養を実現するためにはベストの組み合わせなので、現状具材は固定にしています。味噌と具材にも相性はありますが、味噌汁ってもともと何を入れても美味しい料理なんですよね。日本人にとって味噌汁は、余り物をうまく消化するための方法として作っていたような背景があります。サステナブルな食生活をするためにという意味でも日本に馴染んでいる料理で、何を入れても美味しいからこそ、美味しさを維持しながら栄養バランスを組みやすいんです。以前実施したクラウドファンディングでは、地域の特産品かつ相性が良さそうな味噌と野菜を使った味噌汁を作ったこともあります。

 

ー味噌を毎月変えるにあたって、味噌蔵さんはどうやって見つけるのでしょうか?選定基準などあれば教えてください。

加熱殺菌を行わない生味噌、木桶仕込みや天然醸造など伝統的な製法でつくられた味噌など、少量生産の味噌を中心に選定するという基準があります。かつ、全国に販路がない味噌のほうが私たちが取り扱う意義があると思っているので、地域のスーパーやその味噌蔵さんでしか売っていないような規模感の味噌蔵さんだけにしています。味噌って実は、生のものと生じゃないものがあるんですよ。スーパーの店頭に並ぶ味噌は、発酵が進まないように基本的に加熱殺菌をしているものがほとんどなんですね。ただ、加熱すると味噌の風味が飛んでしまいますし、せっかくカラダに良い働きをしてくれる菌も死んでしまいます。一方で生の味噌は加熱殺菌をしていないのでフレッシュなままの状態になっています。そして、その生の味噌を作っているのが規模の小さい味噌蔵さんなんです。

味噌蔵さんへのアタック方法は2パターンあって、1つはOEM探しと同じで直接電話をかけています。もう1つは自分のコネクションを使って開拓しています。私の出身である農業大学には、味噌蔵の後継ぎがたくさん通っていたり、卒業生にも味噌蔵の代表の方がたくさんいらっしゃるので、そのネットワークを使っています。あとはJAさんのアクセラレータープログラムに参加したことがきっかけで、JAさんに繋いでいただくこともありますね。

 

ー毎月味噌を変えていると在庫管理が大変そうですが、何か工夫されていることはありますか?

おっしゃるとおり、毎月味噌を変えるということは毎月違うものを作らないといけないので、需給が非常に見えづらいです。だから、臨機応変な製造かつ小ロットにも対応してくれるOEMと契約しています。この条件で受けてくれるところはすごく少ないので、OEM探しは大変でした。あと需給が見えづらいと言っても、月ごとに味を固定してサブスクリプションで提供しているので、できるだけ管理しやすい形になっています。そして、毎月必ず違う味にするわけではなく、基本的には定番の6種類を半年ずつ回していて、売り切れたらまた新しいのを作るというやり方にしているんですよね。お客さまにも7ヶ月目から同じ味噌が登場する可能性があることは伝えています。そういった形で、工場との交渉だったり、お客さまに納得してもらえそうな部分は無理をしないようにしたり、仕組みづくりを工夫しています。

 

ー開発していく中でどんなことが大変でしたか?

法人設立(登記)前に個人で動いて開発したということもあり、味の追求とOEMとのやりとりが大変でした。味噌汁は地域によって全然味が違うので、人によって評価が異なる商材なんですよね。だからみんなにとって美味しい味噌汁を作るのは難しいんです。初めてのクラウドファンディングでは、評価が極端に分かれましたね。当時は知名度も信頼度もない状態だったので、なかなか良い原料に出会えなくて大変でした。小ロットでの生産かつ資本もあまりなかったので、ずっと価格と栄養価と美味しさの戦いをしていました。

OEMとのやりとりでは、先ほどもお話したとおり毎月味噌を変えて小ロット生産をしてくれるところは少なくて、途中で音信不通になったり、見積もりをもらってみたらすごく単価が高かったりしたこともありました。ただでさえ難しい条件を、会社ではなく斉藤悠斗という個人の名前で引き受けてくれるところを探すのに苦労しました。そして、OEMが決まったあともなかなかハードルが高かったなと思います。同じような商品を作ったことがあるOEMはまったくないので、まず完全栄養食についての説明から始まって、栄養価を維持するための作り方もレクチャーしながら一緒に作っていきました。

 

伝えたいのは、味噌汁と味噌蔵の価値

ー購入者はどんな方が多いですか?

ざっくり分けると3パターンになります。4割が20代後半から30代の独身男女です。上場企業のサラリーマンや経営者など、激務で年収帯が高く、外食中心の方が多い傾向です。もう4割は40代から50代の男女で、健康に課題があるけど毎日自炊するのは難しいビジネスマンの方に買っていただいています。残りの2割はギフト利用の方が多いですね。男女比で言うと、意外かもしれないですが6対4で男性が多いです。

 

ーターゲットの方々に対してどのようにアプローチされているのでしょうか?

メディア露出や、小売店などのリアルな接点によるアプローチを行っています。私たちの商材は世界初の完全栄養味噌汁というテック要素と、日本各地の味噌を救うといったサステナブルに繋がる要素を持ち合わせているので、メディアに取り上げていただきやすいと感じています。私たちの武器を強みにメディアに出て、面を取りに行く戦略をとっています。私たちはそもそも味噌がなぜ日本でこれだけ伝統的に受け継がれているのか、なぜ味噌汁で完全栄養食を作る必要があるのかといったことを伝えていきたいと思っています。D2Cは基本的に、Web広告やアフィリエイトなどの施策が一般的ですよね。しかし、例えばインフルエンサーにPRをしてもらった場合、インフルエンサーとMISOVATIONは目立っても、私たちが伝えたいことや味噌蔵さんの価値まで伝えるのは難しいと思うんです。だからマーケティングでハックするより、しっかり私たちの価値を伝えられるメディアでの露出を増やして、量より質重視でファンを獲得してきました。

あとは、味噌って現状は50代から80代の市場なんですよ。完全栄養食に興味がある20代から30代の需要を取りにいってはいますが、非常に母数が少ないんです。だから、逆に完全栄養食に興味はない味噌汁好きな層である50代から80代にも並行してアプローチをしていて、それがメディアに注力している理由の1つでもあります。ただ、あくまでもこれらはフェーズの話だと思っていて、ブランドを丁寧に伝えることは意識しつつも、今後はスケールを視野に入れた上で様々なチャネルに取り組んでいく方針です。

 

MISOVATIONで地域の特産品を守りたい

ーホームページに「MISOVATIONが約束すること」が記載されていますが、その中にサステナブルという項目があります。こちらは具体的にどういった取り組みをされているのでしょうか?

今1番優先度高く取り組んでいるのが生産者の支援です。味噌と野菜の生産者の方々、一次産業の生産者の方々の拡大につなげることで地域の特産品を守っていく。そういう意味でのサステナブルに取り組んでいます。やっぱり日本の味噌は予防医療につながるポテンシャルを持っているし、もっと守られるべき文化だと思うので、生産者の方にしっかりお金が入る仕組みを作っていきたいです。

 

ークラウドファンディングで地域の特産品にスポットを当てたのも、サステナブルな取り組みと関係があるのでしょうか?

そうですね。味噌と同じように、野菜もすごくこだわって作っているんだけど認知度がないものはたくさんあります。私は宮崎出身なのですが、宮崎はマンゴーが有名ですよね。でも本当はもともと沖縄のほうが有名だったんですよ。それが東国原知事のおかげで宮崎のマンゴーの知名度が上がったんです。ブランディングによって農作物の売れ行きが変わるのを宮崎にいてすごく実感して、同じ事象が全国にもあるなと思ったんですよね。例えば、クラウドファンディングで使った福井の『越のルビー』というトマトは、ミニトマトより大きく、普通のミディアムトマトより小さいサイズが特徴的です。かつとても甘くて、強みがある食材なのに全国で消費されているわけではないんです。そういった特徴的でおもしろい食材を、完全栄養食という形で私たちが全国に届けていきたいと思っています。

 

国内外問わず、より多くの人の栄養改善に挑む

ー今後の事業展開を教えてください。

今考えていることが3つあって、1つはリアルの接点や法人向けの福利厚生導入です。ECサイトでの販売だけでなく、小売店や法人企業と連携しながらいろいろな人にMISOVATIONを届けていこうと考えています。2つ目は海外展開です。今実際に、シンガポールの展示会やフランスの商社とお話を進めているところがあります。富裕層が住んでいるアジアやフランス、アメリカには進出をしていきたいと思っています。商品をローカライズする必要が出てくるかもしれないですが、そこはマーケットを見ながらやっていこうと思います。3つ目が、味噌汁の完全栄養食とは違った第二の商品を出すことです。味噌汁×栄養食という市場がまだ日本にない中で、あえて私たちは1番難しい完全栄養市場にフォーカスしているのですが、そもそも市場サイズが小さいんですよね。だから、フリーズドライの単一栄養素を訴求した味噌汁を、今より単価を安くして売り出していこうと進めています。完全栄養食を食べる人だけじゃなくて、サプリや青汁などもっとライトな健康食品を食べている人まで市場を広げて、よりマスに刺さりやすく安価なものを小売店で販売するスタイルをやっていこうと思っています。

あと直近の構想ではないのですが、途上国の栄養失調改善にも取り組んでいきたいです以前アクションを起こしたことはあるのですが、ビジネスとしてどうスケールしていくかあまりイメージが持てず、ステップとして今は国内展開と先進国の栄養改善に集中することにしました。でも、将来的には取り組んでいきたいと思っています。

株式会社MISOVATION https://misovation.com/

 

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    interviewer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

     

    writer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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