進化を続けるばあちゃん食堂。加工食品やコンサルも展開するその目的とは
インタビュー

進化を続けるばあちゃん食堂。加工食品やコンサルも展開するその目的とは

2022-03-15
#地域・まちづくり #食 #雇用創出

福岡県うきは市に、75歳以上のおばあちゃんたちが運営する『ばあちゃん食堂』がある。これを企画・実施しているのは、うきはの宝株式会社代表の大熊充だ。コロナ禍で思うように飲食事業ができない中、うきはの宝では加工食品の開発販売や、他地域・他企業のコンサルティング事業に力を入れてきた。前回インタビュー以降の取り組みについて話を聞いた。

【プロフィール】大熊 充(おおくま みつる)

1980年生まれ、福岡県うきは市出身。高校卒業後バイク関連業界に従事したが、20代でバイク事故を起こし約4年の入院生活を送る。その後2014年1月、大熊Webデザイン事務所を創業して代表に就任。2017年4月専門学校日本デザイナー学院九州校に入学して、グラフィックデザインとソーシャルデザインを学ぶ。地域課題に挑みたいと思うようになり、社会起業家育成のボーダレスアカデミー二期福岡校を修了して、うきはの宝株式会社を2019年10月に設立、代表取締役に就任。
大熊さんの過去インタビュー記事はこちら:キャッチコピーは「75歳以上のおばあちゃんたちが働ける会社」〜福岡県うきは市から見える持続可能な社会の仕組みとは〜

大ヒットした加工食品のひみつ

ー前回のインタビュー以降、注力されてきた事業を教えてください。

なかなか食堂を開けられなかったので、加工食品の生産販売に力を入れてきました。ありがたいことに大ヒットしている『万能まぶし』をはじめ、色々な加工商品を展開しています。前回のインタビュー時から大きく変わったのは、メディアや他地域の行政・民間企業からの注目度が高くなった点です。今もNHKの取材を受けていますし、全国から高齢者就労のご相談があり、アドバイザーやコンサルティングという形で他地域に関わるようになりました。

 

ー加工商品はどのようなラインナップなのでしょうか?

売れているのが『万能まぶし』という商品です。あと完成はしているけれど、まだ販売していない商品がいくつかあって、その1つが梅干しです。作った人ごとに味の特徴があり、ばあちゃんを選んで買える梅干しになっています。パッケージはそれぞれ生産したばあちゃんの似顔絵が描かれています。ご飯に混ぜて食べる黒米なども販売準備中です。あとは、サツマイモをそのまま販売したり、干し芋やチップスにして販売できないかと開発を進めたりしています。

 

ー『万能まぶし』はかなり好評ですね。

ふりかけのような商品ですが、あえて『万能まぶし』という名前で売っています。「万能調味料ですよ」と言うこともあるのですが、そう言われてもよく分からないですよね。なんだかよく分からないところが大ヒットに繋がったと思っています。というのも、お客さんに使い方を委ねて、使い方の余白を残したんです。すると「ビーフンにかけてみました」とか「鍋に入れてみました」といった投稿をSNSに上げてくれたり、わざわざ会社に連絡をくれたりする方が出てきました。「卵かけご飯専用の卵です」といったマーケティングがあると思いますが、我々はその逆で「何にでも合います」と言うことで、お客様が自分なりに楽しんでくださっているのだと思います。

 

ー商品の企画はどのように行っているのですか?

3つくらい方法があります。1つは、ばあちゃんたちが企画を持ってくる方法です。もちろん全てを商品化することはできないけれど、試行錯誤しながら進めていきます。10品を同時並行で作りながら、結果その中の1つが商品化されるかどうかという感じです。ECで売るなら日持ちしないといけないという制約もあります。なので、賞味期限が短いものは卸して直売所や道の駅で販売しています。2つ目の方法は、すでにある農産物から加工品を作る方法です。先ほど紹介したサツマイモなんかは、たくさん採れたので何か加工品にできないかというところからスタートしています。最後が、企業さんとのコラボレーションです。依頼があったり、一緒にやろうとなったりして進めていきます。

大人気の『万能まぶし』

 

お客さんも企画に参加できるような仕組み

ー原料や生産について教えてください。

ほとんど地域で採れたものを使っています。魚や塩・砂糖などは地元で採れないので買ってきて使っていますが、地元にあるものは地元のものを使うように意識しています。うきは市は農業がとても盛んな地域で、豊富な材料があります。また、生産も9割方自分たちで行っています。

 

ー作る量が少ないと欲しい人に届かない一方で、作りすぎると無駄になるという難しさがあると思います。どのように折り合いをつけているのでしょうか?

基本的には作りすぎないようにしています。我々はまだ食品工場のレベルまで行っていないので、生産中心というよりは、どちらかというと受注生産寄りのお客さんを中心にした作り方をしています。大量に作って大量に売っていくという考えは今も今後もありません。もし大量生産をしてしまうと、高齢者の雇用を生み出したいというそもそもの前提が崩れてしまうんですよね。機械を入れて効率を高めていく方法ではなく、ばあちゃんたちが働きに来て手作業で作れる範囲で売っていくのが僕たちのやり方です。こういう作り方なので、ロスもあまり多くは出ていません。

 

ーお客さんの声にはどのようなものがありますか?

『万能まぶし』でいうと、「おいしい」とか「自分で色々試せて楽しい」といったお声をいただいています。SNSや対面でダイレクトにお客さんの声を知れるのは良いですね。多くのメディアに取り上げてもらったり、自社でも発信にかなり力を入れたりしているので、そういったところからうきはの宝やばあちゃん食堂のことを知ってくれて、購入してくれる方が多いです。ばあちゃんたちが働くばあちゃん食堂が生産しているということで、ブランドごと応援してくださる方が買ってくれています。

 

ーお客さんの声を生かす工夫があれば教えてください。

販売したものに対する感想を反映させていくだけでなく、企画・開発の段階からかなりお客さんやファンの方とコミュニケーションを取っています。例えば、今取り組んでいるサツマイモの加工食品開発も、TwitterやFacebookなんかで「今度ばあちゃん食堂でサツマイモの加工食品を作るんですけど、何が食べたいですか?」って聞いちゃうんです。そうすると色々な意見が飛んできます。同じように、商品のパッケージもいくつか提示して「どちらがいいですか?」とアンケートを取るんですね。そうすると、アンケートに答えてくれるだけでなく「2番のデザインをもっとこうして欲しい!」という意見も出てきます。いただいた意見を全て取り入れるわけではないですが、良いと思ったものを採用していきます。こんな風にコミュニケーションしているので、お客さんをはじめ、みなさん商品開発に参加している感じになります。そうすると、商品ができて「あの時の商品が完成しました」とご連絡すると、大抵みなさん買ってくださいますね(笑)。お客さんの意見を全部通すのが大事なのではなく、参加してもらいながら一緒に作っていく感覚が大切なのだと思います。

 

おばあちゃんたちの生きがいに

ーおばあちゃんたちとは普段どのようなコミュニケーションを取られているのでしょうか?

うきはの宝で働くようになってスマホを購入したという方がほとんどです。なので、普段の連絡はLINEで行っています。これは僕が言い始めたことではなくて、ばあちゃんの中の誰かがお子さんやお孫さんに使い方を教えてもらったようで、ある日グループLINEに僕も入れられていました。それまでは、例えば翌日の持ち物なんかも一人ひとり電話で伝える必要があったのですが、今はグループLINEで伝えればいいのでかなり楽ですね。きっと僕が入っていないばあちゃんたちだけのグループLINEも存在すると思います(笑)。

 

ー(大熊さんと、後ろにいたおばあちゃんのやりとり)

大熊さん「トヨコさん、スマホ買って便利になった?LINEはどう?」

 

トヨコさん「最高ですよ。どうにか使いこなしてる。娘が買ってくれたのよ。これでうきはの宝のみんなとやり取りしています。」

 

大熊さん「僕ともLINEでやり取りしています。どこで集めたのかわからないけど、スタンプめっちゃ送ってくるんです(笑)。」

 

ー働かれているおばあちゃんたちからはどのような声がありますか?

1番多いのは、食堂で新しい人との出会いがあって刺激になるという声です。80歳のばあちゃんが普通に生活していて、新しい人に出会う機会があるかというと、コロナ禍でない平時の時からそんな機会はなかなかありません。家から一歩も出ないことや、1週間誰とも会わないような状況もあるわけです。そう考えると、働くばあちゃん同士の交流や、お客さんとの関わりというのはとても良いようですね。しかもお客さんから「ありがとう」という声が届く。感謝される、誰かに必要とされるというのは、幸福度を高める要因になっているんじゃないかと思います。また、働くことそのものが生活に張り合いを生んでいるという側面もあるかもしれませんね。あとは、もっと働いて稼ぎたいというような声もあります。

 

ーおばあちゃん以外に、どのような方が事業に関わっていますか?

SNS上はもちろんですが、現場でも本当に多くの方が関わってくれています。例えば大学生がインターンに来たり、フォロワーを25万人抱えるインフルエンサーの方が家具の移動を手伝ってくれたり。誰でもウェルカムなので、別に募集したわけじゃないんですけど、たくさんの人が来てくれます。同じように専門家の方も、お節介というか、うきはの宝を応援したいという気持ちから関わってくださる方が多くて。例えば料理研究家の方がレシピのアドバイスをくれたり、士業の方がサポートしてくださったりと、色んな領域の方がいます。本当はもっと仕組み化して、お金を払ってウチに関わってもらうようにしたいんですけど、そこはまだ完全には整っていません。

 

ー事業の中で、おばあちゃんたちのやりたいことを数多く実現されていると思うのですが、経営面とのバランスはどのように取られているのでしょうか?

加工食品の場合は、いくらばあちゃんがやりたいといって製品化したとしても、最終的にはお客さんが判断するので、売れないとか美味しくないとなれば続けられないということになります。一方、ばあちゃん食堂の飲食部門は現在ばあちゃんたちに任せていますメニューやオープンに関するあれこれに関して僕は関わっていなくて、報告だけをもらう形です。会社としては、原材料や人件費といった原価計算をして、あとはばあちゃんたちが好きなように動いています。食堂の『ばあちゃんの気まぐれ定食』も、名前の通り毎回違う料理が出ているんだと思います(笑)。

 

ーおばあちゃんたちの知識や知恵はブラックボックス化しがちだと思います。残していくために取り組まれていることはありますか?

ばあちゃんたちの知識や知恵の伝承はかなり重要なテーマとして掲げています。我々は主に食の分野で伝承をしていこうと思っていて、ばあちゃんが教える料理教室などを月4回ほど実施しています。主に福岡県内の主婦や子供連れが参加してくれています。ちまきや発酵食品を作ったことがないという方も多いんですが、直接ばあちゃんが教えてくれるので安心です。現在はオフラインでのイベントだけでなく、SNSを使ったライブ配信にも力を入れていますし、映像はアーカイブして残していきたいと思っています。

 

地元だけでなく、全国の仕組みを変えていきたい

ー他地域のコンサルティングやアドバイザー事業、また支店展開やフランチャイズにも力を入れているそうですね。

他地域の自治体の方や民間企業の方から、「ウチでも高齢者就労のモデルを作りたい」とお声がけいただき、そのサポートに入っています。また、自社でも他地域に支店を増やしてきたいです。同様に、フランチャイズ運営も協力会社が進めてくださっています。これは、ばあちゃん食堂のノウハウを他地域の企業さんにお伝えして、同じようなモデルをそれぞれの地域で運営してもらう目的があります。

やっぱり僕たちとしては、ばあちゃんたちの働く場所と生きがいと収入を増やしたいという思いがあるんです。今ではうきは市での活動が認められていますが、これを全国にどんどん広めたいと思っています。さらにゆくゆくは、高齢者が働くことがほぼ想定されていない国の制度を変えていきたいと思っているんです。そのためには、1社だけの事例ではなく、全国でモデルを作って、声を大きくしていく必要があります。儲かる仕組みでないと、なかなか他地域・他企業に真似したいとは思ってもらえませんから、自社で儲けつつ、ばあちゃんたちが働ける仕組みも作っていく。そしてそれを広めることに取り組んでいます。

 

ー今後、注力していきたいことを教えてください。

国の制度を変えていきたいというのが大きな目標です。超少子高齢社会になった今、現在の社会保障制度は持続可能ではありません。身体が元気で働くことを望んでいるのであれば、じいちゃんばあちゃんでも働ける場がある。それが、彼らにとっても誰かに必要とされる生きがいに繋がる。もちろん全員が働くというわけではなくて、高齢者の選択肢の1つとして、働く場を提供していきたいです。まずは自社で実現可能性を示しつつ、問題提起を続けたいと思います。

 

うきはの宝 https://ukihanotakara.com/

 

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    interviewer

    掛川悠矢

    記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

     

    writer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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