完全食チョコレートを難病患者に。商品開発に込めたぶれない想い
現役医学部生ながら株式会社SpinLifeを創業し、完全食チョコレート「andew」を開発した中村恒星。「ターゲットはみんな」と語る中村が、どのような想いを持ってサービス開発に取り組んできたのか、またユーザーやメンバーとの関係性から見えるこだわりについて聞いた。
【プロフィール】中村 恒星(なかむら こうせい)
株式会社SpinLife代表取締役。北海道大学医学部4年生。表皮水疱症患者*との出会いをきっかけに、病気で口の中が荒れている人や食べることに制限がある人でも食べることができる、完全食チョコレート「andew」を開発。4月22日に発売を開始し、2時間で100枚を完売した。
*表皮水疱症⋯皮膚がボロボロとめくれてしまう先天性の皮膚難病。
もくじ
皮膚病患者との出会いから起業に至ったワケ
—表皮水疱症の患者さんと携わるようになったきっかけはなんですか?
僕自身心臓の難病を持っているので、以前から難病患者さんのために何かしたいと思っていました。医学部に編入学した際、難病患者について調べていたら、北海道大学の皮膚科の先生がその皮膚病に関わっていることがわかったので、話を聞きに行きました。そうしたら患者会の本部がたまたま札幌にあることを知り、行って患者さんたちとお話ししたのがきっかけです。そこから「一緒に患者会で活動しようよ!」と引き込まれて、会の運営などに携わるようになりました。
—表皮水疱症の患者さんは日本に2000人程度だと伺いました。2年間患者会に関わる中で、その2000人の方々のためにビジネスで何かしようと思ったのはなぜですか?
自分の中でなにか「ゼロイチ」をしたいとは前から思っていて。ビジネスで自分が解決できる課題を探すために、若手起業家を育成するコミュニティに参加しました。そこで他の参加者から、「皮膚病の人の課題解決したらいいじゃん。恒星が一番その人達のこと知っているでしょ。」と言われたんです。そこからすぐに患者さんに電話して、彼らがどんな課題を抱えているのか詳しく聞いてみました。食事、シャンプー、化粧など色々と困っていることがある中で、自分ができることを考えて食事を選び、これでビジネスをすると決めたのが始まりです。
ぶれない想いでこだわり抜いたサービス開発
完全食チョコレート「andew」とは…
「カカオマスとカカオバターをベースに、『アーモンド、チアシード、きな粉』などの素材を独自の配合で加えています。その上、乳化剤などの保存料は不使用。できるだけ天然由来の素材にこだわりました。(中略)日本食品標準成分表(厚生労働省より)で定める、日本人に必要な栄養素がすべて含まれており、食事では摂りきれない栄養素を補うというかたちになっています。」
(出典:大切な人へ、食の喜びと栄養を贈る完全栄養チョコレート | READYFOR)
—サービス開発の中で、様々な対象者にヒアリングをされたと伺いました。多様な意見をどのように統合してサービスに落とし込まれたのですか?
皮膚病患者の方だけでなく、ヴィーガンの方、筋トレをされている方などにヒアリングを行いました。「ターゲットだれ?」ってよく聞かれます。「みんなです」って言うと全然理解されないんですよね(笑)。「ターゲット絞って」って言われることもあるんですけど、そのアドバイスは全然聞き入れていないです(笑)。
前提としてぶらさないのは、患者さんが食べられるもの。これは絶対です。でも、やっぱり2000人のためのサービスを作っても株式会社として成り立たないのは明白なので、いろんな人に食べて欲しいと思っています。それって実は患者さんの気持ちともリンクしているんです。患者さんにはみんなと同じものを食べたいという感情があるので、より多くの人にサービスが広まることが重要です。
そこで、どうしたらみんなが食べてくれるだろうと考えたときに、「患者向け」という言葉を出しすぎると、みんな自分の世界のものじゃないと思ってしまうので、表向きには「ヴィーガンや筋トレしている人、アスリートにもいいですよ」と出しています。でも僕らの根底にある思いは、僕が医学部であることやメンバーが管理栄養士であることからストーリーテリングできるなと思っていて。表面では完全食として打ち出しているけれど、それでサービスを買ってくれて僕らとコネクションができた人に、実はこんな背景があるんですよと伝えるようにしています。
—多くの研究や仮説検証をしながら商品開発に取り組まれたと伺いました。中村さんを突き動かすものは何だったのでしょうか。
僕は「この商品ならいける」と思ったんですよね。商品開発に取り組み始めた頃は、大手企業の方とかに話しても「無理だよ」とか「それはニーズないよ」とか言われました。でも僕は自信があって、なぜなら皮膚病の患者さんが本当に欲しいって言っていたので、似たような状況の人もたくさんいると思ったからです。みんなそれが見えてないだけで。これ作ったら絶対いけるという意地で、諦めずに開発してきました。
—実際に「andew」を食べた方からはどのような反響がありましたか?
5月20日のリリース時、購入された方は患者さんというよりは、一般の方が多かったです。でも、自分のおばあちゃんに渡したいという方など、買う人自身は病気ではないし、食べることに不自由はないけれど、周りの人が病気でこれを贈りたいという方がたくさんいました。贈り物にしてもらうためにデザインやパッケージにこだわったので嬉しいです。
リリースに先駆けて、患者会のみなさんには試作品を食べてもらいました。3歳くらいの患者さんが、お母さんに食べさせてもらって、「おいしい?」って聞いたら、ニコって笑いながら頷いてくれたんですよ。その反応が一番嬉しかったですね。大人ってまずくても食べられるけど、子どもはまずいと食べないじゃないですか。子どもが美味しいって言ってくれるということは、大人でもいけると思いました。
相手の想いを尊重した関係性作り
—3月に実施されたクラウドファンディングでは、2日で目標金額の100万円を達成されたと伺いました。たくさんの方にファンになってもらうために心がけていることはありますか。
僕がいつも気にかけてるのは、SNSでのメッセージにすぐ返信することですね。ほとんどの方はすぐには返信がこないだろうと思って送ってこられるんですが、それを僕は可能な限り速く返してます(笑)。速さってばかにできないと思っていて。まだまだ無名の会社なのにメッセージを送ってきてくれる方々は、僕らのサービスの本当のアーリーアダプター*なので、しっかりと関係性をつくっていくことを心がけています。
*アーリーアダプター…新しい商品をいち早く受け入れ、他の消費者へ大きな影響を与える存在
また、D2Cはサービス自体だけでなく、「誰が作ったか」がもっと大事かなと思っていて。わざわざこのサービスを作った人は誰なんだろうっていうのをみんな見ている気がします。そのため、サービスのインスタグラム(@andew_chocolate)に加えて、僕自身のアカウント(@kosei_nakamura)もかなり強化して運用しています。サービスにダイレクトで入ってくる人もいるけれど、僕を通してサービスにたどり着く人も実際多いです。SNSで興味を持ってくれた人とSNSで直接コミュニケーションをとるように意識すると、その人が周りの人に「こんな商品があるんだよ」と伝えてくれる。そうして口コミがどんどん広がるといいなと思っています。
—チームメンバーはどのように集められたのですか。
5人メンバーがいるのですが、エンジニア以外SNSで連絡してリクルートしました。知り合いの知り合いでこういう人がいるらしいと聞いて検索し、連絡したという感じですね。これは今までSNSをしっかりやっていたことが活きていると思います。それに、SNSは性格が出るので、気になった人のSNSをよく見て、考え方や見ている世界観が合いそうか事前に調べていました。僕は札幌に住んでいて、直接会ってのメンバー集めがなかなか難しいのでSNSを駆使してやってます。
メンバー5人全員がフルリモートで、オンライン上ですら全員集まって話したことがないんですよ。でもそれが成り立っているのは、「ワンピース」をイメージしたチーム作りだからだと思います。それぞれの目標があって、船の上にのっている。だれもルフィを海賊王にするのをサポートしたいから船に乗っている人がいないのがポイントです。僕らもメンバーを集めるときに、もちろん僕がやりたいことも伝えますが、「君がやりたいことはなに?」って聞くようにしています。例えば、エンジニアをリクルートした時も、「君がやりたいことはなに?」って聞いたら、「ECの運用で日本一になりたい」と言っていて、「じゃあ僕は世界に通用するサービスを持っているから、それを君の技術と一緒に合わせて、でっかいサービス作ろう」って言って、メンバーになってもらいました。お互いのメリットになるような関わり方を提示することが、メンバーの熱量を高いままに保つ鍵だと思います。
お互いにとって幸せなビジネスを
—今後Spinlifeや中村さん自身は、どのような未来を目指していますか。
事業を通してしっかりと利益をあげ、余裕を持った中で、大きく広くたくさんの人に社会貢献できるようにその利益を使っていこうと決めています。
メンバーには「自分たちが幸せな気持ちを持った上でこの事業をしよう。患者さんのために、自分たちの生活を犠牲にしてこの事業をやるのは絶対にやめよう。」って伝えていて。自分たちが幸せな気持ちでやらなかったら、それを受け取ってくれる患者さんも幸せな気持ちで受け取れないし、申し訳ないと思ってしまう。そうするとお互い不幸せだから、まずは自分たちが幸せだと感じられること。そして、その先にある社会貢献をしようと話しています。この事業を通して誰かを幸せにしている。そのことが僕らにとっての幸せになっていく。それが社会貢献とビジネスが回っていく理想状態なのかなと思っています。
今後もチョコレートの販売はずっと続け、「andew」を「連帯の証」のようにしたいです。チョコを介して同じ価値観を持てたり、繋がりが作れたりすると思うので、その繋がりを生かしてまた次何か仕掛けていきたいと思います。
andew https://andew.co.jp/
interviewer
河嶋可歩
インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。
writer
堂前ひいな
幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。
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