閉鎖的な業界をオープンに。児童養護施設の色を伝える採用プラットフォーム

児童養護施設では、職員の3年以内の離職率が50%にものぼる。合同会社トンボの代表・吉住海斗は、幼い頃に児童養護施設で育った経験があり、施設の先生が辞めていく姿を何度も見てきたという。そこで、施設と職員のミスマッチをなくし、児童養護施設の「働く環境」をより良いものにするべく、児童養護施設の求人プラットフォーム『ALL HOME』を立ち上げた。事業を始めた経緯や次に目指す段階について話を聞いた。

【プロフィール】吉住 海斗(よしずみ かいと)

合同会社トンボ代表社員。幼少期に虐待を受け、中学から高校までを児童養護施設で過ごす。施設での生活を通じて職員の離職率の高さに課題を感じ、大学に通いつつ、HR企業で企画職をしながら、合同会社トンボを創業しALLHOMEを立ち上げる。

もしあのとき、先生が自分に合った施設で働けていたとしたら

―事業概要について教えてください。

『ALL HOME』は、児童養護施設の持つ色・想い・考えへの共感を軸にマッチングする新しい採用プラットフォームサービスです。

すべての子どもたちに安全なホームを届けるために、まずは児童養護施設の「働く環境」をより良いものにする活動として行なっています。このサービスでは、全国各地の児童養護施設それぞれの特色や働いている職員さんの人柄、給料や福利厚生などについて見ることができます。

他には、児童養護施設の人事業務や、デザイン業務を引き受けており、プラットフォームとしての求人機能だけではなく、施設に寄り添うサポートができればと思っています。

 

―どのような経緯で起業されたのでしょうか?

私は中学生のときから児童養護施設で育ったのですが、社会に出てみると施設から出て暮らしていくことの難しさを感じました。自分がやりたいことを見つけたとしても、社会の支援制度を子ども自身が上手く活用できないため、途中で転んで立ち直れない子どもたちも目にしました。それは、子どもが支援制度を活用する力が身につく前に施設を出なければならないからなんです。

社会にある支援や制度を、子ども自身が正しく活用できる力を身につけられる環境に整えることで、就職などの次の選択につながるようにしたいです。この自立する力は施設にいる間に養うことが望ましいので、そのためには身近な大人が正しい形で子どもたちに教える必要があると思っています。一方で、子どもたちに教える側の大人の離職率が高いという課題があり、その課題にまずアプローチしたいと考えました。

また、初めて他の施設を見たときに、自分が育った施設との違いをかなり感じました。自分が育った施設はルールが厳しかったのですが、その施設はすごく自由な雰囲気でした。そのときに、昔自分の好きだった先生が施設のルールと自分がやりたいことの狭間で苦しんでいたことを思い出しました。もしあのとき、先生が自分に合った施設で働けていたとしたら、施設のビジョンに向かって一緒に走っていけるような、もっと良い未来があったのではないかと思ったんです。

そこから、施設ごとの考え方の違いや特徴を表出させていくことで、働く人が、一人ひとりに合った環境で働くことができるのではないかと考えました。それは巡り巡って子どもたちの幸せにつながるはずなので、施設の考え方や特徴がわかるような求人プラットフォームを作ろうと決め、起業に至りました。

 

―児童養護施設で働く人の課題について教えてください。

施設で働く人の離職率が高いことの原因は大きく分けて2つあります。

1つ目は、施設と働く人のミスマッチです。施設それぞれの特色や雰囲気が合わないまま就職してしまうことが問題です。

2つ目は、労働環境など、人員配置や採用に関するミスマッチです。児童養護施設は、仕事の種類・業務量ともに多いにもかかわらず、夜勤もあればサービス残業も当たり前な風潮があります。子どもたちを直接的に支援する仕事の傍ら、職員採用の業務や委員会などの会議にも参加しなければなりません。子どもを支援する業務だけで精一杯なのに、それに付随する業務に追われてしまっていることが離職につながる大きな問題だと思っています。

労働環境が改善されない原因として、施設が職員を最低人数しか採用しないことが挙げられます。本当に手が回らなくなると採用活動を行ないますが、業務や環境の改善をしなくても施設の運営ができてしまうと、施設側は最低限の現状維持ができる人数で採用を留めてしまうことが多いです。

 

業界を透明化していく

―施設側は課題を認識しているのでしょうか?

「施設と働く人のミスマッチ」を認識している施設は少ない印象です。業界として、そもそも他の施設と深く関わることがあまりないので、自分の施設のことしか知らないことが多いんです。それによって自分たちの施設が業界の中でどのような立ち位置にいるのかも分からない状態です。

「労働環境の悪さ」に関しては、施設側もかなり認識しています。どこの施設もなんとか現状を変えていこうとはしていますが、離職率が高いため変化を起こすには人が足りない状況で、結局何もできず悪循環に陥ってしまいます。

 

―施設の上層部と現場の人の課題の認識や価値観の違いはなぜ起こるのでしょうか?

施設の中に中堅層の職員が少ないことが原因だと思っています。上層部の人も最初は実際に現場で働いてから施設長になっていくことが多いのですが、既存の文化に合わない人は途中でどんどん辞めていってしまいます。そのため施設に最適な変化が起きずに昔のままの文化が残り続け、働き続けた人は結果的に上層部になり既存の文化には違和感を感じにくいので、新しく入った現場の職員との価値観の違いが起こります。

 

―児童養護施設の採用の仕組みについて教えてください。

基本的には大学からの実習生をそのまま採用することが多いです。ただ、実習生は実習先以外の施設を探そうとしても施設の情報がほとんどありません。また、業界には施設をカジュアルに見比べる文化がないので、すべて自分で探して問い合わせないといけません。そのため、特に業界のことも社会のことも知らない学生にとっては施設を見学すること自体のハードルが高いです。その結果、先輩や大学の先生などの人づてで知ったところに決めるということが多いです。そして他の施設を知らないまま、実習に行った施設に就職するという流れが一般的だと聞きます。

 

―採用の課題に対してどのようなアプローチを取ろうとしているのでしょうか?

ミスマッチの課題の根底には、業界がブラックボックス化していることが原因としてあると思っています。アプローチとしては閉鎖的な業界をもっとオープンにし、透明化しようとしています。業界が閉鎖的でそもそも入口を叩くことがかなり大変なので、「施設職員の採用」という側面から切り込んでいこうと思って事業を行なっています。しかし、求人サイトとしての関わりだけにとどまらず施設の現状を聞いたり相談に乗ったりすることが多くなり、採用以外の側面でも施設に寄り添ったサポートができればと思っています。

 

施設の比較が気軽にできるような仕組みをつくる

―現在事業はどのようなフェーズなのでしょうか?

昨年にクラウドファウンディングを行なってから、今年5月にα版を出し、6月にβ版をリリースしました。これから徐々にアップデートしていく予定です。

 

―サービスとして大事にしていることを教えてください。

施設ごとの比較検討ができることです。

今はまだサイトで取り上げている施設は少ないですが、いずれ全国の施設を全て取り上げる気持ちで取り組んでいます。また、施設側も選ぶ側も検討することがもっとカジュアルにできるようになることを目指しています。既に行なっている取り組みの1つとしては、施設側に複数の求人の枠と種類(カジュアル面談やボランティアなど)を設けてもらい、その応募の種類によって応募者への対応を変えてもらうようにしています。そうすることで、いきなり採用面談で後戻りができなくなるよりも、お互いに目的に沿ったコミュニケーションを行なうことができます。

 

―既にサービスを導入している施設はどのようにつながったのでしょうか?

もともと業界に誰か知り合いがいたわけではなく、事業を始めるときに全国にある児童養護施設に、自分が実現したいことや思いを手紙に書いて送りました。そこで反応のあったところと今もやりとりをしています。反応があった施設は、児童養護施設出身という私自身の生い立ちに共感してくださったり、自分が思っていたような児童養護施設特有の課題を認識していたりするところが多かったです。

 

―導入している施設から何か反応はありましたか?

採用記事のために行なったワークショップによって、施設内の空気が良くなったという話を聞きました。どのような情報を求人サイトに載せるのか企画していく中で、せっかくなら施設が抱えている課題にもアプローチできるような記事を作ろうということになり、職員が考えている施設の現状や理想の姿、仕事の悩みについて共有し合うワークショップを企画しました。

ワークショップをすることで普段言えない自分の思いや悩みを共有することができたとお聞きしました。もともと求人サイトがメインではありつつも、施設が抱えている問題や業務改善に寄り添えたらと思っていたので嬉しかったです。

また、施設によっては名刺や資料を私たちが作るということもしているのですが、学生からの評判が良かったという話も聞きました。直接的なマッチングではありませんが、施設と学生との橋渡しのような役割を担えているのは私たちとしてもすごく意味があると思いましたね。

 

社会のあらゆる凹凸を平す

―サービスを通して、今後どのようなことを実現したいですか?

採用サービスに関しては、水道のように誰もが使うことができるサービスにしたいです。

施設の中には、人材紹介会社に多額の資金を費やしているところもあります。しかしそのコストを抑えることができれば、より多くのリソースを施設の子どもたちやそこで働く職員の方たちのために使うことができるようになるかもしれません。多額の資金を費やさなくてもマッチした採用が可能になる、誰もが使える手段でありたいです。

また、私は元々ブランディングの会社で働いた経験があります。そのとき、クライアントのロゴやホームページなどの自分の会社を表すものが新しくなると、普段であれば自分の会社のことを自慢しないような人が自分の会社を誇りに思って他の人に自慢してくれたことがありました。そのような、仕事を誇れる状態を作り出すことにも価値があると思っています。

いろんな施設の「働く」の周りにある変数(名刺やロゴ、ホームページなど)をより良くすることで、施設で働く人が幸せになり、その結果、子どもたちの幸せにもつながると思っています

 

―事業を通してどのような社会にしていきたいですか?

会社名の「トンボ」は、グラウンドを整備する道具のトンボが由来になっています。一人ひとりが意志を描き続けられ、途中で転んでも立ち直れるような社会を目指しています。そのために私は事業を通してトンボのように社会のあらゆる凹凸を「平す(ならす)」という行為をしていきたいと思っています。

 

合同会社トンボ https://tombo-inc.com/

 

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interviewer

張沙英

餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

 

writer

梅田郁美

和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
猫になりたい。

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