育休中ママがボランティアに参加できるキャリア支援サービス。復職後のキャリアにつながる第一歩を。
育児休暇中に、この先どんなキャリアを選択すればいいのかわからないという悩みを抱える女性は多い。育休中に、今までの経験や自分の強みを認識し直したり、新しい世界に目を向ける機会として”育休中ボランティア”という取り組みがある。株式会社mog(ママ、お仕事がんばって!の頭文字をとった社名)は育休中にボランティアができる企業を紹介し、キャリアカウンセリングなどを通してキャリアの創造をサポートするサービス「ママボラン」を提供している。代表取締役社長の稲田明恵に、サービス立ち上げへの想いや、働くママが直面している課題などについて聞いた。
【プロフィール】稲田 明恵(いなだ あきえ)
株式会社mog代表取締役社長。新卒入社した株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)で、人事マネージャーを務めていた2015年、第一子を出産。育休を機に自身で始めた育休中ボランティアの経験から、社内の新規事業として「ママボラン」をスタートさせた。2019年に一旦サービスをクローズし独立。株式会社mogを創業し、現在は「ママボラン」に加えて、ワーキングママに特化した転職サービス「ママリブラ」と採用代行・プロモーション支援の「ママステラPRO」を運営している。
もくじ
自身の体験から育休中ボランティアの価値に気づいた
ー現在株式会社mogで行われている、3つの事業について内容を教えてください。
まず1つは、ワーキングママに向けた長い目でのキャリア支援サービス「ママボラン」です。育休中にボランティアという形で、ママボラン向けに案件を出してくださっている企業さんで働くことができます。現在60社ほどのフルリモート案件を掲載しており、各社からは自社サービスの割引や、家事代行サービスの利用費補助、Amazonギフト券などの謝礼があります。また弊社で行うキャリアカウンセリングなどのプログラムを受けていただいたり、利用者のワーキングママ同士で集まるコミュニティに参加していただいたりすることもできます。育休中のキャリアカウンセリングや、キャリア研修といったサービスは世の中にたくさんありますが、ママボランではボランティアを通じてより実践的なキャリア支援ができるというのが特徴になっています。2つ目に、ワーキングママに特化した転職サービス「ママリブラ」があります。時短勤務やリモートワークが可能といったワーキングママが仕事と育児を両立して働ける案件を専門に取り揃えて紹介しています。最後が採用代行・プロモーション支援の「ママステラPRO」です。企業の採用業務や採用プロモーションを受託しているのですが、経験者のママさん達とプロジェクトを組んでお仕事を受けています。日本ではまだまだフルリモートで働ける案件というのは多くないため、フルリモートで働きたいママたちの働けるプロジェクトを自社で生み出そう、ということなんです。
ーママボランを軸に3つの事業を運営されているんですね。最初にサービスを立ち上げたのは会社員時代だったそうですが、その経緯はどんなものだったのですか?
私と一緒に独立した、副社長の金子と育休のタイミングが一緒になったのがママボランの立ち上げのきっかけでした。勤めていたのは株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)という会社で、2015年当時の私はパーソルホールディングスに異動して人事マネージャーをやっていたのですが、その時に私が第一子、彼女は第二子の育休に入りました。金子と2人で、育休期間を利用してパーソルHD内の新規事業コンテストに出てみようという話になったのですが、そこで彼女から出たのが”育休中ボランティア”のアイデアだったんです。彼女は第一子の育休の時につまらない過ごし方をしてしまった、という後悔をしていて、第二子の育休中に他の企業でボランティアをしていたのですが、そのボランティアがとても良いということで。はじめ私は正直良いと思えませんでした。育休中で子供も小さくて、大変な時なのに他の会社でボランティアをするなんてみんな偉いなあ、みたいな(笑)。でも私も試しにと思って、教育系のNPO法人で育休中ボランティアを始めてみました。これが結果的に私にとって良かったんです。業務内容は先生の採用のお手伝いで、それまで人事マネージャーとしてやってきた経験もあって難しい仕事ではなかったのですが、「やっぱり人事の仕事に、私は面白さを感じないな」と気付いたんですよね。今思うと、元々営業や新規事業をやっていた方がやりがいを持てていたんです。それで、育休のタイミングで他の会社で働いてみるという体験から学べることがあるな、と思いました。加えて、元々インテリジェンスに入った理由は、日本の硬直化した働き方や雇用環境を変えたいという想いがあったからだったなと思い出し、新しく働くことに関するサービスを作りたいという想いが芽生えてきました。それで、自分の経験からも人に勧められる、ママボランをサービスとして形にしようという話になりました。有り難いことに会社にも背中を押していただくことができたので、復職と同時にママボランを事業としてスタートさせることができました。
他の会社で働くことで、自身の強みが見えてくる
ーママボランのターゲットであるワーキングママは、現在どんな悩みや課題を抱えているのでしょうか?
現在のママボラン登録者は8割が育休中の方、2割が復職後の方で、いずれも小学校入学前くらいの未就学児を育てながら働いているママたちです。そういった人たちが持っているニーズとしては「育休で会社と離れた今、何かキャリアにプラスになるようなことをやってみたい」というポジティブなものから、「自分の強みが分からない」「復職した後、今の会社で働き続けられるのか不安」といったキャリア不安を解決したいというものまで様々です。そういったママたちが、他の会社で働き、自分の強みや市場価値はどんなものなのかということを、他者の視点からフィードバックしてもらうという実践的なキャリアの創造ができるところにママボランの価値はあります。それからワーキングママのキャリア支援のプロとしてやってきた私たちが、キャリアカウンセリングや研修といった形で市場価値を引き出すこともできますし、コミュニティ機能を使ってママボランで活動しているママ同士のつながりを持つことも可能です。
ーママさんたちをボランティアとして受け入れる企業側は、どんな意図で受け入れをしているのでしょうか?
社会課題に対して取り組んでいる企業・団体で、世の中に必要なことをやっているのだけれど人手が足りないし、資金と人を増やしてマーケットを押さえに行くようなフェーズでもないというところが多いですね。例えば女性の就業支援をしていたり、子供たちの教育支援をしていたり、環境問題への活動をしていたりという例があります。そういった団体はママボランの取り組みに共感しつつ、自分たちの事業を大きくするために意欲的な人と一緒に働きたいと考えてくださることが多いです。それに、受け入れの費用はいただいていないので、費用面でのメリットもあると思います。
ボランティア先の一覧
ーキャリアカウンセリングや研修も行われていますが、どんな内容になっているのですか?
キャリアデザインプログラムという3ヶ月のプログラムがあり、2種類の個別のカウンセリングと、常時20種類以上あるキャリア研修を好きなだけ受けていただいて、最終的にキャリアデザインシートというものを作っていただく内容になっています。キャリアデザインシートに書く内容の1つが”つよみの明確化”です。これまでの仕事の実績から言える職種の専門性と、どういう人でありどんなことを志向しながら働いているのかといったパーソナリティの面に分けられます。また、これから目指す人生やキャリアの方向性、どんな働き方をして何のために働いていくのかといったことも言語化してもらうようにしています。それぞれ、”can”と”will”と言われる内容で、予め可視化しておくことによって、転職活動や社内の上司との面談などでも使っていただけます。実はこのキャリアデザインシートは、厚労省が進めているジョブカードというものを参考にしているんです。職歴だけでは表せないその人の良さを企業側にもアピールして就職するということを進めていくものなのですが、より民間の企業でも使いやすいよう、実践的な内容に修正したものが私たちのキャリアデザインシートです。
未来につながる第一歩を踏み出す、働くママのキャリアプレイス
ーママ同士のコミュニティがあるということでしたが、コミュニティ内はどんな雰囲気なのでしょうか?
コミュニティサイト内では、ママたちが毎日のようにブログを書いて情報交換をしています。「コロナをきっかけにしてテレワークが中心になったので地方移住を考えている。地方移住実際どうですか」とか、「育休中で不動産が気になり出しました。賃貸と持ち家どちらがいいでしょうか」といった人生相談に近い投稿もあれば、「息子がご飯を作ってくれました」とか「夫婦間のTODO共有どうしていますか」といった日常の話も投稿されていますね。ワーキングママの特徴として公私が曖昧というか、仕事だけのこと、家庭だけのことで悩んでいるということはあまりないのではないかと私は思っているんです。自分の家族にとってどんな選択がベストなのか、いつも悩んでいる人が多いという感覚があるので、いろんな家庭の話を聞きながら「自分たちの場合はどうなんだろう」という風に持ち帰ってもらうための場所になっていると思います。
ーユーザーのママたちからの声はどんなものがありますか?
パーソル時代にやっていて、独立するにあたって一旦クローズした旧ママボランがあるのですが、その時のユーザーからはママボランを通して「人生変わった」という声をいただくことが多いです。ママボランを卒業して転職した人もいましたし、現職に留まる決意をして管理職を目指した人もいますし、多くはないですがママボランでのボランティア先に転職した人もいました。何かモヤモヤしたものを抱えてくる人が多いので、ママボランが転機の直接の理由になっているのかはわかりませんが、ママボランがきっかけで次の一歩を踏み出せたという声をいただくのは事実です。これはママボランが、判断は完全に個人に委ねつつ、必ず一歩を踏み出すことができるようなサービスになっているということだと思っています。従来の人材サービスでは、このサービスなら転職、このサービスなら副業といったゴールが最初から定められていた。一方でキャリア支援やカウンセリングのサービスも、その後の行動に繋がらないものが多かったと思うんです。ママボランは、”未来につながる実践型キャリアプレイス”をコンセプトに掲げていて、未来につながる第一歩を踏み出すための、働くママのキャリアプレイスだと考えています。
ママが仕事で自己実現をするのが当たり前の社会へ
ー育休を機にキャリアを考え直したり、転職を目指される女性は多いのでしょうか?
結構多いです。理由としては、職務経歴書を書いたりカウンセリングを受けたりといった活動の時間が取れるようになるというのが1つあるかもしれません。ですがもう1つ大きいのが、復職して働き方が今までと変わった時に、自分の価値を発揮できるのか不安に思う人が多いという理由ですね。今までは残業をして、時間を担保にして働けていたけれど、それができなくなったときに同じような成果を出すことができるだろうかと。それに日本ではまだまだ時短で働くことに対して評価をしないという会社が多くて、育休明けで年収が新卒以下になってしまうような会社さんもたくさんあります。時短勤務で働くと評価面談をしてもらえないとか、人事異動のチャンスがなくなるという会社も多いですね。会社としては保護施策としてやっている面があって、「今は会社よりも子育てなんでしょ」「働けているだけいいんだよね」みたいな認識になっているんですよね。先輩社員がそんな立場に晒されているのを見て、「自分も育休が明けたらあの立場になって働くんだ」と思ってしまう。当然、リモートで働けたり、時間よりも成果で評価される職場を探す人が増えています。
ー育休から復職すると給与が下がったり、キャリアが止まったりしてしまうという状況は、なぜ起こってしまうのでしょうか?
残業ができなくなったり、時短勤務を選択する場合は、その分の年収が下がりますよね。たとえば、月45~60時間分ぐらいの残業代が見込みで給与に入っているケースだと、それだけで10万円くらい減ります。時短勤務の場合はさらに減りますよね。賞与が月額給の◯ヶ月分という規定になっている会社は、月額給に合わせて賞与も減ります。結果全体で見ると新卒の時よりも低いじゃないか、という話になってしまうんです。またキャリアが止まるのは会社としての考え方ですね。子供ができたら仕事に対してコミットしてくれないんでしょ、という考え方が前提にあって、キャリアアップのチャンスをもらえない場合があります。また管理職のミーティングが夜にしか設定されていなかったり、管理職に必要な研修が土日にしか行われていないという話も聞きます。ミーティングや研修に参加できないとなると、「あいつはキャリアに対して向上心がない」という捉えられ方をしてしまうんです。そんな状況にあってママボランでの経験をきっかけに転職していく人もいますし、一方で、他の会社を見たことで自分の会社の良さを再発見して、社内でのキャリアアップを目指す人もいます。
ー最後に、今後の事業の目標を教えてください。
現実的な目標としては、ママボランをしっかり育てていきたいと思っています。学びと実践の中間のような感じでボランティアに参加しキャリアを積んでもらうのもいいですし、他の会社を見ることで視野を広げて復職後に活かしてもらうのもいい。受け入れ企業にとってはスキルシェアのような形でママたちに事業の促進をサポートしてもらい、経験を価値として提供する、お互いにwin-winな形で引き続き取り組んでいきたいです。このモデルには色々なポテンシャルや広がりがあると思っていて、例えばボランティアは基本フルリモートなので、地方のママや、夫の駐在で海外に住んでいるママにもキャリアの断絶をカバーするものとして使っていただけると思います。色々な方に、地域を問わずお使いいただけるようなサービスに育てていきたいですね。
目指す最終目標は時間や場所にしばられず、成果で評価され個人の専門性を磨き続けられる会社を増やしていくことです。そのような企業が増えれば制約のある働き方でもキャリアをあきらめず、戦力として会社の成長に貢献できると思います。そのためにmogができることは、自分のつよみをいかして活躍している女性の姿や彼女たちの力を会社の成長に活かしている企業があることを発信していくことだと思っています。現在はワーキングママの転職支援・キャリア支援プログラムの提供をしていますが、これらサービスを通じて個人のWILL・CANと企業の成長を結びつける、そんな事業に拡げていきたいと思っています。長期的には、”ママ、お仕事がんばって!”という会社名がダサくなって、役目を終えるような社会にしたいと思っています。ママが仕事を頑張って自己実現するのは当たり前だし、社名の存在意義がないよねという風になって欲しいですね。
株式会社mog(ママ、お仕事がんばって!) https://www.mog-career.co.jp/
ママボラン https://mamavolun.jp/
ママリブラ https://www.mamalibra.jp/
ママステラPRO https://campaign.001.mamastella.jp/