仕事での成功体験を全ての人に。障がい者の活躍を創造する特化型BPOプラットフォーム

「就労困難者にも、仕事を通じて成功体験を持ってほしい」という想いで起業した、ヴァルトジャパン株式会社代表の小野貴也。創業から7年でNEXT HEROを日本最大の障害者特化型BPOプラットフォームに成長させた。プラットフォームとしての強みや現場との連携、社会起業家としての事業の作り方について聞いた。

【プロフィール】小野 貴也(おの たかなり)
ヴァルトジャパン株式会社代表取締役。前職の製薬会社を経て、2014年に起業。創業から7年経った現在、展開するNEXT HEROは、就労継続支援事業所1500箇所、障がいのあるワーカー1万人以上の登録を有している。1988年生まれ。

「薬で仕事の成功体験は作れない」という衝撃

—現在の事業について教えてください。

障がいのある方に特化したBPO*プラットフォームNEXT HEROを運営しています。パソコンでのデータ入力、清掃、部品の検品などのお仕事を企業や自治体から受注し、そのお仕事を特性データに基づいて、全国にある就労継続支援事業所や在宅で働かれている障がいのある方々に発注するという仕組みです。また昨年から、事業所の作業スペースを企業のECのロジスティックセンターとして活用・運営するEC HEROSもサービスを開始しました。
* BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)…企業の業務プロセスを外部の企業に委託すること

 

—起業のきっかけはありますか?

起業する前は製薬会社でMRをしていました。仕事の中で、精神疾患系の医薬品を服用されている方々の患者会に参加し、患者さんたちの病気の悩みや治療法のナレッジなどについてお話を伺ったことがありました。そこで、皆さん共通して「仕事の成功体験がほとんどない」と話していたんです。僕はこれに衝撃を受けました。当時医薬品メーカーの一員として、「良い薬でQOLを上げていく」ということをミッションにしていたわけですが、薬で仕事の成功体験は作れないと気づきました。仕事の成功体験を作るには薬ではない、全く別のアプローチが必要だと。これが大きな創業のきっかけです。また、僕自身も摂食障害になり、かなり精神的にダメージを受けていた時期があります。そのような時期にもMRとしての仕事は充実していて、仕事を通じて自分の存在価値を実感するという経験に救われていたんです。このような実体験も重なり、障がいや疾患を持っている方でも十分活躍できる、仕事でそのような方々のQOLが上がるような社会にしたいという想いから、2014年に創業しました。

 

—そこからどのような経緯で、今の事業に至ったのですか?

起業した後に、就労継続支援事業所の経営者の方に出会いました。就労継続支援事業所とは障害福祉サービスの1つで、様々な障がいのある方が通所し、お仕事をして所得を得たりキャリアを成長させたりできるものです。この事業所は全国47都道府県に約1万5000箇所、セブンイレブンの店舗数と同じくらいあります。その経営者の方からお話を聞き、事業所では最低限仕事をして賃金は得られるものの、仕事の量が足りなかったりキャリアの成長を助長するような仕事が豊富にあるわけではなかったりする、というような状況があると知りました。また、事業所にもいくつか種類がありますが、B型と言われる事業所では、時給200円くらいにしかならず、どんなにその方のスキルや生産性が向上しても200円以上になることはない、というような実態もあります。そのような課題を知ってから、「じゃあ僕が営業に行きます」ということで、いろんな企業に営業に行き仕事を受注して、その仕事を事業所に発注するという事業を始めました。これがNEXT HEROの始まりです。

 

 

インフラを整え、経済セクターと支援の現場をつなぐ

—NEXT HEROプラットフォームの仕組みを詳しく教えてください。

現在、BPO市場だけでも3兆円の規模があり、経済セクターにはたくさんの仕事が流れています。私たちのプラットフォームはデータを活用し、これらの仕事を障がいのある方々にも効果的に流通させるためのインフラです。具体的には、全国1500以上の就労継続支援事業所のあらゆるデータを収集しています。例えば、作業スペースがどのくらいあるのか、管理者の方はどのようなスキルがあるのかなどです。さらに、そこに所属されているワーカーの方の「こんな仕事ができます」というcanのデータと、「こんな仕事があったら挑戦してみたい」というwantのデータなども集めています。このような施設のアセットについての情報や事業所の実績は、各事業所のホームページで公開されていることも多いのですが、まだまだ価値を活かしきれていないんです。経済セクターとつながるインフラを作るためには、このようなデータを活用することが極めて重要になると考えています。現状、事業所においては、人手不足や営業スキル、営業リソースに限界があることなどから、企業の受注機会を増やしたくても増やしづらい、構造的な課題があります。これに対してNEXT HEROでは、膨大なデータに基づいて、障害のある方々が活躍できる仕事を受注するための戦略を描き、プラットフォーム構築によって新たな仕事の流通と活躍機会を生み出しています。

—各事業所とはどのように連携しているのですか?

私たちが経済セクターから事業所に仕事を流すところを担い、そこから事業所で一人一人のワーカーさんに最適な就労支援をするというところは、ほとんど現場の管理者の方々にお任せしています。現場の職員さんたちは福祉のプロです。だから、一人一人にどのような仕事を割り振りサポートするのかについては、現場の方々に任せる方が絶対に良いと思っています。私たちが新しい概念を持ち込み、今までの就労支援はだめだと主張したところで、社会は変わらないんですよね。現場における既存のやり方を尊重し、それを活かせるようなインフラを作っていく。このような、現場に強い人は現場を、マーケットに強い人はマーケットをという役割分担で連携しています。

 

—クラウドソーシングのような直接マッチングのプラットフォームではなく、VALT JAPANが間に入る形でのBPOを採用しているのはなぜですか?

もちろん直接マッチングでは、中間費用が約10~20%であることなど、発注サイド・受注サイド両方にとってのメリットも大きいです。それでも直接マッチングを採用しなかったのは、やはり現場の声を聞くと、事業所の方々にとって直接マッチングは非常にハードルが高いからです。発注企業側としては、最低限依頼した仕事がきちんとしたクオリティで返ってくるということが最優先ですが、就労継続支援事業所では、障がいのある方々はそのような企業の依頼に応えるモチベーションは高いもののスキルに不安があったり、職員の方にとっても障がい者の方々を支援しながら全てをマネジメントするのは難しかったりするという現状があります。それを考慮すると、やはり直接マッチングで発注企業側の求めるものに事業所だけで100%応えるというのは難しいんですよね。なので、私たちが間に入り、品質の管理や納期に合わせたプロセスの管理をはじめ、全ての受注責任を担うことで、双方が安心して受発注を行うことができています。また、人数が必要となる大規模なお仕事も、私たちがいくつもの事業所をまたいで一気に管理を行うことによって可能になっています。

 

—お仕事の質は具体的にどのように担保されているのですか?

まずは就労支援事業所の職員さんが現場で管理を行ってくださいます。そして、例えばオンラインで完結するようなパソコンのお仕事などは、私たちのクオリティコントロールチームがダブルチェックをします。さらに各案件を担当しているディレクターがトリプルチェックをし、納品に至ります。このクオリティコントロールチームも実は一部、在宅で働かれている障がいのある方々や難病の方で構成されています。特性として、ゼロから作業するよりも出来上がったものを品質チェックする方が得意という方が結構いらっしゃっるんです。そういう方々にクオリティコントロールをお任せしています。

就労継続支援事業所のワーカーのみなさん

 

事業を成長させるためのパートナーシップ

—発注企業側にはどのようなことを訴求しているのですか?

昨今、働き方改革は社会の大きなテーマになっていますが、この改革の中に従業員は会社のコア業務に集中し、ノンコア業務はその手のプロにどんどんアウトソースしていくべきという考え方があります。そのような文脈で、このノンコア業務のプロである私たちに仕事を任せてください、というような営業をしています。さらに、多くの企業さんにとってノンコア業務というのはいかに安くできるかが重視されています。しかし、私たちは障がいのある方々の活躍のためにやっているので、激安でお仕事を受注するようなことはありません。そうではなく、きちんと売り上げを伸ばしていく、事業を成長させるためのパートナーであるということを同時に訴えるようにしています。

 

—企業の方からはどのような声が届きますか?

基本的にみなさんすごく喜んでくれますね。障がいのある方々に仕事を提供して社会貢献できる点に満足してくださる方ももちろんいますが、それよりもビジネスパートナーとして仕事のクオリティを評価いただいています。パートナーシップがきちんと成立しているからこそ、お仕事をもらえるし一緒に仕事ができる。これが私たちのプラットフォームが間に入ることによって実現可能になります。だから、障がいや難病のある方など就労困難な方々と一緒に仕事をする経験がほとんどない企業さんでも、私たちを信頼して発注してくださっていますね。

 

 

課題を定量化し、事業に落とし込む

—ホームページ上に社会的影響指標を細かく掲載されているのが印象的でした。どのような意図があるのですか?

私たちは、社会課題を解決していく時に「どの数値をどうしたら社会課題が改善に向かっている、解決されていると言えるのか」を明確に設定することが必須だと考えています。なぜ社会課題が解決されないのかというと、課題の解像度が荒かったり解決した時の世界観がぼやけたりしているからです。課題解決というのは、プレイヤー側の解像度までしか進まないんですよ。だから私たちはとにかく数値化する、定量化することを重視しています。あと、解決できないものがあるということはちゃんと理解するべきだと思いますね。こういう課題解決をしたい、こういう社会を作りたいと話すのは悪いことではないですが、実現されなかったら意味がないじゃないですか。本気で実現させたいのであれば、今できること、できないことを分類する。そして、できることは徹底的に定量化しながら爆速で解決していき、できないことについてはいきなり解決のアプローチは難しいので、まずは定量化し、段階的にアクションしていくことが大事だと思います。

—これらの数値はどのように決められたのですか?

最初に僕がリーダーシップをとって理想の社会を定量化し、その後現場やチームメンバーを巻き込んで最終決定しました。僕は社会課題解決には圧倒的なリーダーが必要だと思っています。その社会課題が深刻であればあるほど、公的セクターがすでに挑戦しています。でも国レベルで動いているのに解決スピードが上がらないのは、経済セクター側にその課題解決にコミットする圧倒的なリーダーがいないからだと思うんです。だから社会課題の解決をしたい人は、まずは現状から課題解決までのロードマップをガンっと示す。そしてそれを実現するために具体的にどうしていくのか、またより良い解決プロセスはあるのかといった点について、現場やチームを巻き込んでみんなで作りあげていく。これを意識する必要があると思います。

 

—社会的影響指標と事業KPIはどのように関連しているのでしょうか?

基本的に、社会的影響指標からの逆算で事業KPIを設定しています。私たちの具体的なKPIとして、まず企業側に対して重視している指標の1つに、解約率があります。私たちは取引先がどんどん増えている状態ですので、加えて解約率が低ければ、ビジョンに共感してくださる経済セクターがあるし、私たちのインフラが効果的に成長していると言えますよね。一方で事業所側に対しては、障がいのある方々のキャリアと賃金がどのくらい増加しているかを重視しています。世の中には、「賃金を上げることが全てではない」というような考え方もあります。ただ、障がいのある方々が一生懸命誰かを喜ばせるために仕事をした結果、その人が喜んでくれた対価として払っているお金が増えるというのは、良いことですよね。また、障がいのある方々がたくさんある選択肢の中から、「賃金を上げない」という選択肢をするならいいと思うのですが、今の社会はそのように障がいのある方々が自ら選択できる状態ではないです。だから、「賃金を上げる」というのは1つ重要な指標だと考えています。実際に私たちのプラットフォームを使って働かれている方から「1人暮らしを始めました」という報告をもらったことがあって。今までは月1万2千円くらいの賃金であった方が月5万円になって、結果1人暮らしを始められたそうなんですよ。プラットフォーマーとしてこれ以上の喜びはないですよね。彼らが生きたい人生を生きるための選択肢を増やしていくことが使命だと自覚しています。

 

 

就労支援業界をデータドリブンに

—今後の展望を教えてください。

私たちはこれまでもテクノロジーを活用してプラットフォームを運営していましたが、今後はさらにテクノロジーに投資をし、事業を加速化させていきます。NEXT HEROはこれまで蓄積してきた膨大なデータと市場データを活用し、より最適なマッチングを実現するべく、テクノロジーを主体とした受発注モデルへと進化します。障がいや難病のある方々、そしてそのご家族の方々は、みなさん本当に苦労されて悩まれているんです。ただこの悩みというのは十人十色なので、それをテクノロジーを使って見える化することが重要だと思っています。この就労支援業界をもっとデータドリブンにすることでイノベーションを生み出していきます。

私たちは、仕事って誰かに喜んでもらうための手段の1つだと思っています。障がいの有無に関わらず、これまでにない新たな機会を生み出し、みんなで一緒に誰かに喜んでもらうために仕事をするという”共生社会”を作っていきたいです。

ヴァルトジャパン株式会社 https://www.valt-japan.com/

 

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interviewer

馬場健

アートが好きな九州男児です。人の心に寄り添った取材をこころざし、日々勉強中。

 

writer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。