起業に関心あるワカモノは400名超!神戸発・行政と企業の連携で誕生した「KOBEワカモノ起業コミュニティ」とは?
イベントレポート

起業に関心あるワカモノは400名超!神戸発・行政と企業の連携で誕生した「KOBEワカモノ起業コミュニティ」とは?

2024-03-14
#インキュベーション #イベントレポ #アクセラレーション

神戸市とW.inc、当メディアの運営者talikiで共同運営している「KOBEワカモノ起業コミュニティ」は2023年で2年目を迎えた。KOBEワカモノ起業コミュニティは、神戸市が主催する「起業家が身近なまち」を目指したコミュニティだ。産官学連携のもと包括的な支援事業をおこない、参加者から口コミや民間企業・教育機関からの紹介によってコミュニティが広がっていく仕組みを作っている。

KOBEワカモノ起業コミュニティが考える、官民連携で目指す起業家支援のあり方とは。そして次世代に繋げるための、コミュニティのさらなる変化とは、何を思考し、考えているのかを神戸市新産業創造課の織田尭氏と、W Inc.土井仁吾氏、talikiインキュベーションマネージャーの宇都宮里実氏に話を伺った。

プロフィール

・神戸市担当: 織田尭(おだ たかし) 写真中央

神戸市イノベーション専門官

新卒で入った会社を退職し、豪州で絵を描いて売る暮らしをした後、起業の第一歩を支援するスタートアップカフェ大阪や、探究的習い事が集まるスクールの立ち上げを経て、2021年に神戸市に入庁。起業したい学生が、起業家や支援に会える環境を、神戸市内外の支援者・起業家と共同で作る”KOBEワカモノ起業コミュニティ”などを手掛ける。

 

・W担当者:土井仁吾(どい じんご) 写真左から2番目

KOBEワカモノ起業コミュニティ コミュニティマネージャー

神戸大学経営学部2023年卒業。食料廃棄に違和感を持ったことをきっかけに食育に興味を持ち、食育グッズの商品化や、地域・学校で子ども向け食育ワークショップの実施に取り組む。2022年に株式会社omochiを設立し、食の豊かさを伝える学びをつくっていたり、Wにて起業にチャレンジしたい若者支援にも取り組む。

 

・taliki担当者:宇都宮里実(うつのみや さとみ) 写真左から4番目

株式会社talikiインキュベーションマネージャー。新卒でweb媒体の編集アシスタントをする傍ら「日本橋CONNECT」にて店舗立上げ、エリアリーダー担当。2020年10月株式会社taliki入社。現在は社会起業家支援プログラム運営や新規事業立ち上げ、人事業務に携わる。


 

「起業家が身近なまち」を目指したワカモノが集まるコミュニティ

ーーまずはじめにKOBEワカモノ起業コミュニティについて教えてください。

織田 尭(以下、織田):神戸市が主催するKOBEワカモノ起業コミュニティは「起業家が身近なまち」を目指したコミュニティです。起業を目指すワカモノ(高校生・大学生・若手社会人)が起業を目指す場として、起業家との接続、インターンの提供、相談会やイベントの開催などを行っています。

このコミュニティでは、起業関心層や起業家のニーズから設計した自主企画も行いながら、神戸市内の起業家や民間企業、支援機関などを可視化し届けることによって、神戸市に住んでいるワカモノが街中にある支援にアクセスできるような仕組みを目指しています。

2年間の運営の結果、起業に関心のあるワカモノは400名以上*、実際に起業したワカモノは40名(個人事業主含む)に達しました。さらに50組織以上の機関と連携し、教育機関も含む多くの方々に支えられています。

*LINE登録者数(令和6年度2月時点)

 

ーーそもそも、神戸市が起業家支援に取り組んでいる背景には何があるのでしょうか。

織田:神戸市内ではスタートアップのエコシステム構築を目指すため、産官学連携のもと包括的な支援事業を行っています。起業家支援は、2015年に当時の神戸市長がサンフランシスコのシリコンバレーに行った際に、これからは新しいアイデアや技術を用いたイノベーティブなビジネスが加速するだろうと考え、始まった企画です。

ただその中でもKOBEワカモノは特殊で、スタートアップに限らず、起業したい若者、ソーシャルビジネス、NPOなど幅広い事業アイデアや、時には起業家や学生が「生き方」について考える機会なども支援しており、自分が進む道を探してもらう場でもあるのでキャリア教育的な文脈が入っているのが特徴的かなと思います。

 

ーーKOBEワカモノ起業コミュニティの運営を行っているW.incさんの事業内容について教えてください。

土井仁吾(以下、土井):Wはプロジェクトインキュベーターとして神戸市に根付いて活動しています。未来を創造したい人に寄り添い、日常のなかに「創造性」や「Well-being」を実装する事業や製品・サービス開発を支援している会社です。

KOBEワカモノ起業コミュニティではLINEやSlackの運用だけでなく、少人数での相談会の開催や大規模なイベント運営なども行っています。

最近では少なくとも1日に1件は全国各地の起業支援に関する情報を発信しています。

私たちWには起業家・学生・大企業出身者など、異なるバックグラウンドを持つコミュニティマネージャーが4名おり、起業に関心のあるワカモノの相談を受けていて、それぞれの多様な人脈を活用し、幅広い領域への接続や個別相談に対してフォローができる体制になっています。

Slackコミュニティの情報発信

 

ーーKOBEワカモノ起業コミュニティの中でtalikiはどのように関わっていますか?

宇都宮里実(以下、宇都宮):私たちtalikiはこれから事業を立ち上げたい方、アイデアを形にしたい方へ向けて事業づくりの実践プログラム「MAST-PJ(マストプロジェクト)」を運営しており、事業アイデアを持つ起業家が実際にアイデアを形にするための伴走支援や起業についてのナレッジを共有したりする場を提供しています。

実際の参加者は教育や観光、メンタルヘルスケアなど、自分自身の身近な課題に焦点を当て、課題解決に取り組みたい意欲的な学生さんが多いですね。他の人のアイデアも素直に応援できる優しい子たちが集まっていて、お互いに助け合い、共に高め合うコミュニティづくりをしています。

MAST-PJとは?

これから事業を立ち上げたい、挑戦したい高校生、大学生、若手社会人を対象とした、1ヶ月の支援プログラム。仲間たちとの毎週の進捗報告会の他、事業構築に関するインプットから、実践を支援するアフターフォローとして1on1の実施を行います。

HP:https://kobe-wakamono.info/mastpj

MAST-PJのようす

誰もが支援の声を上げやすいコミュニティ醸成

ーーKOBEワカモノ起業コミュニティが始まって2年目ということですが、2年間の変化について教えてください。

土井:KOBEワカモノ起業コミュニティは2年目に入り、口コミや紹介で輪を広げられています。今年は広報や集客にあまりコストをかけていませんでしたが、参加者からの口コミや民間企業・教育機関からの紹介によってコミュニティが広がっていく仕組みを作ることができました

 

ーーKOBEワカモノ起業コミュニティの認知度や信頼性がかなり高いことが広がりを生んでいるようですが、民間企業や教育機関と連携はどのように進めていますか?

織田行政が民間企業や教育機関との間に入ることで、信頼や安心感を持たせながら連携することができますね。例えば、高校や大学の時に起業を志す学生がいたとしても、直接先生がアプローチをすることは難しい場合があったり、学校の都合などで外部機関への直接紹介が難しい場合もあります。このようなケースにおいて、行政が介入することで教育機関と民間企業の連携を円滑に進めることができるんじゃないかなと思っています。

 

ーー行政がハブ的な役割を持って連携を進めているのですね。では、実際にKOBEワカモノ起業コミュニティを運営して、どのような成果を感じますか?

土井:私たちが日々一番近い距離で起業家と交流していて感じるのは、起業家が頼りやすい環境ができたことです。中にはMAST-PJに参加していることをアピールして、周囲に支援を求めている参加者がいたんですよ。実績や経験が無い状態でいきなり支援を求めることに対して心理的ハードルを感じる起業家もいるので、KOBEワカモノ起業コミュニティ(MAST-PJ)にいる誰もが支援の声を上げやすいコミュニティになってきていてとても嬉しいです

相談会のようす

 

同時に、支援者も起業家を応援しやすくなったと感じます。神戸に限らず、幅広い地域からKOBEワカモノ起業コミュニティに情報を流したい・伝えたいという方が多くいらっしゃり、支援者もうまくこのコミュニティを活用していることを感じました。

宇都宮:MAST-PJにおいても、仲間を応援し合えるコミュニティを密に作れてきているところもあり、過去の参加者ともSlackを活用しコミュニケーションをとっています。起業をするとかなりのプレッシャーがあったり上手くいかない不安は付きものだと思いますが、それを吐き出し、励まし合える居場所になっていると思います。

今関わっているMAST-PJの参加者に対しても、彼らがどのような道を選んだとしても関わり続けられるような関係性でいたいと思っています。

 

ーーKOBEワカモノ起業コミュニティを運営する中で感じる難しさや葛藤などはあるのでしょうか?

織田:大きく2つの課題があると考えています。

1つ目は大学の立地問題です。実は兵庫県は全国で4番目に大学数が多い都市でありながら、西に東に広がっているため1箇所に拠点を置くことができないのでなかなか場を作ることが難しいです。

2つ目は情報格差の問題で、大都市と比較して、地方では情報収集に差が生まれてしまっています。私たちは神戸市でも大都市と同じくらいの情報量を届けるだけでなく、神戸市だから起業したくなる情報やメリットも広く発信していきたいと考えています。

土井:コミュニティマネージャーの観点で言うと、起業関心層・準備層への支援は不確実要素が多いので悩ましいなと思います。

起業関心層・準備層はまだキャリアを十分に描ききれていなかったり、強い好奇心を持っていろんなことに挑戦している方も多いため、起業の軸を決め切れていない傾向があります。その状態で様々な支援者からアドバイスを受けると、情報の多さから取捨選択に悩んでしまうんですよね。

人生の軸を迷いながら進んでいく時期があってもいいのかもしれないですが、私たちは彼らが迷ってるときにどのように手を差し伸べることができるのか。なるべく多様な選択肢を提示しつつ、後戻りできるぐらいの余白を残した状態で幅広く支援することが求められてると感じます。

宇都宮:土井くんの悩みはすごくわかります。参加者の方と接していると「言われたことはちゃんと考えないと!」と、真摯に受け止めすぎて悩んでいる方も多い印象です。それは起業初期に通る道なのかもしれませんが、他者のアドバイスを受けると同時に自分自身と向き合う時間をとることも必要なことですし、支援者としてそれをちゃんと理解しないといけないなと思います。

織田:一度離れることもこのコミュニティの特徴のひとつとしてありますよね。一旦山篭りする人もいたり(笑)。どうやって自分が行くべき道を見つけてその方が動けたのかはまだわからないですが、どの道を選んでも帰ってこれる・帰りたくなる居場所作りは心がけていきたいです。

 

官民連携で目指す起業家支援のあり方

ーー起業家支援を行う上で、大切にすべき考え方はありますか?

宇都宮:KOBEワカモノ起業コミュニティの参加者層はキャリアにも迷いながら参加する起業家準備層・関心層を対象にしているため、事業検証を進めるためのアドバイスだけでなく、彼ら自身が自分の現状をどう捉えており、どう進んでいきたいのかについては立ち止まって問うように支援しています

私たちは選択肢を用意することができますが、与えられた選択肢から選ぶのは彼ら自身ですし、だからこそ、彼らの想いや考えに共感し、肯定することで後押しできるものもあるのではないかと思ってます。

織田:行政としても基本的には本人の意思や希望を尊重できるように支援しています。必ずしも神戸市で起業することを求めてはないですし、実際に起業した会社の企業形態もスタートアップだけでなく、NPOなど様々です。彼らが多様な選択肢を取れるように関わっていきたいと思っています。

ただ一方で、本人の声を尊重しすぎることに対しては難しさを感じています。市役所で働いている中でも市民の声と街にとって必要なことがずれているケースがあります。そこの見極めは難しく答えが出せない部分なので、その問いを常に持ちながら向き合っています。

また、税金を使った事業になるため既存でやっていることはちゃんと届けよう、ないものは新しく作ろうというスタンスで事業をやっています。また既存のものでも品質が低いというケースもありますが、それらを全て体験することができないがゆえに、本当に良い支援なのかどうかを判断することが難しいと感じております。だからこそたとえ似たような支援があったとしても、民間・行政問わずターゲットのニーズを満たせているかどうかは常に注視しています。

 

ーー行政と企業の連携において重要なことは何でしょう?

土井:公共事業だからこそ、地域住民の理解をいただく必要があると思っています。起業を支援することの意味を多様な方に寄り添った表現を使って伝えることで、行政と民間の連携がより進められると思います。

これまでの2年間、KOBEワカモノ起業コミュニティの裾野を広げるためにプログラミングやキャリアなど、起業に関するテーマを掲げイベント等を開催してきたのですが、実際にやってみるとこのコミュニティが始まる前には想像しなかった方々に共感を得ることが出来ました。例えば、起業家の事業テーマでイベントを行なった際に、関連の飲食店の方にご協力いただき、取り組みに共感を得ていただいたことなどがあります。多様な方に寄り添った表現を用いて起業家支援の意味を発信することで、予測できないステークホルダーが生まれ、新たな支援体制が築かれることを実感しました。

織田:行政の担当領域、行政と民間企業が連携して行うべき領域、そして民間企業が単独で進めるべき領域の線引きは時代の流れによって変化してきていると感じます。

事業が一定の段階に到達することによって、VCや銀行などから支援を受けることが可能ですが、そういった民間企業が支援しやすいフェーズまでを行政が伴走できるようにするのが理想です。

ただ行政も予算の制約があるので、どこまで支援するのかは行政と民間企業がお互いに歩み寄り、対話することが必要だと思います。

 

次世代に繋げるため、コミュニティのさらなる進化

ーー最後に、KOBEワカモノ起業コミュニティの今後の展望について教えてください。

土井:先程もあったように、口コミや紹介によって参加人数は増加しています。引き続きKOBEワカモノ起業コミュニティは広がり続けて欲しいです。

また、現在支援を受けている人は、将来的には当事者として支援する側(相談される側)にもなると思うんですよね。地域で気軽に相談できるようなロールモデルが次世代に生まれていくと嬉しいなと思います。

織田:今後は、支援の狭間にいる起業家をサポートしていきたいと考えています。現在は起業関心層・準備層を中心に支援していますが、MAST-PJを終えた後のフェーズ(事業構築)に進む起業家に対しても、行政がサポートしていきたいです。支援先との連携を強化しつつ、より多くの起業家が成功する手助けを行政が提供していくことが重要です。

また首長の変更などにより行政の予算は削減されることがあるので、KOBEワカモノ起業コミュニティもその影響を受ける可能性があります。そのためにも、私たち行政支援が担う割合を徐々に下げつつ、民間企業にバトンを渡すことで、持続的なコミュニティの仕組み作りを目指していきたいです。

宇都宮:お二人のおっしゃる内容はすごく共感します。また、他の視点でいうとコミュニティの持続性に関しては学生が主体となって運営を行えることがいいんじゃないかと思います。自分たちで必要なリソースを集めたり、繋がりの輪を広げたりしていくことでより密度の高い場を作っていけるんじゃないかと思っています。

起業初期フェーズの支援の難しさは前提でありつつも、行き届いてない課題解決に目を向けて、若者・起業家ファーストの支援を忘れずに、これからも必要な支援とは何かを考え続けたいですね。

 

まとめ

最後に、改めて「KOBEワカモノ起業コミュニティ」にはどんな魅力がありますか?

土井:行政が中心となって取り組んでいるからこその安心感があることが魅力だと思います。起業にチャレンジする若者が増えてきたと同時に支援する大人も増えてきましたが、大人全員が安心安全な支援をしてくれるとは限らない中で、行政がフィルターとなって信頼できる支援を提供できていると感じます。「迷子になったらとりあえずKOBEワカモノ起業コミュニティへ」と皆さんに伝えたいです。

織田:近年、学生時代から様々な経験や選択を広げられるようになった一方で、一つの組織で支援を完結することが難しくなったと思います。

だからこそ、行政が中心となって教育機関や民間等、他組織と連携し支援を届けられるのがこのKOBEワカモノ起業コミュニティだと感じています。

若いときから身の回りや住む街でアクションを起こし、学び、街が好きになり、例え仕事で市外に出ることになっても、また戻って来たいと思えるような環境を作り続けたいと思います。

 

KOBEワカモノ起業コミュニティ:https://kobe-wakamono.info/

 


 

執筆

桜木ひかる

人生の夏休みを謳歌中。福祉や教育の分野に関心を持ち、学びを深めている。

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