学びが自分の生きがいになる社会を目指して
「なりたい自分を見つけ、自己実現できる、一人一人にとって最高の機会を作り出す」というミッションのもと、オンライン教育サービスを展開する株式会社Mined。代表取締役の前田智大は高校まで日本で学んだ後、アメリカの大学に進学した経験から、日本とアメリカの教育の違いを肌で感じたという。日本の教育の課題へのアプローチ方法や将来の展望について話を聞いた。
【プロフィール】前田智大(まえだ ともひろ)
株式会社Mined代表取締役。灘中学・高校から米マサチューセッツ工科大学(MIT)に進学し、2018年にMIT工学部電子工学科、2020年MIT Media Lab 修士課程を卒業。光学とコンピューターサイエンスを組み合わせて、皮膚の下や曲がり角の先など、見えないものを見るテクノロジーの研究に励み、国際学会で最優秀論文賞を受賞する。2020年に帰国後、株式会社Minedを起業し、現在は小中学生を対象としたオンライン教育サービス『スコラボ』を開発・運営しながら、講師も務めている。
もくじ
学びたいものを学びたいときに自分で選択する
ー現在の事業について教えてください。
株式会社Minedは、子ども向けの少人数オンラインライブ授業のマーケットプレイス『スコラボ』を運営しています。
『スコラボ』は、子どもが自ら自分の興味のある授業を選んで受講することができるのが特徴です。また、授業では先生が一方的に話すのではなく、先生が生徒に常に質問を投げかけてくれる対話型の形式をとっています。そうすることで、子どもたちの興味がさらに深まり学びが好きになるような仕組みになっています。最終的には、私たちのサービスによって、子どもたちが自分の興味を見つけて、生きがいとなるキャリアを構築して欲しいと思っています。
また、現在は4550人の方にサービスにご登録いただいています。(2022年8月15日時点)
ー前田さんが感じられている日本の教育の課題について教えてください。
私は高校生まで日本におり、その後アメリカの大学に進学しました。そのため、日本の教育とアメリカの教育の両方を経験できて、だからこそ違いを感じることができました。
どちらの教育が良い・悪いというわけではなく、教育のどこにフォーカスを置いているかによって相性があると思っています。
日本の教育は、子どもたちに対して平等に扱うことを重要視しています。それは、福祉的な観点では優れているのですが、過剰になると画一的な教育になることが短所と言えます。
この教育形式では特に、子どもたちがやらなければいけないことが多いので、勉強の目的や意義を考える時間がとれないことが問題だと思っています。「なぜ自分は学ぶのか」「自分は何をしたいのか」「学んだ先に何があるのか」などを考えることは、本来主体的に学ぶために必要なのですが、日本の教育はそのような時間がとりづらく、学力は伸びても学ぶことに主体性を持ちにくい仕組みになっています。
一方で、アメリカの教育では福祉的な観点は重要視していません。その代わりに、主体性がある子どもが活躍できる仕組みになっています。エリート層の優秀な生徒ほど、どんどんと伸びていくため、その影響で上と下で学力にかなり差が出てしまいます。
現代は移り変わりの激しい時代なので、主体的に考えて取り組むトレーニングをしてこなかった人は活躍しにくい社会になっています。日本の教育はアメリカのように飛び抜けた人材が出にくいという課題があります。変化に柔軟に対応していくためには、これからはアメリカ式の教育も必要になるのではないかと考えています。
ースコラボでは授業1回ごとに料金が発生するような仕組みですが、そのような設定にした理由を教えてください。
私たちとしては、子どもたちにとって前向きな学習体験を作り出すためには、子どもたちが自分で学びたいものを学びたいときに選択することが大事だと思っています。スコラボは、子どもが自ら勉強するようになったり、生きるために役立つ力を子どもに身につけたりしてほしいと思っている保護者に対して、子どもの習い事の位置付けとして提案しています。
一般的に習い事の多くは月謝制ですが、この制度では子どもたちのやる気がなくなったとしてもなんとなく続けてしまう場合が多いです。ビジネスとしては収益をあげやすいというメリットはあるものの、子どもの学習意欲とビジネスとしての成功を同じ方向に向かせることが長期的に本質的な価値を生み出す上で大事だと思っています。
ースコラボらしい工夫はどのようなものがありますか?
スコラボの授業は、子どもたちに飽きずに集中してもらうために、「子どもたちが頭を動かす時間を増やす」ことを軸としています。例えば、授業中に先生が話し続けるのは5分以内にしたり、子どもにとって理解が難しい内容はあえて質問形式にして投げかけたりするように先生たちに伝えています。。話を聞く時間よりも自分で考える時間をできるだけ多くすることで子どもたちに深い理解を促しています。
ー1回完結型の授業であっても、子どもたちが継続して興味を探求し続けられるのはなぜでしょうか?
興味のある授業を受けられることが楽しくて継続してくれる子はもちろんいますが、スコラボに来てくれる子の中には、もともと何かに興味があってもそれを共有する人が周りにいないことで孤独感を感じていた子が多いんです。そういう子にとってスコラボは、自分と同じ興味を持った友達や先生と話すことでお互いの考えていることを共有できる場になります。そして「興味があることにもっと取り組んで良いんだ」と、興味を持っていること自体に自信を持てるので、スコラボに関わり続けてくれるのだと思います。
授業によって見えていなかった子どもの側面が引き出される
ースコラボで働く先生はどのように選ばれているのでしょうか?
現状は私たちが面談を行なって判断するようにしています。その際に重要視していることは2点あります。
まず、子どもたちから疑問を投げかけられたときにきちんと対応できるかという点です。生徒の質問に対して専門的な知識を持っているだけではなく、知識の面白い切り口を持っていてそれを共有できるというスキルも求めています。答えを知らなかったとしても「先生だったらこう考える」というその人なりの考え方を子どもたちと共有できるかどうかが重要だと思っています。
もう1つは、対話ができるかという点です。単に子どもたちとコミュニケーションが取れるということだけでなく、子どもたちに対して好奇心を持とうとしているかを見ています。例えば、自分が教えたいと思うものを教えるだけではなく、「子どもが何を考えているのか」を意識しながら子どもたちの反応に対してきちんと興味を持って、それに従って柔軟に授業のやり方を変えていくことができるのはすごく重要です。
ースコラボとして、授業を作るときに先生たちに指示していることや大事にしていることはありますか?
授業のやり方は基本的には先生たちに任せています。
ただ、スコラボとしては先生たちに、自分たちが受けてきた教育方法のアンラーニング*していただくことを意識してサポートしています。従来のオンライン授業に比べてスコラボは生徒を少人数にしているため、子どもたちと頻繁にコミュニケーションを取りながら授業を行なう必要があります。しかし教える側の先生たちは同じ教育方法を受けてきたわけではないため、自分が子どもたちに新しい学習方法をどのように教えるべきかを考えながら、試行錯誤を繰り返してどんどん実験をしてほしいと思います。
*学習棄却ともよばれ、持てる知識・スキルのレパートリーのうち有効でなくなったものを捨て、代わりに新しい知識・スキルを取り込むことを指す
ー科学系の授業が人気があるとお聞きしましたが、開講する分野に偏りがないようにするための工夫や意図していることはありますか?
実は、スコラボで扱う授業の分野は意図的に偏りが出るようにしているんです。なぜかというと、初期段階でリードしていかなければ冷めてしまうのがマーケットプレイスなので、初期ユーザーの熱量を高めていくために、コンテンツは子どもたちが興味のある分野にできるだけ絞っています。
ー授業を持つ先生たちに対して何かサポートはあるのでしょうか?
先生たちのコミュニティをSlackで作っていて、先生同士が授業をするときに悩んでいることや困っていること、上手くいった工夫などを共有しています。先生同士がお互いの知識や経験を共有できるようなコミュニティを提供することで先生たちをサポートできればと思っています。
ースコラボで働く先生からはどのような声があるのでしょうか?
スコラボを利用する子どもたちやその保護者からレビューがくることが嬉しいというのはよく聞きますね。自分が行なった授業によって、親が知らなかった子どもの側面が引き出されたことにやりがいを感じる先生もいます。
また、授業をすることが先生側の学びにもなるという声もよく聞きます。子どもの意外な質問から、自分で考えるきっかけが生まれたり、小学生に分かるように説明するために、言葉を噛み砕いたり削ぎ落としていく中で、知識の理解度が上がったりすることもあるみたいです。
スコラボに来れば自分の仲間がいると思える
ー利用者はどのような方が、どのようなタイミングで利用するのでしょうか?
まず、実際にスコラボのサービスを利用するのは小・中学生なので、利用してもらえる最初のきっかけは保護者になります。
自分の子どもが、小学校や塾で教わらないようなことにせっかく興味が芽生えたのに、自分が教えることができない。そのせいで子どもの興味が失われていくことに機会損失のリスクを感じてしまう保護者の方が多いんですね。
そこに対して、スコラボに来れば、興味のあることについて教えてくれる人がいますし、興味がある分野のロールモデルとなる人と出会うことができるので、子どもにも勧めてみようと思ってくださるようです。
また、スコラボをある程度継続的に使っていくと、スコラボに行けば自分が楽しいと思えるものがたくさんあると認識するようになります。だから、自分から面白そうだと思った授業を時間が合えば受けてみるというふうに、主体性を持って自分が学びたいタイミングで利用する子が多いです。
ー利用者の共通点や特徴はあるのでしょうか?
利用者には、受験を控えている子も不登校の子もいますし、子どもたちの状況や取り巻く環境などに偏った印象はありません。
明確な共通点としては「好奇心が強い」ことです。スコラボの授業は興味を深く探求するような内容にしていることもあり、さらに分野も絞っているので、好奇心が強い子が集まる傾向があります。
また、スコラボを楽しみにしてくれている子が多いです。例えば、小学6年生の子が、受験が終わったら好きなだけスコラボを受けていいと親から言われてすごく喜んだという話を聞きました。その子はもともと自分の興味があることや勉強にも熱心な子で、塾の宿題を早めに終わらせて授業を受けるくらいスコラボが楽しかったみたいです。
ー利用者からの声で印象的だったものはありますか?
スコラボを通して保護者が子どもの知らなかった側面を見ることができたというのは私としてもすごくエモいです(笑)。
日本では、画一的な教育によって子どもの個性が見えなくなっていることがかなりあると思うんです。子どもの個性が見えないことによって保護者も不安を抱きますし、子ども本人の自信の喪失にもつながってしまう可能性があります。
今まで見えなかった子どもの良さが見えることで、子どもにとって自信を持つきっかけになりますし、保護者も子どもに対して1人のユニークな人間としてリスペクトすることができます。そうすることで、今までよりも立体的な側面から子どもと話す機会ができると思いますし、そのような話を聞くとすごく嬉しいですね。
自分がやっていることに納得感を持って動けているかどうか
ー今後スコラボは、教育業界の中でどのようなポジションをとっていきたいですか?
最終的には、社会の中で学びのデフォルトの場となるプラットフォームにしたいと考えています。学びのデフォルトとなるプラットフォームとはどんなものになるのかについては、今の教育を全て壊して更地にしたときに、どんな教育を作ることができるのかを考えると面白いなと思っています。そもそも教育体験というものは、社会で生きていくために必要な力を身につけることと、自己実現をすることの2つの役割があります。その役割のうち、特に自己実現は今の日本の公教育が担わなくてもいいのではないかと思っています。
例えば、小学生が将来デジタルマーケティングの仕事がしたいと思ったときに、大学に行ってから学び始めるのではなく、小学生から学んで、中学生のうちに実践してみるような世界線もありだと思うんです。そのような世界線では学びが自分の生きがいに直結しています。そして、その世界線を実現するためには、子どもが自分にとって必要だと思える教育機会にどれだけ簡単に辿り着けるかが重要だと思っています。
私たちがその子にとって一番良いであろう学習体験を提示することで、子どもたちが自分がやりたいことを発見し、やり続けられるようにしたいです。さらに、それが子どもたちにとっての生きがいやキャリアにつながれば嬉しいと思っています。だから、その子にとってのベストな学習体験を届けられるように、子どものあらゆる学習体験に私たちが寄り添えるようになることが理想ですね。
ー今後の展開について教えてください。
スコラボのコンテンツについては、興味を持ったことを継続できてそれがスキルに転換されるような授業を展開したいです。今はまだ単発の授業が多いので、次の段階として、授業を受けてからもっと探求したいけど何をすればいいかわからないときに継続して受けられるような授業を作っていきたいです。
会社としては、最終的には学習の機会を幅広い層に提供できればと思っています。社会人の方には、なんとなくモチベーションはあっても1人でコツコツ勉強できないという人もたくさんいると思っています。そのような人たちが、コミュニティを通してインスピレーションを受けて前向きに学んでいくことができる場を作っていきたいです。子どもたちに限らず社会全体で、学習のニーズとそれに答えられる教育コンテンツのサプライをマッチさせたものを作ることができればと思っています。
ー最後に、事業を通して日本社会に対してどのようなインパクトを残したいですか?
まず、本当にやりたいことをやってそれがきちんと生活につながっているという人を増やしたいです。
変化の速い時代に、自分のやりたいことをきちんと持って主体的に動ける人が増えることによって、日本全体で底上げができ、社会全体の変化が起きるのではないかと思っています。日本は人口も減少していよいよと言われている中で、教育はものすごくレバレッジの効いたリソースの使い方だと思います。だから、そこにきちんと注力していくことで社会全体が幸せになると信じています。
また、私がすごく大事だと思っているのは、「やっていることに納得感を持って動けているかどうか」です。別にやりたくないことをやっていても良いと思っていて、でもそこに納得感があるかどうかが重要だと思っています。
最終的には「やりたいこと」と「やりたくないこと」を混ぜ合わせながら生きていくことが、私も含め多くの人の生き方になると思っています。自分で「やりたいこと」と「やりたくないこと」が見えていて、そのバランスに納得することで充実した状態であり続けられるのではないかと思っています。
株式会社Mined https://mined.jp
interviewer
堂前ひいな
心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。
writer
梅田郁美
和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
猫になりたい。
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