「ちょっとしたこと」で貢献できる、起業でも寄付でもない新しいソーシャルビジネスの関わり方
インタビュー

「ちょっとしたこと」で貢献できる、起業でも寄付でもない新しいソーシャルビジネスの関わり方

2022-05-21
#場づくり

自分ができるちょっとしたことで、ソーシャルビジネスに参画できるコミュニティ『コラボワーク』を運営している株式会社ヒトコト代表の小南優作。社会や人に貢献することが日々の充実感や人生の満足度を高めると語っており、「ちょっとしたこと」でも社会課題解決に関われる機会をコラボワークで提供している。コラボワークのコミュニティの様子や、サービス作りの考え方について聞いた。

【プロフィール】小南 優作(こみなみ ゆうさく)

新卒でリクルートに入社し、新卒/中途の求人媒体営業に2年間従事。福岡の広告代理店に転職後、約6年間で営業・マネジメント・事業立ち上げ支援等を行なう。2016年に独立し、株式会社ヒトコトを設立。収益事業として受託事業を行ないつつ、これまで『LOOKME』や『cocan』などのサービスを展開。現在は自分ができるちょっとしたことでソーシャルビジネスに参画できるコミュニティ『コラボワーク』を運営。

人との出会いで人生が好転する場面を作りたい

ー現在の事業概要を教えてください。

収益の柱として行なっているのは、広告代理店業務や経営コンサルティング業務です。他に、自分ができるちょっとしたことでソーシャルビジネスに参画できるコミュニティ『コラボワーク』を運営しています。コラボワークはマネタイズしておらず、本業とは別で活動しています。これまでも、本業とは別枠で『LOOKME』や『cocan』といったサービスを展開してきました。

 

ー『LOOKME』や『cocan』はどういったサービスだったのでしょうか?

LOOKMEは、取材したい人と取材されたい人のマッチングサービスです。何かのマッチングサービスをやりたいと考えていたとき、たまたま「取材に関するマッチングサービスがあったらいい」というツイートにたくさんの共感が集まっているのを見ました。僕自身も必要性を感じていたので、そのツイートに反応していた人たちと一緒に始めました。cocanは、お金を介さずできることを交換しあえるWebサービスです。飲食店とライターの交換例をあげると、飲食店がライターにランチを届けて、ライターはお金を払う代わりに飲食店のPR記事を書くことで、お互いの「できること」の交換が成立します。コロナの影響で仕事が減ってしまい、時間を持て余すうえに出費はしづらい時期がありました。当時僕と同じように厳しい状況にある人は多かったので、あえてお金を介さずに「できること」が流通する世界があったら面白いなと考えたのがきっかけで作ったサービスです。

 

ー「ヒトとコトの橋渡し」をコンセプトに、自社事業とは別にサービスを展開するようになった経緯をお伺いしたいです。

創業以前に通販事業立ち上げ支援をやっていたのですが、事業立ち上げ支援って支援領域がすごく広いんですよね。商品のデザインや各オペレーションの決定、法務面のチェックなど多岐に渡ります。メンバーが固定のチームではすべての案件にベストな支援をするのが難しいなと感じていました。だから独立後は、都度案件に合わせた各方面のプロフェッショナルでチームを組んで、案件が終われば解散する形にしていました。そのような流動的組織で仕事をしていると、人との出会いが人生に与えるインパクトの大きさをすごく実感します。誰かとの出会いによって人生が好転することってあると思うので、そういうシーンをたくさん作れたらいいなという個人的な興味がありました。だから、マッチングやコミュニティといった領域で、自社事業とは別に自分がほしいと思ったサービスを展開するようになりました。

 

企業・団体と個人が交わる新しいコミュニティの形

ー現在展開されているサービス『コラボワーク』はどのように着想を得たのでしょうか?

cocanをやっていたころ、「金銭的な報酬が伴わなくても、自分が好きなことや得意なことで誰かに貢献すること自体が幸せな体験である」と実感しました。当時300名くらいの方にできることを出品していただいていたんですけど、皆さん何かを提供する代わりに何かを得たいというよりも、自分ができることを提供することにモチベーションを感じていらっしゃったんですよね。ただ、全体的に2〜3回交換したらやめてしまう傾向があって、継続性や拡大性がありませんでした。もっと継続的に自分のできることを活かせたり、感謝されたりする場所があったらいいなと思ったことがコラボワークの着想のきっかけでした。コラボワークにはソーシャルビジネスをやっている企業やNPO法人などの団体と、ソーシャルビジネスを応援したい個人が参加していて、コミュニティ内でさまざまな関わりが生まれています。

 

ーどのような企業や団体が参加しているのでしょうか?また、コラボワークに何を求めて参加しているのか教えてください。

虐待問題をビジネスで解決する企業さんや、環境問題を軸に代替肉の大豆ミートを販売されている企業さんなどのソーシャルビジネス企業のほか、僕のように自社事業とは別に教育系のソーシャルアクションを取られている企業さんなどさまざまですね。この通り、ソーシャルビジネスに限らずソーシャルアクションを取っている方でも参加可能ですし、株式会社だけでなくNPO法人もいます。社会課題に取り組んでいる企業や団体であれば参加可能です。

また、皆さんには「コラボワークに参加することで味方が増えるといいよね」と話しています。自分たちの活動を加速させていくためには、ファンコミュニティを作って味方を増やしていくことが大事だと思っていますが、味方を増やすということを単体の企業・団体だけでやるのはけっこう難しいと思うんです。コミュニティの場所を作って運営して、コンテンツを発表するといった過程は手間もかかるしノウハウも必要ですよね。でもコラボワークはコミュニティの土台ができているので、いち企業・団体のリスクや負担が軽減されるだけでなく得られるものも大きい、とお話しています。

参加企業・団体の皆さま(一部)左上から時計順に、NOWMO 中野修二さん、

(株)SHIRO 南翔伍さん、(合)Ledesone Tenさん、Renovate Japan LLC 甲斐 隆之さん

 

ーソーシャルビジネスを応援したい個人についても、属性や求めていることを教えてください。

属性は本当にバラバラですが、わかりやすいところで言うとソーシャルビジネスを展開している企業の社員さんや、一般企業のCSR担当の方など、普段から社会課題に関わっている方がいらっしゃいます。一方で、全然関係のないお仕事をされている経営者や会社員、フリーランスの方などもいますね。現在は約80名の方が参加してくださっていて、ご紹介がきっかけでコラボワークを知っていただくことが多いです。

応援したい人の参加ニーズは仮説ベースですが3つあると思っています。関わり方がライトな順番で言うと、ソーシャルビジネスの活動の裏側が覗ける、「閲覧」を目的にしているのが1つ。次に、自分のできるちょっとしたことでソーシャルビジネスに参加できるのが2つ目。最も濃度が高いのが、プロボノやメンバーとして参画できる先を探しているなどの一緒に働きたいニーズです。割合的には1つ目、2つ目のニーズが多いですね。

 

ー企業・団体と応援したい人は具体的にどのような関わり方があるのでしょうか?

けっこう多岐に渡ります。誰かがリリースした企画の拡散やアンケート協力などのスポット支援もあれば、継続的にプロジェクトを一緒に進めるパートナーのような関わり方もあります。

ちょっとしたことでできる関わり方で言えば、時間的なコミットは週1時間程度で、プロジェクトで1つの役割を持つパターンが多いですね。過去の例をあげると、ある人がプロジェクトを立ち上げて隔週でイベントを行ない、イベント企画担当や広報として個人の方が参画していました。メンバーとしてがっつりコミットするわけではないけど、イラスト納品や30分の事業アドバイスなどのスポット支援よりは継続性がある関わり方をしています。

 

ー自分ができるちょっとしたことで参画できる価値について小南さんはどのように捉えていますか?

最近は、世の中でもソーシャルビジネスやソーシャルアクションに対する興味関心が高まっていますが、ちょっとしたことで関われる場面がないなと思っています。僕自身も、30代になって生活面でのさまざまな変化から、対クライアントだけでなくもっと広い範囲で社会に対して貢献したいと思うようになりました。でも時間的な制約もあるし、自分が社会起業家になるのは現実的ではない。それ以外では寄付もあるけど、もう半歩踏み込んでソーシャルビジネスに関われる場所がそもそもあまりないと思うんです。「自分の力量を試すため」とか「ポートフォリオのため」など利己的な理由だけではなく、ソーシャルビジネスに関わることで社会に貢献したいという純粋な気持ちを行動に移せる機会があることが価値だと思います。

 

ー今後、コミュニティとしてどんな形にしていきたいですか?

今考えているのは2つあります。1つは、コミュニティ内の交流で発生したナレッジをデータベース化して誰でも閲覧できるようにすることです。例えば、誰かがPRについて得意な人に相談したら、相談した人の悩みは解決されるけどそれだけで終わってしまうんですよね。そのアドバイス内容がアーカイブされていれば同じ課題感を持つ人の役に立つこともできると思うので、ナレッジのデータベース化は取り組んでいきたいです。もう1つが、ソーシャルビジネスのフランチャイズ化です。社会課題解決にちょっとしたことで関われる仕組みを社会に実装できたらいいなと、まだ妄想レベルですが考えています。何かの社会課題に関心があるとき、起業せずともすでにその課題に取り組んでいる方の横展開の担い手になることも立派な課題解決のアプローチだと思うんです。だから、コラボワークの仕組みや概念をフランチャイズ的に広げていきたいなと思います。

コラボワーク イメージイラスト

 

「収益を生むこと」と「事業の良し悪し」は別の話

ーこれまでさまざまなサービスを展開されていますが、どのようにアイデアを考えているのでしょうか?

僕の場合は、基本的に自分が欲しいと思っているものを作っています。その上で、もともとやっていたサービスから着想を得ることが多いですね。cocanからコラボワークの着想を得た話をしましたが、cocanもその前にやっていたLOOKMEで感じたことがきっかけになって生まれました。当時、僕は承認欲求が強く、もっと多くの人に注目されたいという気持ちがありました。でも、LOOKMEのリリース後、認知度が上がったり有名な起業家の方と交流が生まれたりしたのですが、あまり満たされなかったんです。そこから自分の中で他者承認ではなく自己実現がテーマになり、何かを提供する側が満たされるサービスを作りたいと思うようになりました。そのきっかけに加えコロナ禍で仕事が減ったことも影響して、お金を介さない「できること」の流通サービス、cocanを作りました。

 

ーLOOKMEやcocanは結果的にクローズしていますが、どの段階でクローズを判断するのでしょうか?

自分の中で続けることが目的化してしまっていると感じ始めたらやめようという感覚です。誰のためにもなっていないとか、始めたからには続けなければと思うようになったら潮時だと思っています。

 

ーサービス作りで課題に感じているのはどういうことが多いですか?

僕の課題としてよくあるのが、「これあったらいいよね」という解決策から先に考えて、「なぜならこんな課題がありそうだから」と課題を後付けしてしまうことです。課題の深堀りをせずに手段を作ってしまっていたので、課題があって解決策を考えるという順番はしっかり踏まなければいけないと思いますね。

 

ー自社事業を持ちつつ、マネタイズをしないサービスを展開する意図を伺いたいです。

あくまで持論ですが、お金は続けていくための手段に過ぎないと思っています。やりたいことを実現するまで続けられればマネタイズは絶対条件ではないという考えなんです。また、収益を生んでいるから良い事業かどうかは全く別な話だと思っていて、逆もしかりで収益を生んでないから駄目ということもない。そして、前提として僕は受託事業を本業で持っていて会社の収益は確保できています。だから、自分がほしいと思ったサービスはあまりマネタイズには囚われず、人と人を繋げたり、誰かの活動を加速させたりすることに徹していきたいなと思っています。

 

人の役に立っている実感をより多く持てる社会に

ーこれから実現していきたい社会の状態や、実現するために会社もしくは個人でやっていきたいことを教えてください。

端的に表現することは難しいのですが、人により広く、深く貢献できることは人生に大きな満足度を与えると思うんですよね。コロナで仕事が減ったとき、金銭的にきつかったというよりも社会との接点が希薄になったり、何か人に貢献する機会や感謝の言葉をもらえる機会が減ったりしたことのほうがショックでした。金銭的な余裕が伴うことも大事ですが、それに限らず人の役に立っていると実感できる場面がもっと増えていけば、きっと人生は豊かになると思うし、結果いろいろな社会課題の解決に繋がるのではないかと思うので、今後もそういう機会をたくさん作っていきたいです。

コラボワーク https://note.com/sogu1/n/n9f4107367803

 

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    interviewer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

     

    writer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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