夫婦間のコミュニケーションにそっと寄り添う。妊活・妊娠アプリが多くのユーザーに愛されるワケ
日本だけでなく、韓国や台湾でも人気の妊娠アプリを手がける、アマネファクトリー。メンバーそれぞれの生活の中にある気づきからサービスを作り、ユーザーにとことん寄り添いながらサービスを育てる。そのこだわりについて聞いた。
【プロフィール】齊藤 慶武(さいとう よしたけ)
アマネファクトリー株式会社代表取締役。エンジニアとして受託ビジネスを経験後、2014年に起業。「人生の大切なイベントをより楽しく、幸せに。」をコンセプトに、ヒト・モノ・コトのつながりに焦点を当てたサービス開発を行っている。
もくじ
妊活・妊娠中のコミュニケーションをサポート
—どのような背景で事業を立ち上げられたのでしょうか?
以前はエンジニアとして「お客様の要望に沿ったプロダクトを作る」ということを20年近く続けてきました。その中で「そろそろ自分の視点で人の役に立つものを作ってみたい」という思いが強くなり、アマネファクトリーを創業しました。せっかく独立したのだから、自分の思うがままにやりたい。そのため、自分とデザイナーの谷本という必要最小限のメンバーで会社をスタートしました。
-現在の事業について教えてください。
弊社で手がけているサービスは、妊活サポートと妊娠サポートの大きくわけて2つです。妊活サポートのアプリとしては、「コウノトリ」と「コノトキ」があります。この2つは「カップルの妊娠に向けたタイミング合わせをサポートする」という同一コンセプトで作られています。女性が生理情報を登録すると自動で妊娠しやすい日を予測し、それを女性・男性の両方に通知するというのが主な機能です。「コウノトリ」は生理管理でのタイミング合わせに焦点を当てた簡易版、「コノトキ」は詳細な基礎体温管理や通院、服薬などの不妊治療管理もできる高機能版となっています。現在は2つのユーザーを合わせると月間約15万人のユーザーに利用されています。
妊娠サポートとしては、「トツキトオカ」があります。こちらはお腹の中の赤ちゃんの成長がイラストで表示され、妊娠期間の体調や思い出を夫婦で記録・共有できるアプリです。トツキトオカは、総ダウンロード数750万超、月間約125万人のユーザーが利用する、日本の妊婦さんの2人に1人が利用していると言える弊社の主力サービスです。トツキトオカに記録した、妊娠記録や産後記録を本にする「トツキトオカブック」サービスも合わせて行っています。
—どのようにサービスの着想を得たのでしょうか?
創業時は、僕も谷本もそれぞれの家庭で小さな子供を育てている時期でした。2人の共通の話題は、子供の話が多かったと思います。妊活・妊娠を経て、少し落ち着いてその時のことを振り返ってみると、妊活・妊娠中は悩みを抱え込み、孤独を感じやすい時期なのに、手軽に頼れるようなサービスが無いことに気がつきました。そこで、妊活・妊娠の最小限のつながり=夫婦とし、このつながりをサポートするサービスを作ろうと着想しました。「コウノトリ」「コノトキ」は、妊娠しやすい日に夫婦でタイミングを合わせる必要がありますが、夫婦の時間と心を妊娠しやすいタイミングに合わせていくことは妊活が長くなるほど難しくなります。僕たちはここに注目し、「夫婦(カップル)の妊娠に向けたタイミング合わせ」をサポートすることが少しでも多くの命の芽生えに繋がると考えています。
妊娠は幸せな時期ですが、特に初めて妊娠した夫婦にとっては、知らないことだらけ。知らないということが不安につながることがあります。今、お腹の赤ちゃんはどうなっているのかな?こんなに具合が悪くて大丈夫なのかな?そんな毎日の疑問にいつも応えてくれるサービスがあれば妊娠期間をもっと楽しく過ごせる。その思いから「トツキトオカ」を着想しました。僕は、妊娠中に妻がどういう状態だったのか、正直何も知らなかった。子どもが生まれるまでほとんど実感が湧かなかった。その経験から、男性が妊娠を理解するツールが必要だと思いました。「トツキトオカ」に触れてもらうことで、男性側にも妊娠期から父性を育んでほしいなと思っています。
—サービス設計におけるこだわりはどんなところですか?
サービスの柱は、「妊活・妊娠期間における夫婦間のコミュニケーションをサポートする」ということです。僕たちは「ユーザーに介入しすぎない」ということを大切にしていて、それぞれのユーザーが僕たちのサービスを日常の中で自然に使えることを目指しています。
妊活アプリや妊娠アプリは女性をターゲットにしたものが多い中で、僕たちの妊活アプリは、男性も女性も違和感なく使えるようなデザインになっています。その上で、ホルモンの周期的な変化や妊娠による体の変化がある女性側には体調記録などの細かな記録管理機能を持たせています。それに対して、男性側にはあえて機能をあまり持たせず、シンプルな作りにし、女性パートナーの体や心情の変化を理解することに焦点を当てた作りにしています。また、他の妊活・妊娠アプリに比べて記事が少ないことが特徴で、男性側に至っては読み物はほとんどありません。男性に妊活・妊娠への参画を押し付けすぎたり、逆に女性のプレッシャーになったりすることがないように、男性・女性それぞれが負担を感じないような設計を意識しています。ただ、このアプリを作り始めて6年ほど経ち、時代が変化していることもあって、男性側からもう少し介入したいという要望も増えてきました。それに合わせ、今は少しずつ男性側にも機能を増やしている状況です。
「ユーザーの声を拾う」の積み重ね
—ユーザーからはどのような声が届きますか?
コノトキについて一番多い声が「見やすい」というものです。「このアプリは妊活をしていた人が作ってくれたものだね」という声が非常に多く、それが結果的に「見やすい」に繋がっているようです。例えば、生理開始日から今日が何日目なのかをカレンダーでいちいち数えるのが面倒だという経験から、アプリでそれを自動的にカウント表示するようにしています。基礎体温も妊娠の兆候が見られた時の体温変化と重ねて、今周期はどのように妊活に取り組むかを考えたいというニーズから、過去の周期と重ねて基礎体温の変位を見ることができます。このように実際の経験をサービスの細かい工夫に落とし込んだことを、評価いただいています。トツキトオカに関しては、「新しい命を育てる喜びがそのままアプリに投影されていて幸せだった」、「赤ちゃんが成長していく姿がイラストで見られて励まされた」、「夫も成長している赤ちゃんのイラストを見ることで愛着が沸いてきたのか、今まで以上に気遣ってくれるようになった」などの声が届いています。僕たちは、派手なことはしないけれど、小さなきっかけや声を必ず拾ってできるだけ実現するということをやっています。お問合せ、アプリレビュー、SNSの反応を毎日見て、「あったらいいな」という声をどんどん取り入れるようにしています。地味な作業ですが、このような積み重ねが高い評価に繋がっていると感じています。
—アプリのユーザーは課金せずに利用できますよね。どのようにマネタイズされているのでしょうか?
現状は広告が主体です。妊娠期にアプローチしたい企業が多く存在しているので、そのような企業からの純広告が多いということが現在の特徴です。現状は主に広告で収入を得ていますが、僕たちはあくまでもユーザーが毎日使うツールとしてのサービスにしたいと思っているので、最終的には「トツキトオカブック」など物販に繋げてマネタイズしていきたいと考えています。
実はアマネファクトリーのサービスは、海外でも多く使っていただいています。韓国では8割の妊婦さんがトツキトオカを使っています。今の日本では多くても年間約100万人しか赤ちゃんが生まれないので、100%の妊婦さんが「トツキトオカ」を使ったとしても、ユーザーは100万人。それでは少ないと思い、サービス開発時から海外もターゲットに入れ、韓国語、中国語、英語、インドネシア語など他言語での開発を行っています。アプリ上で表示される広告を少なくしても、ユーザーが多いことで収益を立てることができるモデルになっています。
—どのような経緯でここまで多くのユーザーが利用するようになったのでしょうか?
僕たちはお金を使ってのプロモーションというのは、一回もしたことがありません。ただ、例えば「トツキトオカ」では赤ちゃんの画像をSNSにシェアすることができる、などの仕組みがあり、そこから口コミでの広がりに期待しました。ただ、あくまでも拡散のために用意した機能ではなく、お腹の赤ちゃんだって記念撮影したいよね!という気持ちから作りました。自分たちが楽しく作って、きっとユーザーにも楽しんでもらえるんじゃないかということに主眼を置いていたら、ユーザーがついてきてくれました。
作り手が作りたいものを作れる環境づくり
—組織の運営や経営におけるこだわりを教えてください。
現在は、ものづくりをする側が良い環境で作れる、作りたいものを作れる、思いを込めてユーザーに届けられるという環境作りに重きを置いて、経営を行っています。外部からお金を入れて大きく広げるという選択肢もありますが、人やお金が増えるほど作るものがぶれてしまうリスクもあると思っています。僕たちは、自分たちがこれだと思えるものを、ユーザーの声を聞きながら地道に作っていくということを、これからも続けていきたいです。
—齊藤さんと谷本さんは共同創業者のようだと感じました。どのように役割分担されているのですか?
谷本はアイデアをとにかくたくさん出すのが得意で、それを仕組みにしたり、どうやってマネタイズするか考えたりするのが僕の役割です。たまたま2人の思想が似ていることもあり、ぶつかることはそんなにありません。僕はアイデアを育てることが大切だと考えているので、反対することはほとんどなく、谷本だけではなく、アイデアを持つクリエイターがやりたいようにできるチーム作りをしています。アマネファクトリーの一番新しいサービスは、フロントエンジニアの着想によるペットのお世話を家族で共有するサービスです。メンバー個々の生活の中に生まれる個人的な気づきをチームの力でサービス化しています。
人生における様々なイベントに寄り添う
—今後の事業展開を教えてください。
妊活、妊娠ときたので、次は子育てかなと誰もが思いますが、なかなかの激戦区なので、僕たちのやり方でやれることが何かというのは今悩んでいるところです。妊活、妊娠、子育て、その後も入学や受験など、人生におけるイベントはたくさんあります。家族は人だけとも限らない。様々な家族とそのタイミングごとに合わせて寄り添えるものを作っていきたいと思っています。
—事業を通してどのような社会にしたいですか?
少子化が叫ばれる社会で、僕たちが作るものが少しでも社会を良くすることに貢献できたらいいなと思っています。一方で、実際に社会を変えるには女性の働く環境などより大きな要因にアプローチする必要があると思っています。働く男性が育休を取ることへの抵抗はまだまだ大きいですし、女性が産休・育休後に妊娠前と同じように働くことが保証されているかというと、未だ現実的に難しい。会社としてしっかりと利益をあげながら、社員が働きやすく子育てしやすい環境を実現する。まずは会社として大きくなり、そのモデルケースを目指していきます。
アマネファクトリー株式会社 https://www.amanefactory.co.jp/index.html.ja
コノトキ https://www.konotoki-apps.com/
トツキトオカ https://www.totsukitoka-apps.com/
interviewer
掛川悠矢
メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。
writer
堂前ひいな
幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。
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