マイボトルの中身だけを購入できるサービス。四方よしの仕組みでプラ問題に挑む
インタビュー

マイボトルの中身だけを購入できるサービス。四方よしの仕組みでプラ問題に挑む

2020-10-16
#環境

国内外で様々な事業に携わってきた飯田百合子は、常に環境とビジネスの両立を目指してきた。そんな彼女が2018年8月に始めたのが、マイボトルの中身だけを購入することができるサービスBOTLTO(ボトルト)だ。ユーザー・店舗・地域・そして環境の四方よしのビジネスモデルや、環境問題に対する想いを聞いた。

【プロフィール】飯田 百合子(いいだ ゆりこ)
BOTLTO株式会社 CEO。日本航空外国人乗員コーディネータ、ディズニー建設プロジェクトでの国際業務スペシャリスト、同時通訳を経て国際ビジネスサポート会社を起業。コンサルタントとして国内外大手グローバル企業への専門人材派遣ビジネスサービス立上げのほか、日系大手IT企業の海外新規事業開発、米国やマレーシア企業の日本進出を成功させる。海外での再生可能エネルギープロジェクト、飲料水サービス事業にも参画。

「マイボトル運動」の先をいく「リフィル習慣」とは

ー現在の事業について教えてください。

いつものライフスタイルでプラスチックが自然と減っていく社会を目指し、ドリンク専用の事前決済サービスBOTLTOを運営しています。私たちは、「マイボトル運動」の先をいく「リフィル(中身だけ買う)習慣」を提案していて、BOTLTOでは中身の飲料だけを、街中のお店で買うことができます。使い方も簡単で、ユーザーはアプリ内で飲みたいものを選び、決済まで行います。あとはマイボトルを持って店舗に行き、商品を受け取るだけです。BOTLTOを使っていただくと、どれだけのプラスチックを削減することができたかを、ユーザーもお店の方もアプリ内で確認することができます。サービスのリリース時から多くの方に賛同いただき、現在の登録店舗は40軒ほど、登録ユーザー数は3,000人を超えました。

 

ーマイボトルの中身だけ購入したいというニーズがあったんですね。

そうですね。環境問題への意識から、わたしも元々マイボトルを持ち歩いていたのですが、飲み物を飲み切ると、コンビニや自動販売機でペットボトル飲料を購入して詰め替えていました。ごみを出さないようにするためにマイボトルを持って行くのに、結局ペットボトルを購入して捨てている状況にジレンマを感じていたんです。同じように感じていた方から「こういうサービスがあるといいなと思っていました」とお声がけいただくことが多いです。

また、環境問題の観点からマイボトルを持ち歩いていた方だけでなく、例えば小さなお子さんがいる親御さんからは、「BOTLTOだとお湯も購入できるので、出先で子どものミルクを作りたい時に重宝している」と教えていただいたり、「公園の水飲み場は誰が飲んだかわからず、安全の面で不安を抱えていたけれど、BOTLTOはお店から直接購入できるから安心」と言っていただいたりします。他にも、薬や白湯を飲むためにBOTLTOを使われる方もいますし、お茶やコーヒーを購入される方ももちろんいます。

 

ー店舗側は、BOTLTOを使うことで何かいいことがあるのでしょうか?

BOTLTOでは、飲み物の種類も量も値段も自由に設定していただくことができます。なので、今までテイクアウトでは販売していなかった素材、例えば水にもお湯にも価値をつけて販売していただくことができます。蕎麦屋さんが、薬膳茶や蕎麦つゆ、蕎麦湯を出されたいというのもBOTLTOならではですね。コンビニや自動販売機ではなかなか見かけないものなので(笑)。もちろんマイボトル用の飲料なので容器代もかかりません。普段お店で出しているものも、お客さんのボトルに注いでいただくだけでいいようになっています。BOTLTOはお店側の販売の可能性を広げ、費用対効果も高めます。私たちと一緒に環境問題に取り組んでくれている加盟店さんに少しでも潤っていただきたいんですよね。

 

プラスチックが引き起こす環境問題

ー環境問題に取り組んでいこうと思われたきっかけはありますか?

国際コンサルティングや海外での再生可能エネルギー事業に関わる中で、海外の廃棄物最終処分場に行く機会がたくさんありました。特に途上国と呼ばれる国で顕著なのですが、そこではごみが分別されることもなく捨てられているんです。プラスチックも生ごみも、缶もタイヤもなんでも一緒に捨てられています。そこに住む人々のごみ問題に対する意識も低く、分別が定着してないだけでなく、すべてを焼却しているような場面にも遭遇しました。そういった現場を見てきたことが、この事業を始めた大きな理由です。

 

ーごみ問題への課題意識を持つ中で、特にペットボトルの削減に着目したのはなぜでしょう。

オーストラリアで友人がウォーターサーバーの事業をしていて、それを協業という形で手伝ったのが直接的なきっかけです。日本でも同じような仕組みを作れないだろうかと思い、ペットボトルの消費を減らせるBOTLTOの仕組みを思いつきました。今、プラスチックによる海洋汚染が叫ばれていますが、先述のように、プラスチックを分別せずに燃やしてしまう国もあります。そうすると有害な物質が発生するので、大気汚染にも繋がるんです。もちろん二酸化炭素も排出するので、温暖化の原因にもなっています。ペットボトルをはじめ、プラスチックを減らしていくことが様々な環境問題を解決する第一歩になると思います。

 

日本で環境問題に取り組むということ

ー海外と日本でごみ問題に対する意識の差はありますか?

日本でも年々意識は高まっていますが、欧米と比較すると、元々のスタートでやや遅れをとっていると思いますね。ただこれは、文化や経済、居住環境などの違いに起因すると思います。実はリフィルというのは、イギリスのパブでCity to Seaという団体が始めたキャンペーンから広まったと言われているのですが、最初はみんなマイボトルを持ちましょう、そしてお店も水道水をシェアしてあげましょうという活動だったんです。しかし同じことを日本でできるかと言われると、難しいと思うんです。人はたくさん来るし、賃料も高いので、無料で提供するというのはお店にとって将来的なコストになってしまいます。このように、文化的、環境的な差が最初の差を作ったのではないでしょうか。

ペットボトルの消費に関しても、前提の環境が大きく違うので、単純に比較することは難しいです。日本は災害が多いので、備蓄用の飲料が必要になります。そうすると、ある程度の期間、安全に保存しておくためにはペットボトルが必要なんです。じゃあ、どこまでは必要な量で、どこからは不要なのかという議論になりますよね。この答えを出すのは難しいです。ただ、環境問題を考えると、やはりペットボトルの消費は減らしていかなければいけません。必要性と環境配慮は、バランスを取っていくことが必要なのではないでしょうか。日本ではリサイクルや軽量化など、環境にやさしい技術革新も進んでいますので、いろいろなアプローチ方法がありますが、BOTLTOもペットボトル消費を減らす手段の一つとして、もっと多くの方に活用いただきたいですね。

 

ー事業を進める上で、日本の文化に合わせて工夫されていることがあれば教えてください。

日本では、習慣化するとそこからの安定性は高いと思っているので、いかに自然にライフスタイルに根付かせるかということがポイントだと思っています。最近有料化が始まったレジ袋も同じだと思うのですが、「環境問題が深刻で」「プラスチックごみが汚染の原因に」と叫ぶより、「じゃあそれに代わる方法にはこういうものがありますよ」と行動を提案して、気付いたら当たり前になっているというのが理想ですね。

BOTLTOに加盟いただいている小田急電鉄喫茶室さんでは、社員の方々がどんどんマイボトルを持参されるようになって、短期間でリピーターが付いた実績が出ています。カフェなどが行っているマイボトル割引とは違う視点で、BOTLTOは容量が大きくてお得な場合も多いです。そうすると、テイクアウトや自動販売機などの従来の方法から自然とBOTLTOを使ってくださるようになる。そしていつの間にか毎日マイボトルを持ち歩くようになっているんですね。このように、私たちの周りでは、BOTLTOをきっかけにマイボトルがいつもの持ち物になったという方が増えています。

 

ー海外でお仕事されることも多かったと思うのですが、日本で始めたのには何か理由があるのでしょうか?

日本は人口が多くて、持続可能なサイクルを回す経済のフィールドとしてチャレンジする意義があるんじゃないかと思ったというのが理由です。規模を小さく行うと、テストマーケティングで終わってしまったり、実証実験で終わってしまったりするけれど、日本の皆さんに向けて実際に実行することが、一つの経済圏を回す実証実験になると思うのです。登録しているお店の関係者を増やし、環境省でも進めている地域循環共生圏を生み出すことが、結果的にペットボトルの消費を減らしていくことに大きく貢献すると感じ、今回の事業に関しては日本を最初のフィールドにすることを決めました。

 

ー飯田さんの考える、地域循環とはどういうものですか?

地域循環とは、地域で循環可能な資源はなるべく地域で循環させ、経済が回っている状態をつくること。つまり持続可能な経済圏を生み出すことだと考えています。街がみんなで豊かになって、お金だけでなく物や人の循環も生まれていくのが理想的ですね。

具体的には、環境省の提唱する「地域循環共生圏」という考え方を基本とすれば良いのではと思っています。環境省の定義によると、「地域循環共生圏」とは、各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方です。こちらは、国連「持続可能な開発目標」(SDGs) や「パリ協定」といった国際な潮流や複雑化する環境・経済・社会の課題を踏まえ、複数の課題の統合的な解決というSDGsのも活用した経済循環の考え方です。

参考:環境省 地域循環共生圏 https://www.env.go.jp/seisaku/list/kyoseiken/index.html

 

ー最後に、飯田さんが目指す社会とはどういうものですか?

BOTLTOは、地域で経済が回るようになるツールのひとつになれればと思っています。BOTLTOを通じて、利用者さんと店舗さんが一緒に豊かになる、そして社会全体でプラスチックが減っていくといいですね。
あとは、コロナによって飲食店の売り上げが大きく減少したり、テイクアウト需要の増加によって容器ごみが増えたりということも問題になっているので、ぜひ多くのお店さんにBOTLTOで「中身だけ」を販売いただき、一緒に問題に取り組んでいければと嬉しいです。

 

BOTLTO HP https://botlto.jp/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

     

    writer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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