対話を生活のインフラに。自分らしく生きるための人生の学校とは
インタビュー

対話を生活のインフラに。自分らしく生きるための人生の学校とは

2020-07-18
#キャリア #場づくり

日本で対話をインフラにしたい。そんな想いで生き方テラコヤを創業し、多くの若者に対話や自己理解の場を届けている山田瑠人。日本の若者に今、対話と自己理解が求められている理由、そして対話を通した自分・他者との向き合い方について聞いた。

【プロフィール】山田 瑠人(やまだ りゅうじん)
1995年生まれ。大学時代は塾の運営など教育に関わる様々な活動に携わってきた。デンマークでの視察から着想を得て、2019年に対話と自己理解を用いた「人生を創造する学校」がコンセプトの生き方テラコヤを創業。ワークショップやコーチングを通して自分自身を深く理解し、人生を方向付けるプログラムを運営している。

 

「自己理解」の学校

—生き方テラコヤについて教えてください。

生き方テラコヤは「自己理解の学校」です。着想はデンマークにある成人教育機関「フォルケホイスコーレ」から得ています。この教育機関は、人生の様々なタイミングにある生徒が集まり、対話の中で人生を深く見つめ直し、その後の人生の方向づけをしていくためのものです。

2年前にその学校を視察したとき、このような教育機関こそ今の日本に最も必要だと思ったんです。それがきっかけで日本のミレニアル世代やZ世代と呼ばれるような僕ら若者に向けた日本版フォルケホイスコーレとして、生き方テラコヤを始めました。
現在は、オンラインサロンと塾を足して2で割ったような会員制のコミュニティスクールとして運営しています。具体的には、会員向けに自己理解にまつわる対話型のワークショップを定期開催したり、コーチングを提供したりしています。

 

—そもそも「対話」とはどのようなものなのでしょうか?

多くの人が対話というものに対して、「円になって話すちょっとエモいアレ」とか、「意見を尊重しすぎてなかなか結論が出ないアレ」みたいなイメージを持っていると思うんです。その一方で、僕は「対話」というのは「共にコミュニケーションの根幹を観察する創造的な手法」だと思っていて。普通に議論していると、うまく話が進まないなど色々な問題に直面すると思います。そのときに、見えているコミュニケーションの裏側にはどのような価値観や信念があり、それらがどのように相互作用してねじれや難しさを起こしているのかということをそれぞれが観察し、伝え合うことで、コミュニケーションの取り方自体を変えていく。これが対話です。
議題に対して結論を出す上では確かに時間がかかるかもしれませんが、一人で出せない答えや集合的に本当に願っていた答えを浮かび上がらせていくことができると思っています。

 

—対話ワークショップとは具体的にどのようなことをするのですか?

対話ワークショップには特定のテーマがありません。5~15人程度の参加者が集まり、そこにいる一人ひとりの直近の課題や問い、モヤモヤが話題の中心になります。その中でも全員で取り組むときもあれば、複数人で問いを深めたり、違う話題を持った人たちで視点を広げたりします。問いかけや会話を通して「その人が顕在的には気づいていないけれど潜在的に避けていることや願っていること」にまで踏み込み、自己理解を深めていくのがこのワークショップです。

 

—生き方テラコヤとして大切にしている想いは何ですか?

生き方テラコヤのコンセプトとして「自分として生き、共に創る」を掲げています。

「自分じゃない何者かになろうとする」のではなく、自分が自分としてより良く生きるにはどうしたらいいかを考える。それは自分勝手に生きるということではなく、周りにいる誰かの自分らしさも尊重しながら共に生きるということ。そして、自分も他者も「自分らしさ」を表現できるコラボレーションを生み出していく。この考え方をワークショップや日々の対話の中で推進しています。

 

—山田さんには3年前にもインタビューさせていただきました。その時は「学習塾こかげ」という中高生向けの塾を運営されていましたが、生き方テラコヤで対象を大学生や社会人にされているのはなぜですか?

300円で通える塾。込められた思いとは?|taliki org 

人間は成長する過程で、少しずつ様々なアイデンティティに自分を重ねていきます。しかしそれまで作ってきたアイデンティに”限界”がくるタイミングがあると生涯学習に関わる中で気づきました。そのタイミングでは、これまでやってきたやり方や生き方がだんだん通用しなくなって体や心が不調を起こしたり、絶望的に家族関係がうまくいかなくなったり、「この先、人生どうしよう」と本気で悩むんです。これって「中年クライシス」って言われるようなことで、本当は40代50代で起こりやすいと言われているのですが、現代は情報や体験が溢れすぎたせいで、その年齢が前倒しになっているのではないかという仮説があります。
しかし、そのような若者が経験するクライシスを日常レベルで本質的にサポートしているサービスってあんまりないなと思ったんですよ。だからこそ、生き方テラコヤはミレニアル世代とZ世代を対象にしています。

 

違いを認め、信頼の上に築く対話

—参加者の方々は、学生と社会人が4対6でかつ社会人の職業もバラバラと伺いました。どのような交流が生まれるのでしょうか?

やっぱり職業が違うと価値観や前提が全く異なるので、コミュニケーションコストは絶望的に高いんです(笑)。一方で、その違いのおかげで自分が属している環境、無自覚に持っている価値観や信念がいかに固定的なものかに気づくケースがとても多いです。
とある対話ワークショップの中で、「私は学生だからこれはできない」とか、「自分は社会人だからこうするべきだ」という話がたくさん出てきて。なぜそう思うのかを深く聞いていくと、自分のアイデンティティを学生や社会人という身分に収束させてしまっていたんです。それはその人の一部でしかなくて、他にも色々な側面があるということに対話の中でみんなが気づいていったということがありました。

 

—自己理解の手段として対話を選ばれた理由は何ですか?

大学時代、塾の運営に加えて様々な教育に関する活動を行ってきました。その中で、「教え手」と「学び手」の境界線があることにずっと違和感を持っていました。その人が抱えているものを十分に扱う上では、そのようなラベリングが枷(かせ)になっているのではないかと感じていたんです。
そんなとき、デンマークに視察に行き、教育制度だけでなく国自体にとても感動しました。この国が世界一幸福な国と言われる背景に、対話と民主主義と持続可能性の3つの要素があり、その根底には「年齢や職業、宗教などは関係のないところで生物はそもそも対等であってお互いをリスペクトしあえる」っていう信頼の土台があるなと思いました。

そのような信頼をベースにしながら、「教え手」と「学び手」の境界線がない対話を教育に活用することができたら、これはとんでもない可能性を秘めているのではないかと思ったことが、対話を選んだきっかけです。

 

—複数人で行う対話だけでなく、一対一のコーチングも受けることができると伺いました。

対話ワークショップでは、対話を通して他者との違いから、まずは自分が無自覚にとらわれていた信念や価値観に気づく。そうすると、自分はオンリーワンな存在で誰とも違うんだということにも気づいていきます。その結果、自分が持っているものは自分にしか表現できないから表現しなきゃと思うようになるんです。
そこでコーチングを通して、「実際にどんな世界をどのような方法で表現したらいいか」をコーチが寄り添って紐解いていきます。ただ目標を達成するためにコーチがいるのではなく、その過程にある表現への不安や恐怖などとも向き合いながら伴走していきます。コーチングは生き方テラコヤのコンテンツの中でもイチオシです。

 

自分の声に耳を傾ける

—山田さん自身は、自己理解とどのように向き合っているのでしょうか?

前提として、自分が認識している世界が完全に自分の映し鏡だと思うようにしています。あの人が話を聞いてくれないとか愛してくれないとか色々な不満が外部環境に対してあると思うのですが、それらは不思議なくらい自分の内側を映し出しているんです。だから起こる現象全てを自己理解の素材にしています。
例えば、マウントとってくるやつめっちゃ嫌いだなと思っていたけど、よく考えてみたら実はマウントとりたい自分を抑圧していたことに気づくとか。そうしていると自分と世界の境界線が曖昧になってきて、楽しいんですけど時に病みます(笑)。

 

—普段の対人関係で意識されていることはありますか?

対話から始めることですね。具体的には100人いたら100人それぞれが何かしらの物語や秘密、光や闇を抱えているんだろうなって思うので、相手の振る舞いや言葉に脊髄で反応しないようにしています。嫌悪感や怒りを持ってしまうと、何かと都合をつけて「あいつはああだからあんなことをするんだ」というように勝手に色づけしたり悪者扱いしたりしてしまう。でもそうではなくて、どんな背景があってそういう行動があったのかなっていうのを聞いてみる。そして自分もどういう気持ちになったとか、それには自分にこんな信念があるからだとか相手に伝えることを意識しています。

 

対話をインフラに

—生き方テラコヤを通してどのような未来を作っていきたいですか?

対話や自己理解をインフラにしたいという思いがあります。「水道・電気・ガス・インターネット・対話」みたいな(笑)。

そもそも人間が言葉を使い、社会の中で生きてきたという歴史を考えると、言葉を使ってコミュニケーションをとり、社会的に生きるという能力自体が、本来人間という種にインストールされているのではないかと思います。しかし、文明の発展の中で効率性や合理性を追求するあまり、そのような能力の重要性を過小評価するようになってしまったのではないでしょうか。改めて人間に元来備わっているコミュニケーション能力を開花させるためには、対話をインフラにする必要があると思っていて。対話から始めることや外側にある何かを変えようとする前に自分の内側を変えるということが常識になればいいなと思うんです。

だからこそ生き方テラコヤをいつか学校にしたいですね。実際に校舎を構え、進路選択のタイミングで選択肢に上がるような一つの文化にしたいです。生き方テラコヤに限らず、生涯対話や自己理解をベースに学び続けられるようなシステムや文化を日本で育んでいきたいと思います。

 

生き方テラコヤ https://twitter.com/ikikataterakoya

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

     

    writer
    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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