ベルリン発・土に還るおむつ。世界中の地域で捨てない循環を起こすシステムを作る。

3-dimensionalな循環をつくる、ブルーエコノミーの理念

ーアーティストとしての活動から得られた着想を、DYCLEという事業としてビジネス化する上で、『ブルーエコノミー』の考え方を大事にされているそうですね。ブルーエコノミーとはどんな考え方なんでしょうか?

ブルーエコノミーは起業家のグンター・パウリ氏が提唱する、ゼロ・エミッションを実現する新たな循環型ビジネスモデル構築のための考え方です。ブルーエコノミーの原則は複数あるのですが、以下が基本理念です。

The Blue Economy respond to basic needs of all with what you have, introducing innovations inspired by nature, generating multiple benefits, including jobs and social capital, offering more with less.

DYCLEの事業を作る上で、私たちは4つの考え方を重視してきました。1つずつ説明します。

(1)自分たちが持っているものを使って、基本的ニーズについての開発をする

基本的ニーズというのは私たちが生きていくのに必要な最低限の基準のことで、例えば水がきれいであること、空気がきれいであること、海が生態系を保っていること、土が肥沃であることなどを指します。そうした条件を作り上げるためにビジネスアクションを起こそう、と言っているんです。また「自分たちが持っているものを使って」というのは、例えば日本でビジネスに取り組むのであれば、海外から素材などを仕入れるのではなく日本にあるもの、地域にあるものを使うべきということですね。

(2)自然にインスピレーションを受けてビジネスを行う

絶え間なく変化し、イノベーションを起こし、多様性に富んだ自然からヒントを得てビジネスを行うことが重要です。また自然というものは最適化され、効率的に動いています。したがって自然にインスピレーションを受け、利用可能な材料とエネルギーの使用を最大化することで、より良いビジネスを行うことができるんです。

(3)multiple benefitsを生み出す

ブルーエコノミーにおいては何か1つの製品だけを作って商品として売るのではなく、生産の過程で出てくる副産物は次の生産活動の素材となり、色々なサービスを提供できるビジネスモデルを構築したりといったことが必要です。ゴミがなるべく出ないように物を長く使ったり、再利用したりするサーキュラーエコノミーを2-dimensional(平面)な循環と捉えると、副産物をゴミにせずに再生するブルーエコノミーは3-dimensional(立体)の循環とも捉えられると思います。

(4)雇用創出やsocial capital(社会資本)を含むビジネスをする

自分たちがビジネスをしている街に雇用を生んだり、social capital(社会資本)、すなわち人々の結びつきや信頼関係を生むこともブルーエコノミーの理念のひとつです。例えば日本から事業を立ち上げるときに、生産を中国の工場に委託したり最初からヨーロッパに販売したりするのではなく、日本で、できれば地域で人を雇って生産し日本で販売をすることが望ましいですね。

 

途上国を含む世界中の人たちが、自分たちで肥沃な土を作れるように

ーご自身の着想とブルーエコノミーの理念を反映しながら事業を作っていく上で、感じた障壁などがあれば教えてください。

私たちのプロダクトは天然の素材を使って作られているのですが、既存のおむつを作る製造ラインでは私たちの素材が規格にはまらず、1から製造ラインを作らなければいけなくなるという難しさはありました。例えばプラスチックをリサイクルされたプラスチックに変えるくらいの変革であれば、既存の製造ラインでも適応可能かもしれません。ですが私たちの素材は自然のもの、しかも化学処理をしていないそのままの素材を選びました。天然素材は毎年の気候や生産状況によって微妙に変化し、均一ではありません。規格外の素材は1つの大量生産ラインに乗せることができないんです。おそらく今後私たちのように、新しいビジネスを起こしていこうとする人が抱えることになる問題なのではないかと思いますね。

私たちは現在生産ラインの機械を新しく開発することに取り組んでいますが、1つのスタートアップが独力で実現できることではないだろうなと思います。私たちの作るものは、比較的安く簡単に導入が可能なものにしようと取り組んでいるんです。おむつを製造するための生産ラインって、従来のものだと1台で600万ユーロ(日本円で約7億7,000万円)くらいするんですよね。現在「DYCLEのシステムを導入したい」と興味を持ってくださる方のうち40%くらいは発展途上国の方なんですが、600万ユーロ払って買ってもらうのは現実的ではないです。ドイツからおむつインレイを世界中に輸出するのは、環境にもよくありません。世界中の人たちが、自分たちの国で同じ機械を作って、自分たちの国にある素材を使ってDYCLEのようなシステムを導入できるようにしたいんです。分散型の生産システムです。イメージとしては3人くらいの人力を使いつつ、生産ラインをセミオートマタイズできるようなものを作っています。

 

初期段階は市民有志を募って作っていた

 

ー自分たちが持っているものを使ってビジネスをするということを大事にされているということですが、日本ではコスト面の問題で海外に製造を委託することも多いと思います。どのようにすれば自分たちの持っているものによるビジネスを実現できるんでしょうか。

費用のことを考えるとき、コストダウンを至上命題にしてしまいがちですが、私たちは多様な収入源を持つことでクリアしています。おむつを作って売るだけでなく、おむつから作った堆肥や、堆肥を使って育てた作物の苗を売るといったことですね。ブルーエコノミーの重要な考え方の1つである「multiple benefitsを生み出す」を反映した形です。色々なキャッシュポイントを持つことで、コスト削減に固執せず自分たちの地域で事業を形作ることができるのではないかと思います。

 

地域で生活する全ての人が、何らかの形で課題に取り組める社会へ

ー日本と比べると、ドイツは環境問題に関する市民の意識が高いイメージがありますが、例えばブルーエコノミーなど、新しく提唱されている考え方は市民の中にも浸透しているんでしょうか。

あまり知られていないと思います(笑)。ただ日本とドイツの違いとしては、身近な環境課題について考えたいと思ったときに、選ぶことができるオルタナティブなサービスや商品がたくさん存在しているという点は挙げられると思いますね。大手の企業が環境に良い商品を作っていないんだったら自分たちで作ってみよう、という考え方が浸透しているんです。スタートアップがどんどん出てくるし、いち早く人々のニーズに気づいて、最初の製品の質はともかく市場に出してみようという意識がある。消費者側も最初からハイクオリティを求めているわけではなく、使いづらかったらみんなで磨いていこう、というスタンスの人が多いと思います。私たちのプロダクトも生分解性で堆肥化できる材料を色々試した中で、暫定ベストな材料を使って作ったものなので、まだまだ吸水性などの機能面で改善の余地がありますね。その点では今後もユーザーの声を反映しながら、みんなで磨いていけたらと考えています。

 

ーそんな違いがありつつ、日本でDYCLEのモデルを日本で実現するとしたら、どんなやり方が考えられますか?

日本だと、最近では地方に移住する若い方が増えてきているのを見ているので、地域で自分たちの力でゼロウェイストの生活を実現したいという人が出てきてくれるといいと思います。地方で自然からインスピレーションを受けながら、その地域で廃棄されるような農業廃棄物などでおむつを作り、それを土に返していきたいという理念を持っている方であれば実現までのサポートをさせていただきたいです。

2003年にゼロウェイスト宣言を出して、ゴミのリサイクル率が80%に達している徳島県上勝町の方からお話を聞いたことがあります。これだけ高いリサイクル率を達成している上勝町でも、紙おむつは分別が難しいそうです。このようにおむつの廃棄について問題意識を持っている方はいらっしゃるので、私たちから機械の提供や素材選びのサポートをすることで実現ができるのではないかと思います。

 

ー最後に、DYCLEの事業を通して、実現したい社会について教えてください。

とても大きく、自分がどうコミットしていいか分からなくなってしまうような、例えば環境問題などの社会課題に対して、街の全員で知らないうちに関わっていけるような社会にしていきたいです。例えば環境により良いおむつの話だって、お父さんやお母さんだけが関係する話ではないかもしれないです。「子供はいないけれどこの地域の土壌が少しでもよくなってほしい」「もっと無農薬野菜を栽培できる地域農家が増えたらいいな」とか「樹木を地域にたくさん植えることで水災害に強く、夏の気候上昇(ヒートアイランド)を緩和できたらいい」「植樹や季節の果物狩りのイベントに参加してみよう」といった色々な関わり方ができます。ブルーエコノミーのサイクルを全て完成させるためには、色々な人の関わりが必要です。地域で生活している全ての人が何らかの形でつながり、楽しんでいるうちに身の回りの環境を改善していたような社会になって欲しいと思いますね。

 

DYCLE https://dycle.org/en

 

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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer

掛川悠矢

記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

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