金融機関職員とベンチャーキャピタル投資家が語る、スタートアップの資金調達

お金って本当に必要ですか?

ーみなさんが融資をするときに気をつけていることはありますか?

津田僕が融資をするときに、その事業者さんにとってお金がこのタイミングで本当に必要かどうか考えるようにしています。事業が上手くいっていて拡大フェーズのときが特にそうなんですけど、人からお金を借りたり融資を受けたりしないとできないことなのか、もしお金がなかったらやらないのかということも見極めています。あとは事業ってやっぱり失敗してしまうことの方が多いので、上手くいかなかったときにその人がどんな対応をしていくだろうかというのもチェックするポイントです。紙の事業計画書だけを見て融資の可否を判断することは全くなく、その人自身の人柄や、他の人との関係性の作り方も見て決めることが多いです。事業計画の部分については、僕たちも一緒に考えていくことができますしね。事業者さんの未来を一緒に描いていくという意味でも、相談しながら一緒に計画を立てていきます。

 

中村:「ほんとにお金が必要?」って、お金を貸す側である金融機関の方が感じることって多くないと思うのですが、どういうご経験があってその意見にたどり着いたんですか?

 

津田:こう言うと語弊が生まれるかもしれませんが、金融機関はお金を貸して利子を回収することで儲けるビジネスモデルなので、結構無駄なお金を貸したがるんですね。「100万円必要だ」と言っている方に対して、「500万円にしておいたらどうですか」みたいな。でもこれって積もり積もっていくと気づいた頃には事業に必要な分以上のお金を負債で抱えてしまっているような事態になりかねません。お金が手元にあると、本来必要のない経費に使ってしまうことも多いです。そうなると事業の持続が難しくなり、銀行としても結局回収できなくなるような事態が往々にしてあります。金融機関が融資の必要性を正しく判断してお貸しすれば良いのですが、必ずしもそうとは限らないので、事業者さんもしっかりと本当に必要な借り入れなのか見極める力を持っていってほしいなと思います。

 

中村:なるほど。talikiも政策金融公庫さんからお借りするときに「本当にこれだけ必要ですか?」と聞かれたのを思い出しました。すごく新鮮だったのですが、こういうコミュニケーションが増えているんでしょうか?

 

津田:公庫さんは民間ではないので、たくさんお金を貸すのではなく、本当に必要なお金だけを借りてもらうと姿勢が強いのかもしれないですね。

 

融資を断るときってどんなとき?

中村:融資の相談に対してゼロ回答(融資金額のダウンなどではなく、1円も貸せないと断ること)するのってどんなときですか?

 

津田:質問に回答する前に、金融機関が融資をするお金って誰のお金なのかということをお話ししておこうと思います。金融機関はみなさんから預金としてお金をお預かりしていますよね。そのお金を融資などによって貸すことで、お金の循環を生み出し、必要な人に届けているんです。だからこそ、貸したお金はきちんと回収しないといけない。「みなさんから預かっていたお金ですが、回収できなかったのでみなさんにもお返しできません」となったら困りますからね。

ということで、みなさんの大切なお金を融資に回させていただいているというところがベースにあるので、融資をお断りするときも同じスタンスです。「あなたがダメだから貸せません」ではなく、「お預かりしている大切なお金なので、高い確率で回収する必要があります。今の状態だと回収が見込めないのでご融資するのが難しいという判断になりました。」ということをお伝えしています。1度断ったから2度と来ないでということもなく、今の状態だと難しいということを丁寧に説明しますね。最初はお断りしたけれど、2,3年お付き合いをして、3年後にご融資するようなケースもあります。

 

村上実際にゼロ回答するのは、タイミングが違うなというときが多いですかね。準備がままならない中で借り入れしてしまっても、返す見通しがないとどんどん借金が重なってしまって、やはり事業の継続性に難しい部分が出てくる。事業が続くためのポイントとして、消費者のニーズがあるというのももちろん重要なのですが、お金があることも重要です。たしかに借り入れや資金調達ができれば事業はいくらでも継続できますが、どんどん膨れ上がったら行き着く先は破産ですよね。担当させていただく方にはそういう風にはなってほしくないなという視点で、ゼロ回答させていただいています。

ゼロ回答になりやすい人のポイントとしては、事業をしていくための経験があまりなかったり、もしくは事業での売上の見通しが不透明であるという点があります。いろいろお伺いしたときに「やってみないとわかりません」と言われてしまうと、僕たちも客観的に事業の評価をできないからです。そういう場合は、正直ゼロ回答になってしまうのですが、事業計画のブラッシュアップから一緒にやっていきませんかとお声がけしています。我々は融資専門の金融機関だと冒頭で紹介させてもらいましたが、実は全国のところどころにビジネスサポートプラザというものがありまして、事業計画などのご相談に対応させていただいています。休日もやっていますし、今ならオンラインでのサポートもありますのでぜひご利用ください。ご融資の審査をする我々がインストラクターから最初に教わるのが「使途にはじまり使途におわる」というところ。お客さんに対して、これだけの資金が本当に必要なのかどうかは何度でもしつこく聞くように言われました。本当にお金が必要なのか、本当にこの金額でいいのか。事業のため、そしてお客様の人生のために、将来負債が膨れ上がってしまうことはないかといったことを一緒に考えています。私たちとしては500万円でいいのではないかと思いお話を重ねたものの、やはり1,000万円というところは譲れないというような方に関しては、お断りする可能性も高くなってしまいますね。なので、借り入れる資金の使途と金額というのは、しっかりとご相談できればと思います。

 

中村VC視点で補足すると、逆にVCは過去の実績やその人自身の経験・売上計画というのは金融機関ほど重視しないんです。むしろそれを積み上げていきたいのかという想いの部分がすごく大事で。だからこそ学生起業家って金融機関だと断られやすいと思うんですけど、私たちVCからすると挑戦できる時間が長い分、面白がって投資したくなる対象だったりします。そういうところで、金融機関とVCが役割分担できているんだなと感じました。

あとは、起業家って融資でも投資でもできるだけお金を引っ張ってこようとする傾向にある。お金さえあればといった風に、お金を伝家の宝刀のように感じてしまうようになりがちです。でもぶっちゃけ無料ツールもたくさんあって、お金がなくてもできることが増えている。例えばITサービスを作るにしても、最初は無料ツールで検証すればいいし、複数を組み合わせて商売することもできます。だからこそ、村上さんの” 融資検討の際は資金使途をちゃんと聞く”っていうのはすごくいいなって思いました。いかにお金をかけずに面白いこと、大きいことができるかというのは金融機関のみなさんやVCも含め、知恵を集積して地域でビジネスを盛り上げていくことができれば面白そうだなと思いました。今回のCOM-PJでは、お金がなくてもユーザー検証していく方法をみなさん体感いただけますので是非参加してください(笑)。

 

村上:本当にその通りだと思います。何事も小さく始めて、小さな成功体験を積み重ねていく。そうして成功事例が出てくると、大きなものを作っていけるようになります。個人的にはそれが環境変化の大きい今の時代に合った事業の仕方ではないかと思います。経営者としてはどんどんお金を集めて大きなパフォーマンスをしていきたいし、夢ある世界にみんなを引っ張っていきたいというのも十分わかるのですが、一方で金融機関の人間としては着実な事業成長で従業員の方々を守っていってほしいなという想いです。

 

良い経営者・良いビジネスとは

ーみなさんはこれまで数多くの経営者と関わってこられたと思います。良い経営者や良い事業にはどのような特徴があるとお考えですか?

津田”生きているお金”の使い方ができる方は、事業も伸びていくし返済もきちんとしていただける印象があります。簡単にいうと、ネガティブな資金調達ではなく、ポジティブな資金調達かどうかというところです。赤字で人件費や固定費を払うために借りるのがネガティブな調達の一例です。当然ベンチャー企業が創業期に借りることはあると思いますが、僕は事業が持続している中で補填資金を借りるのってあんまり良くないと思っていて。それに比べてポジティブな調達とは、そのお金で人材を育成するとか新しい取引先を開拓するといったような、お金の価値が次の価値に変わっていくようなものを指します。先ほど村上さんのお話にあった”資金使途”の話にも通ずるのですが、「とりあえずお金を貸してくれ」というのではなく、「こういう用途で使いたいから貸してほしい。こうやって返済する計画だ。」ときちんと説明できる方は上手くいく人が多いように感じます。

 

中村:未来のためにお金が使える人、次の価値のためにお金が使える人ということですね。

 

村上ベンチャー企業に限ると、パッションを持っていて数字が見えている人は事業を伸ばす確率が高いかなと思います。情熱は事業継続という観点で必要ですし、失敗してもめげずに何度もトライする姿勢にも繋がります。一方でその情熱を持ち続けるためには、ゴールを数字で示して、そこまでの道筋をしっかり説明できるかどうかが重要だと思います。過去に極端に赤字が出ている企業があったんですが、融資に結びついてたんです。なぜかというと、計画的な赤字だったからです。そこの経営者は、今後のユーザー数や売上の推移や、黒字に転換する時期についてしっかりと説明してくださいました。毎回数字をしっかり管理されていて、質問に対する具体的な数字がいつも返ってくる。私としても数式に当てはめて今後の事業を予測させていただいて、しっかりと黒字転換していくことがわかったので自信を持ってご融資に至りました。こういう方は、ベンチャーでも成功率が高いんじゃないかなと思います。

 

中村:津田さん、村上さんが挙げられたことと共通すると思います。VC特有の観点を付け足すと、社会起業家は特にファンの力が大事かなと思います。起業家の中でも株主からめちゃくちゃ愛されているとか、コアなファンがたくさんいるとか。愛されているということは、死ぬほどは転けないということなんです。本当に困った時に助けてくれる人が絶対にいるし、なんなら本当に困る前にお手伝いがどこからか飛んでくるみたいなケースがあって。それは経営者の”人間力”が出る部分でもあると思います。村上さんのお話で”数字を見る力があるかどうか”というポイントが挙がりましたが、一定数規模が大きくなれば、この辺りはチームで補完することができると思います。じゃあ、良いチームをどうやって作っていくのかというと、結局トップの人間力が必要じゃないですか。ですから、これまでに投資した人たちの共通項として、人として好きか、この人のために力を貸してあげたいか、一緒に働きたいと思えるかという点はあったかなと思います。

 

金融機関の良い人や良い投資家に巡り会うには?

ー起業家側からの目線として目的にあった機関に相談するのが大切だということはわかったのですが、良い人に巡り会うためにはどうすれば良いのでしょうか?

中村:これは金融機関とVCで全然違うと思います。VCならばみなさんが何を求めているかによって決めるべきです。例えば、シード期の起業家ならどれだけリソースを割いてくれる人なのかは重要なんじゃないかと思います。弊社の株主は、私が会社を設立する前からいろんな方を繋いでくださるなど、本当にたくさん力を貸してくれて、応援体制を作ってくださいました。金融機関さんの場合だと、お客さんをどのくらい紹介してもらえそうか、プロダクトにどのくらい詳しいか、専門的なアドバイスや壁打ちが可能そうかといったところを見るのもいいかなと思います。

 

津田:優しそうな人がいいですよ(笑)。金融機関の人って普通に店舗に行くと選択肢があまりないじゃないですか。どの支店にどんな人がいるという情報もあまりないと思いますので、可能であればVCの人や経営者仲間に「金融機関の良い人知り合いにいませんか」という感じで聞くのが良いと思います。

 

ー自分の地域の支店じゃないところに相談しても良いのでしょうか?

津田:最近は地域ごとに割られていて、最終的には事業所やご自宅の近くの支店になってしまうと思いますが、最初は住所関係なくご相談いただいて良いと思います。

 

村上:弊行もいろいろな人がいるので合う合わないはあると思います。相性は難しいところだと思うんですけど、確率を上げるためにはKRPさんをはじめとする支援機関にまずは相談をして、そこで資金調達の連携先を紹介していただけば良いかと思います。そうすると良い人に出会える確率を上げることができるかなと思います。

 

【COM-PJとは?】

社会課題の解決を目指し起業したい25才以下の方(創業1年未満、起業準備中など)を対象とした、支援プログラムです。

仲間たちとの毎週の進捗報告会の他、経営者やVCなどの豪華メンターからのフィードバック、講演会などが毎月開催されます。

参加費は無料です。詳細はこちらのリンクから!

https://www.talikikrp.work/

 

第2次応募締め切りは【6月18日(金)23:59】です。

 

読者アンケートご協力のお願い
いつもtaliki.orgをご愛読くださりありがとうございます。
taliki.orgは、2020年5月のリニューアルから1年を迎えました。
サービスの向上に向けて読者の皆さまへのアンケートを行っております。

3分程度でご回答いただける内容となっております。ご協力よろしくお願いいたします。

 

アンケート回答はこちら

 

writer
細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

talikiからのお便り
『taliki magazine』に登録しませんか?
taliki magazineのメーリングリストにご登録いただくと、社会起業家へのビジネスインタビュー記事・イベント情報 ・各事業部の動向・社会課題Tipsなど、ソーシャルビジネスにまつわる最新情報を定期的に配信させていただきます。ぜひご登録ください!