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「地方創生」と、よく言われるものの。

taliki編集部 2017年6月27日
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札幌の大学生に「田舎」という選択肢を提供する『いなかっぺ』で代表を務めていた山本さん。”地方創生”というラベルをもたない新しい「機会提供」の形で、小さな積み重ねを実践します。

僕は『いなかっぺ』という学生団体の代表を務めていた。

主な活動内容は夏休み期間中、北海道は余市郡仁木町という地域の農家さんのところへ学生を送り込み、農業アルバイトに従事してもらいながら地域にみんなで足掛け一ヶ月ほど宿泊し、一泊二日やそこらの旅行では味わえない魅力を感じようというものだ。

参加する学生の多くは「夏休みか。どうせ暇だし、農業アルバイトってのも面白いかもな」というテンションで応募してくれる。

しかし地域で暮らすということは、ただお金を稼いでメシを食うだけのことではない、という当たり前のことに彼らは気づく。

始めはぼんやりした雰囲気の(失礼)学生らが、『いなかっぺ』の夏を経ることで一皮むけていく。

昨夏は下宿する家の隣のおばちゃんが毎日のように畑で採れたナスをくれたり、作りすぎたと言っては煮物を持ってきたりしてくれたのだが、始めはただもらっていただけの学生達が三、四回目からはお返しを考えるようになる。

ロクに包丁も握ったことのない学生がおばちゃんのためにと、もらったナスで煮びたしを作り始める。

地域に溶け込む瞬間だ。

 

祭りの神輿を担ぐことなども、都会にいては意外と少ないもの。

だけど田舎だと若いモンは全員駆り出される。

箸より重いものを持ったことがなさそうな文学青年が、祭りの神輿は横から見ているよりも自ら担いだ方が断然楽しいことを知る。

 

ところでこの『いなかっぺ』、活動場所や一次産業との関り、地域住民との交流などの要素から、地方創生活動の一環として認識されることがある。

 

先日、和歌山の高野山にて行われた地方創生会議なるイベントにも呼んで頂いた。

全国46都府県から参戦する学生ら同様「学生アンバサダー」なる肩書を頂き、さも地方創生に関わっているような顔をして、僕も北海道代表として出席させて頂いた。

 

しかし、僕は自分の活動を「地方創生」と位置付けたことはない(実際、僕を呼んでくれた主催者にもそう説明した上で会議には参加した)。

『いなかっぺ』三代目代表として僕がやろうとしていたのは、もっと小さなことだ。

 

『いなかっぺ』に参加してくれる学生たちの、人生における何かしらの選択肢として、「地域」や「田舎」があってもいい。

働く場所にする人がいてもいいし、住むことを考える人がいてもいい。

心が疲れたときにちょっと遊びに行く程度の人がいてもいい。

 

そんな小さな妄想だけを抱いて、僕は『いなかっぺ』の活動をしてきた。

地方創生会議への参戦にしたって、そんな小さな武器のみを携えて行ったわけだ。

本音を言えば、霊験あらたかな聖山にて僕は自分の提供出来るモノの少なさに歯がゆい思いをした。

だけどそれは今に始まったことではない。

これまでも活動について取材を受けたり、地域活動家を名乗る人に地方の未来について展望を訊かれたりすると、その多くが僕に当惑した。人によっては僕に失望する。

それはそうだろう、

僕は地方創生という言葉の意味も知らず、「札幌の学生に機会提供している」としか答えられないのだから。

 

世界人口が70億を突破している現代において、格差、貧困、飢餓、人口減少など社会課題と呼ばれる大きな問題と、一市民との間には、巨大な渓谷が横たわるように見える。

社会課題解決などという旗印を掲げることは、何かしらのカリスマ的素養を備え、既に大きな影響力を持つ人間の特権のように多くの人が認識している。

 

僕もどちらかというと思考が行動に先行しがちで、なかなか行動に起こせないことが間々あった。

巨大な渓谷は、社会と個人の間にあるのではなく、むしろ僕個人の中にあったのだ。

だけど、一人の人間に出来ることはたかが知れている、と最近は良い意味で諦めがついた。

大切なのは、始めは巨大すぎるように思える社会の課題でも、実は小さな要素の積み重ねから成り立っていることを知ることだ。

 

僕の小さな妄想も、積み重なれば大きくなる。

最近では、「誰もが自分のライフスタイルを追求できる社会を造る」なんて妄想を抱いている。

『いなかっぺ』を経て、次の夏にもう一度仁木町を訪れる者、北大生と周辺地域住民との交流イベントを運営する団体に参加し始める者、長期の留学を決める者、なぜか駅前の料理教室に通い始める者。

彼らが一歩踏み出すための勇気を、ひと夏の田舎暮らしで得てくれたのではないか。

これこそ妄想に過ぎないのかもしれないが、それをもし本当に仕組みや形にしていくことが出来ればそれは社会に対しての価値提供となる。価値が提供されれば利益を生み、それが仕事を生む。仕事として成立すれば本当に社会に対してもっと大きな影響を与えることが出来る。

僕はまだ自分の妄想を井の中で叫んでいるだけの小童に過ぎない。

でも勇気を出して声に出せば、同じ妄想を抱く輩が集まる。誰でも橋を架けられる。架け方が分からなければ、学べばいい。

これが中々どうして面白い。

 

語り手:山本洋司

地域土着型サークル『いなかっぺ』元代表。知らない人によく道を訊かれます。高校時代のプチ不登校や三浪を経て、北海道大学理学部地球惑星科学科の現在4年生。株式会社POLとkokokara Groupでインターン中。趣味は飲み会の幹事、誰かの応援、落語鑑賞など。

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taliki編集部

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社会課題を身近に、楽しく、カジュアルに伝えていくことをモットーにしつつ、真剣に、追い込まれながら記事をアップしています。記事に関する感想、疑問、その他コメントは下のお問い合わせからお送りいただけます。

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