平和は誰が担うのか? -BEYOND2026の前に-
コラム

平和は誰が担うのか? -BEYOND2026の前に-

2026-10-26

2026年10月30日(金)・31日(土)の2日間、株式会社talikiは、京都市、京都リサーチパーク株式会社とともに、ソーシャルカンファレンス「BEYOND2026」を開催します。

10回目となる今回のテーマは「平和」。

平和とは、磨き上げられた窓ガラスのようで、丹念に磨かれるほど、私たちはその存在を忘れてしまいます。そして、そのガラスが割れたとき、すなわち、当たり前だった日常が揺らいだときになってはじめて、私たちがどれほど脆く尊いものに守られていたかを知るのです。

いま、成長が叫ばれ、パーパスが語られ、市場が利益を祝う裏側で、そのガラスを守り続ける人々の存在や、彼ら彼女らが引き受けているリスクやコストは、しばしば見落とされています。しかし、私たちが享受する豊かさは、そうした人々の献身と負担の上で辛うじて成り立っているのかもしれません。

平和は誰が担うのか?

BEYOND2026では、起業家、企業、行政、投資家、NPO、学生など、全国からあらゆるセクターが集結し、私たちが享受する平和というインフラをいかに産業全体で守り、持続させていくべきかを考えます。

BEYOND2026に先立って公開する本稿は、当日共に考えるための、いわば思考の準備運動です。答えは示さず、むしろ、読み終えたときに、自分ならどう考えるか、誰と何を議論したいかという問いが生まれることを大切にしています。

平和を支えることは、誰か特別な人だけの仕事ではないはずです。本稿が、あなた自身の立場から平和を考え、問いを持ってBEYOND2026に参加するきっかけになれば嬉しいです。

紛争は企業の経営とどうつながるか

紛争の影響に備える

お菓子の袋が白黒になる日が来ると、誰が想像していたでしょうか。

企業にとっても、戦争や地政学リスクは遠い国の出来事ではありません。紛争による資源価格の高騰や物流の混乱、重要物資の供給途絶は、企業の調達や事業継続に影響を及ぼします。実際に2026年には、ナフサ不足などに起因する原材料の価格上昇を背景に倒産した企業も確認されています(参考:朝日新聞)。

こうしたリスクに備え、調達先を分散したり、代替手段を確保したりすることは、企業経営において重要な課題となっています。供給が途絶えてから対応するのでは遅く、将来どのような物資や技術が必要になるのか、どこに新たな供給の可能性があるのかを見極め、平時から選択肢を育てておく必要があります。

しかし、需要の規模や収益性が見通せない段階では、代替技術の開発や新たな供給手段の確保のための投資判断が難しい場合があります。また、既存の事業や供給網が確立されているほど、新たな技術や資源を活用するには、追加のコストや事業転換のリスクが伴います。

こうした選択肢を生み出す重要な担い手として、ビジネスを通じて社会課題の解決を目指す「社会起業家」が挙げられます。社会起業家は、これまで十分に活用されてこなかった人材や技術、地域資源を生かして、新たな解決策を事業として形にする存在です。

たとえば、食用に適さない米を活用し、石油由来プラスチックの使用量を減らした袋を生み出す取り組みがあります。こうした事業は、廃棄されるはずだった資源に新たな価値を与えるだけでなく、石油に依存してきた製品の原料調達に、新たな選択肢をもたらします。

社会起業家との協働や投資は、社会課題の解決に貢献するだけでなく、企業が供給リスクに備えるうえでも、一つの手段となり得るのです。また、それはリスクへの備えであると同時に、将来の需要を先読みし、新たな事業機会をつかむための投資でもあるといえます。

 

紛争に加担せず、防ぐ

ひとたび紛争が起きてしまうと、紛争そのものを止めることは難しく、壊される人生や生活のほんの一部を救済することしかできません。紛争の影響に備えるだけでなく、自分たちが紛争に加担しないことや、そもそも紛争を防ぎ、なくしていくために何ができるのかを考えることも不可欠です。

ここで1つの事例をみてみましょう(参考:東洋経済オンライン、産経新聞)。

キリンホールディングスは2015年、ミャンマーのビール最大手「ミャンマー・ブルワリー」を買収し、国軍系企業との合弁でビール事業を展開し始めました。ミャンマー・ブルワリーは現地シェアの8割超を握る国民的ブランドで、2020年12月期にはキリンホールディングス全体の事業利益の約9%を稼ぐなど、海外進出の成功事例とされていました。

ところが2021年2月、ミャンマーで国軍によるクーデターが起こり、抗議する市民への弾圧や殺害が相次ぎます。政変後、合弁事業の配当金が国軍系企業を通じて国軍の資金源になっているという批判が強まり、現地では市民による不買運動が広がりました。意図していなかったとしても、自社の事業から生まれた利益が、市民を弾圧する側を支えていたかもしれないのです。

結局、キリンホールディングスは累計680億円の減損損失を計上し、2022年にミャンマー事業からの撤退を決めました。紛争への加担は、人々の命や暮らしを損なうだけでなく、企業自身にも大きな経済的損失をもたらします。自社の事業が誰とつながり、その利益がどこへ流れているのかを平時から見つめ、紛争に加担しない選択をすること。それは倫理的な要請であると同時に、経営として合理的な判断でもあるのです。

ただ、加担しないことは、平和を支えるための最低限の条件にすぎません。その先にある、紛争そのものを防ぐという問いに、私たちはどれだけ向き合ってきたでしょうか。安全保障をめぐる議論は、ともすればタブー視され、十分に語られているとはいえません。

その背景には、政策決定やテクノロジー投資、人道支援の現場で何が起きているのかを、私たち自身が十分に知らないことがあるのではないでしょうか。実情を知らないままでは、それぞれの選択が平和に何をもたらすのかを考えることも、立場の違いを超えて対話することも難しくなります。まずは現実を知ることが、議論の出発点になるはずです。

 

日常の平和を誰が支えているか

では、戦争が起きていなければ、私たちは平和に暮らせていると言えるのでしょうか。

夜、ひとりで道を歩くことに不安を感じ、帰り道や外出する時間を気にかけなければならない人がいます。経済的な事情や家庭環境から、望む将来を諦めざるを得ない子どもがいます。差別や偏見を恐れ、自分らしく振る舞うことをためらう人がいます。困っていても誰にも助けを求められず、孤立している人もいます。

平和学では、戦争や直接的な暴力が存在しない状態にとどまらず、差別や不公正などによって人々の尊厳や機会が損なわれていない状態も平和に必要だと捉え、その実現が目指されてきました。平和を支える取り組みとは、国家間の紛争を防ぐものだけではありません。誰もが安心して暮らし、社会に参加できる環境をつくることもまた、平和を支える営みなのです。

社会起業家やNPOは、こうした営みの重要な担い手です。貧困、教育格差、医療・福祉へのアクセス、障害のある人の社会参加、地域での孤立、防災。既存の制度や市場では十分に応えきれない分野で、一人ひとりの声を拾い、困難に向き合いながら、解決に向けた取り組みを続けています。

たとえば、talikiの投資先であるAiCANは、見過ごされる児童虐待をなくすべく、児童相談所の業務をテクノロジーで支えています。また、同じく投資先のForestFolksは、手入れされずに荒れていく山を、木材やCO₂吸収の価値を生む資源へと変えることで、地域の治水や防災にもつなげようとしています。ほかにも、子どもの居場所づくりや、生活に困窮する人への食料支援、ひとり暮らしの高齢者の見守りなど、NPOを中心に地域で地道に続けられてきた取り組みが数多くあります。

しかし、こうした活動を必要とする人がいるからといって、それを継続できるが容易であるとは限りません。支援を必要とする人が十分な費用を負担できないこともあれば、効果が表れるまでに時間がかかることもあります。社会にとって必要な活動であっても、事業として収益を確保できなければ、継続は難しくなります。

ここで考えたいのは、こうした活動が支えているのは、困難を抱える一人ひとりの暮らしだけではないということです。人々の孤立や人口減少が進めば、地域の消費や経済活動が縮小し、インフラや金融サービスの顧客基盤も損なわれかねません。また、平時には必要性が見えにくく、事業として成り立たせることが難しい技術やサービスも、災害時には地域の暮らしを守る重要な選択肢になり得ます。社会課題に取り組む事業を支えることは、地域の持続性や将来の危機への備えにもつながるのです。

ここに、地域の企業や金融機関、投資家が関わる余地があります。資金提供だけでなく、人材・技術面での協力や事業連携、投資など、関わり方は一つではありません。社会起業家の活動を寄付やCSRの対象としてのみ捉えるのではなく、自社や地域の持続性にも関わる課題に、共に向き合うパートナーとして捉え直すことが大切です。

問われているのは、平和が損なわれたときの損失だけでなく、平和を支える活動がもたらす価値を、どのように捉え、支え続けるかということです。平和を支えることを、誰かの善意に委ねるのではなく、地域や自社の持続に必要な営みとして考える視点。いわば、「平和を帳簿に載せる」という視点が求められているのでしょう。

また、危機のときに力を発揮するのは、活動やサービスだけではありません。震災時に、日頃から交流のあった首長同士が直接話し合い、迅速な支援が実現した例もあるといいます。平時から築かれたつながりもまた、有事の際に暮らしを守る力になるのです。社会起業家、企業、行政、投資家、NPOが一堂に会するBEYONDも、そうした関係が生まれる場の一つになればと願っています。

 

おわりに

平穏な日常は、ある日当然崩れるのではありません。日々の分断や孤立、理不尽が積み重なった先で、大きな痛みになるのです。その痛みが生まれないように、社会起業家やNPOなど、日々の平和を歯を食いしばりながら守っている人たちがいます。

しかし、社会起業家だけに、平和を担う責任を委ねることはできません。人々の尊厳を守ったり、地域の持続可能性を高めたりすること。社会起業家が生み出す価値を認識し、活動が続いていくための資源を届けること。紛争を防ぎ、その脅威に備えること。これらは異なる取り組みですが、いずれも平和を支える営みの一部です。

企業には企業の、投資家には投資家の、行政には行政の役割があります。平和な社会を実現するためには、平和を守るために誰かが引き受けている負担や、平和を支えることで生まれる価値を見過ごさず、社会や企業の意思決定に反映させていくことが重要でしょう。

自分たちの事業や活動は、平和とどのようにつながっているのか。誰が担っている負担を、誰がどのようにして引き受けるべきなのか。そして、いまは見えにくい価値を、どのように社会の中で支えていけるのか。
その答えは、一つではないはずです。BEYOND2026での対話や出会いが、平和を支える新たな可能性や、自分にできることを見つけるヒントになれば幸いです。

 

BEYOND2026について

「BEYOND」は、社会起業家をはじめとした社会課題解決プレイヤーのためのソーシャルカンファレンスです。2018年からスタートし、これまでに9回開催、累計延べ3600名以上が参加してきました。

BEYONDの特徴は、「社会課題解決を志す人を全力で応援する場」であること。

現場で挑戦するプロフェッショナルの声や問いを起点に、事業成長に必要なリソースと、多様な知や視点が交差する時間をつくります。

記念すべき10回目となる今年は、日常が揺らぐ今だからこそ、社会・経済繁栄の絶対条件である”平和”のためにビジネス/ソーシャルセクターができることを共に考える2日間となります。

 

日時:2026年10月30日(金)/10月31日(土)
場所:京都リサーチパーク 4号館
料金:社会起業家 無料/その他社会人 5000円/学生 2000円
※詳細はチケットページにてご確認ください
主催:BEYOND実行委員会(株式会社taliki・京都市・京都リサーチパーク株式会社)

BEYOND2026 詳細・お申し込みはこちら
https://beyondtaliki.info/

※昨年開催のBEYOND2025 レポート・実績
【前編】BEYOND2025「再分配のはじまり」を開催しました!

 

執筆

taliki シンクタンク事業部 リサーチャー 六笠雄登

2025年東京大学大学院修了、専門は社会学。現在は、インパクト投資・社会起業家に関するリサーチを行う傍ら、島根県の離島・隠岐にて観光地域づくり・環境保全に関わる。

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